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第2章

第14話 御曹司に忍び寄る蛇

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月曜日というのは、どうして朝の目覚めが悪いのだろう。
それでもアラームが鳴る前に起きたのは、自分でも偉いと思う。

着替え下に降りると玄関から日本刀を持った涼華が入ってきた。

「朝の鍛錬か?」
「光彦君、おはよう。今度一緒にする?」
「そうだな、考えておくよ」
「約束ね、私シャワー浴びてくるから」

そう言って涼華は、浴室に向かった。
月曜というのに涼華には、そんなことは関係ないようだ。

リビングに行くと、木葉が和樹君と一緒に朝食の用意をしている。
料理ではなく、食器並べでいた。

「木葉、和樹君おはよう。二人とも早いな」
「おはよう、お兄ちゃん」「光彦、おは」

和樹君はわかるけど、何で木葉までいるんだ?

「木葉、泊まったの?」
「ううん、朝早く来た。ここのご飯は美味しい」

確かに、楓さんが作るご飯は美味しいと思う。
俺は、キッチンで料理をしている楓さんに

「楓さん、一人で大丈夫?人数増えたから本宅から誰か来てもらう?」

「光彦様、おはようございます。大丈夫ですよ。既に手配は済んでいます」

「そうなんだ。誰が来るんだろう?」

「ご報告が遅れましたが、美幸さんのお母様です。病院を退院したらうちで働いて頂くことになりました」

「えっ、そうなの?」

「はい、木崎家には借金がありました。離縁した夫と連帯保証人にお母様がなっていたのです。ですので、うちでその借金を肩代わりさせてもらいました。ここで働きながらお返しいただけるとのことです」

「それは構わないけど、じゃあ、木崎家のみんなもここに住んだ方がいいね。部屋は余ってるし」

「そう言って頂けると思い、手配は連絡を入れれば完了いたします」

楓さんは、やることが早いな。

基本的に屋敷の使用人の人事は、その使用人のトップが決めることになっている。うちの祖父さんや俺も事後報告を受けるだけでその人事に介入しない。

ここでは、楓さんがその手の事を一手に引き受けている。
有能な楓さんでも、人が増えればその仕事量も多くなり大変になる。

「わかった。よろしくね」
「はい、畏まりました」

短かったけど楓さんと二人きりだったこの屋敷も、一気に賑やかになりそうだ。





いつも通り学校に行くと、涼華の周りに人だかりができた。
取り囲んでいるのは、女子が圧倒的に多い。

俺は、そこから弾き出されたので自分のクラスに行き席に座る。
周囲を見渡すと男子達は、スマホを見ながら爆死してる人が多い。

そんなクラスを見渡していると菅原さん(ルナ)が俺の席にやってきてスマホをそっと見せた。

そこには貴城院光彦と涼華が楽しそうに並んで歩いてる姿が映し出されていた。

「そういう事か」

男子は涼華目当てか、人気があるなあ~~

「それと昼休みに報告があります」
「わかった、地学準備室は知ってるな」
「はい、権藤殿より鍵を預かっております」
「では、そこで」
「承知」

俺とルナの会話は、小声でやりとりしてたので誰にも気づかれていないだろう。

涼華よ、上手く誤魔化せよ。

俺は、みんなに囲まれて困っている涼華を思い浮かべて少しだけ不憫に思った。





昼休みの地学準備室。

案の定、涼華は疲れきった顔をしていた。

「だいぶお疲れのようだな」

「うん、光彦君の事情を軽く考えてた自分がいけないの。今まで光彦君って大変だったのね」

「ああ、それをわかってくれて嬉しいよ。そうだ、ルナを正式に紹介してなかったな。ルナ」

「はい、ここにおります」

ルナ俺が腰掛けているソファーの後ろから突然、現れた。

「貴方は菅原さんだよね」
「はい、同じクラスの菅原月菜です。ルナとお呼び下さい」

お弁当を夢中で食べている木葉も「よろしく」と言葉短めに挨拶してた。

「彼女は俺の姉弟子でもあるんだ。戦闘や気配隠蔽など俺と同じ師匠の元で訓練したんだよ。まあ、師匠はルナの父親だけど」

「姉弟子なんだあ。今度一度手合わせをお願いしてもいいかしら?」
「お望みのままに」

ルナがなんか怖いのだけど……

すると、木葉が、

「涼華は、呪われている」

と、訳のわからない事を言い出す。

「木葉ちゃん、なんでそんな事を言うの?」

疲れた顔をしながら涼華は木葉に問いただす。

「本当のこと、夜な夜な涼華は屋根裏の幽霊に呪いをかけられている」

ルナのことだよなあ~~木葉は、ルナが屋根裏部屋に住んでること知ってるのか?

「まあ、とにかくだ。ルナの一族は貴城院家の情報部門を担当している。先日の件はルナの一族が調べてくれたんだ。全国にその情報網は散らばっているから、何かあった時お世話になったらいい」

「すごい、あれだけの短時間であの件の情報をどうやって調べたのか疑問だったのだけど、ルナさん達の活躍のおかげなのね」

そう言われてルナも少し顔をにやけさせた。

「美幸さんの件で私がお礼を言うのもおかしいけど、ありがとう。和樹君も喜んでたわ」

「全て主人の為、礼には及びません」

そういうルナはどこか誇らしげだ。

「それで、俺に何か伝えたいことがあったんだろう?」

「はい、先日、成田空港にて蛇2名を確認。今はホテルにこもっているようです」

「そうか、来たのか……」

蛇とは蛇と剣の刺青の入った組織の者達だ。俺の父さんを殺した相手でもある。

「おそらく主人がターゲットかと」
「そうだろうな。動きがあったら教えてほしい」
「了解」

そんな会話をしていると、涼華は驚いた様子で問いかけた。

「ねえ、その蛇って5年前光彦君を狙った組織だよね?」
「ああ、そうだ。正式な組織の名はブレードスネーク。父さんを殺し、護衛官の人も犠牲になった」
「そうか、やっと仇が取れるのね」
「うむ、どういう意味だ?」

「主人、涼華殿の父上はあの時主人を庇って亡くなった護衛官です」

「えっ……」

そうか、涼華が使ってた刀をどこかで見たと思ったけどあの時の……

「涼華、すまない。俺は君のお父さんを……」

「光彦君、お父さんは自分の仕事をして光彦君を助けたんだ。護衛官なら守る対象が生きていたことは誇りなんだよ。だから、私はお父さんのことを誇りに思ってるし、命をかけて助けた光彦君が元気でいることが嬉しいんだよ」

涼華とパーティーであった時『見極めてやる』と言ったことはそういう事だったのか。

「ルナや木葉は知ってると思うけど、俺は涼華のお父さんに助けられてしばらく生死の境を彷徨っていたらしい。その時とそれ以前の記憶があやふやでよくわからないんだ。先日、木葉と再会して少しばかり記憶がはっきりしたんだ」

「そうだったのね。私の事は直ぐにわかると思ったけど、そんな事情があったのね」

「ああ、だからパーティーで会った時、変な事を言う奴だなと思ったよ。こっちにきて涼華と暮していたけど、あの時の護衛官の娘さんとは気づかなかった。すまない事をした」

「私が光彦君のところに来たのは真邦オジ様から伺って、光彦君の護衛官をしてればいづれお父さんの仇が現れるかも、って打算があったの。私の手で仇を取りたいそう思って父親が亡くなってからさらに厳しい稽古をしたわ。それが叶うなら私は何も言うことはないから」

涼華は、目に涙を溢れさせていたが、その奥に凛とした眼を持っていた。

「私の一族もあの事件で犠牲になりました。蛇は私の仇でもあります」

誰とは言わないがルナに近しい人が亡くなってたようだ。

「俺にとっても父さんお仇でもあるし、貴城院家に仕えている人達の仇でもある」

「同じ仇を持つリベンジャー」

木葉がボソリとつぶやく。

確かにその通りだ。
俺は、自分の運命が奇妙な縁で繋がっているのだと改めて思うのだった。





とある都内のホテルで、くつろいでいる少女の隣に可愛らしい人形が裸のまま置かれていた。

『ねえ、まだ乾かないの?』
『そんな直ぐに乾くわけねえだろう!さっきまで一緒になってプールで遊んでたんだから』

そのホテルの室内に小さなドレスが干されている。
少女は、自分のハンカチを人形にかけて頭を撫でた。

『ミミが風邪をひいたらお前のせい』

人形が風邪など引くものか!と、言いたいが、スキンヘッドの男はこの少女がどれほど人形に愛情を注いでいるのか知っているので、敢えて何も言わずに黙っていた。

『そんなことより、奴は見つかったのか?』

スキンヘッドの男は、少女の前に置かれているパソコンを指差している。

『うん、見つけた』

『はっ!?まさか、本当だろうな?』

『ほらっ』

少女は、あるSNSにアップされてた写真を見せた。

『マジかよ。大金払って情報掴んだ俺がバカ見てえじゃねえか』

『それより、早く服を乾かして。じゃないと殺しにいけない』

『慌てるな、お楽しみは時間をかけた方が楽しいだろう』

不敵にそうに話すその顔は邪悪な笑顔で染まっていた。
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