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第九話 結果

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「あぁぁぁぁあああ、あっ、あっ、うぉおおおおおおおおお!?」

 遊園地に行き、新たに決意をして新作を書き始めてから早数ヶ月。
 その後も何度か壁にぶち当たりはしたものの、一応納得のできる形には持っていけて、新人賞に応募していた。
 応募先は、FM文庫大賞。時期的にちょうどよかったのと、作風があっているのもあって、前回のリベンジということになったのだ。

 そして、その結果が今返ってきた。
 拳を固く握り締め、血走った目で見つめる俺の目の前のパソコンの画面には、評価シートがしっかりと表示されている。

 ……間違い、じゃないよな? 嘘じゃないよな? 夢なってこともないよな?
 結果を全く信じられないと驚愕したが、同時に当然かと納得する俺もいた。

「……凱にぃ、どうだった?」

 突如奇声を上げた俺に驚いたのか、少し時間が空いてから、後ろから可憐な声が聞こえてきた。
 自らがメインヒロインのモデルとなった作品の命運を見届けるため、うちに花音が訪れているのだ。
 固唾をのんで見守ってくれている花音を、俺はゆっくりと振り返った。

「ふっ……。聞いて驚け——」

 少し不安の混じった花音からの問いかけに、俺は余裕を持った笑みで答える。
 結果など、考えるまでもなくわかる。それこそ、画面を見る必要すらなかった。
 俺が。この俺が。花音の魅力を世界で一番目に知っていると自負するこの俺様が、本気で可愛い花音を描いたんだぞ?
 更には、今まで培ってきた創作技術を全てつぎ込んだのだ。雨の日だって風の日だって、落選して心が死にそうになった日だって、俺は研究を続けていた。その、集大成なのである。
 最初から、この結果は約束されていた。

 とびっきりの笑顔で、俺は口を開く。



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タイトル:俺のいとこが、婚姻届を勝手に提出しちゃったんですけど、え? これって結婚したことになるの?
ペンネーム:江賀斧 施魁
本名:鳥羽 凱士
年齢:19歳
結果:落選

キャラクター:4.3点
ストーリー:1.7点
世界観:1.4点
構成力:1.4点
文章力:3.8点
総合評価2.5点

審査員Bコメント
良かったところ:メインヒロインのキャラクターがよく作れている。
悪かったところ:世界観、構成の雑さが目立つ。
アドバイス:キャラクターの作り方は非常に上手で、プロにも引けを取らないと感じました。文章の書き方も、よくライトノベルを研究していて、好感が持てます。
しかし、唐突に次の展開へと移っていき読者を置き去りにするストーリーや、安定しない世界観が非常に大きなマイナスポイントになっています。突き抜けすぎていて、これはこれで逆に人気が出るかもしれないとも思いましたが、それにしてもひどかったので前述の通り、落選という結果にさせていただきました。次回作に期待しています。

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「——落ちた」
「えぇー……」

 満面の笑顔で告げる俺に、唖然としながらジト目を向ける花音。その顔にはありありと「期待させといて……?」というイラつきと困惑と失望が浮かんでいた。
 その視線を受けて、俺は更に笑みを深める。

「いやー、はっはっは、落ちちゃったなぁ。うん、流石にちょっと予想外だったわ」

 そんな俺の態度を見た花音は眉をひそめた。

「……なんでそんなに余裕なの? 凱にぃ、ついにおかしくなった?」

 さらにはそんな風に言ってきた花音に、俺はアメリカンなスタイルで首をすくめてHAHAHAと笑う。

「おいおい、そんなわけないだろ? 余裕なんてあるわけないじゃないか。技術も全部つぎ込んだ上で、早苗さんに殺される覚悟をしてまで書いたんだぞ?」

 本当に決死の覚悟だ。明らかに自分の娘がモデルになっているヒロインが、主人公とイチャコラする場面を見たあの人なんて、想像すらしたくないほどに恐ろしい。
 文字通り、最終手段だった。それが、簡単に終わってしまったんだ。

「ははっ、あいつめ、毎度毎度息をするように落としてやがって。絶対にいつかぶっ殺してやるからな。人の夢踏みにじっておいてのうのうと生きられると思うな! 首洗って待ってろよ、審査員Bィ!!」
「……あ、うん、いつも通りの凱にぃだった」

 自分を抑えようとしたものの結局溢れ出てしまったパッションを見て、花音はため息をつきつつ胸をなでおろしてた。……いやおい、いつもの俺ってなんだ。お前の中の俺はどんなイメージなんだ。

「……でも、本当に落ちたんだ。あんなに頑張ってたのに」

 哀れむような目で俺を見る花音。

「それは……マジで本当、心折れたわ……」

 正直自分でも、これ絶対いけるパターンだなって思ってたもん。いや、さっきと言ってること違うけどさぁ。だって、あの流れだぜ? まさか爆死とか夢にも思わないだろ?
 ってか、審査員B。お前、割りかしキャラと文章の評価いいんだから、一次くらい通したって良いじゃねえか。なんで落としちゃうんだよ。

「編集半端ないって……。あいつ半端ないって……。命かけた小説めっちゃディスるもん……。そんなんできひんやん普通……」

 だんだんと怒りすら薄れてきて、絶望だけが残ってきた。なんなんだよ、B。お前は俺の死神か何かか? ◯魂界に引きこもってろよ馬鹿野郎……。

「……まあ、凱にぃ。元気出して。私から良い知らせがあるから」

 本気で涙を流して崩れ落ちた俺に、優しく語りかける花音。
 何かと思い、顔を上げると、花音は俺に向かってスマホの画面を突き出していた。



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タイトル:そして私はわたしになる
ペンネーム:静宮 花音
本名:静宮 花音
年齢:17歳
結果:第一次選考通過

=====================



「私は受かってた」
「嘘やろ……」

 スマホの画面に映されていたのは、FM文庫大賞の評価シート。それも、一次選考を通ったものであった。
 花音は遊園地に行ったあと、宣言通り本当にライトノベルを書き、記念として俺と一緒にFM大賞に応募していたのだ。……それが、まさか、マジで通るとか……。
 えぇ……。

「ありえねえだろ……。初応募どころか、創作初心者だぞ……?」
「……ふっ」

 は、鼻でっ、鼻で笑ってきやがった!? 見下すような笑みを浮かべて、嗜虐的な表情で嘲笑いやがったぁ!
 ウゾダドンドコドーン! オンドゥルルラギッタンディスカー!

「っつか、ストーリーも文庫の傾向に合わせる気全くないものなんだろ? 何かの間違いじゃねえの?」

 現実を認めたくない俺の心が、編集側のミスという答えを導き出した。
 俺も読ませてもらったことはないため詳細は知らないが、どうやら花音は女主人公でかなりシリアスなものを書いたらしい。
 それを、なんでもありな稲光文庫はともかく、ラブコメと異世界が強いFMが通すとか、マジで何かの間違いだと思いまーす。ラブコメでキャラが可愛いい俺の小説が落ちたのと同じくらいおかしいと思いまーす。……おい、今「それと同じくらいならむしろ通って当たり前だな」とか思った奴表でろ。

「疑うなら、読んでみる?」

 ドヤ顔のままスマホを操作して執筆画面を呼び出してから、俺に渡す花音。
 ……まあ、そこまで自信があるなら読んでみますかね。

「……お前、メモ帳使って書いてんの?」
「最終的にはWordだけど、メモ帳の方が使い慣れてるから」

 なるほど、別に最初から応募用ので書く必要はないか。……いやでもやっぱ、文字数わかんねえから不便じゃね?

 首を傾げつつも、俺は花音の書いた小説を読み進めていった。
 …………。
 …………。


「……なんだこれ、やっば……」
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