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第0章 白い世界

俺は…

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真っ白な天井…真っ白な壁…真っ白な床…

真っ白な服を身に纏い

真っ白なベッドに身を預け

その身体に繋がるたくさんの管やケーブル

ベッドの横には心拍数を測るモニターがある

しかし、その反応は小さく弱い

少し開けられた窓から入ってきた暖かい風で

真っ白な髪が揺れる

窓の外の風景は、体が動かず見ることすら

出来なくなった。

少年の世界は無色で出来ていた

だからであろうか、色彩豊かな世界を

“また見てみたい“と思ってしてしまうのは…

それは無色の世界に住む少年にとって

異次元の世界に等しかった

風で揺れ、季節で色が変わる木々たち

小鳥たちのさえずる綺麗な声

冷たく流れる透き通った川

太陽の光を反射した蒼く光る広い海

小さい頃に両親と歩いた

暖かい光を放つ夜の街並み

しかし、それも…それすらも、もう叶わない

今や身体中が悲鳴を上げ

呼吸は乱れ、荒くなる

視界が霞み、まぶたが重くなっていく

(これが俺の“終わり“なのか)

少年はずいぶんと呑気な事を考えていた

身体は激痛が常に走り

首を回すだけでも辛いはずなのに、だ

だが、少年は絶望しなかった

それが両親と交わした

最後の約束だったからだ


いよいよ力が入らなくなってきた

最後に外の世界を見ようと力を振り絞り

窓の外を見る

外は少年が見たかった

明るく色があるものではなく

黒く暗い闇の世界だった

しかし、少年の目に入ったのは

大きく、優しい光を放つ満月だった

(そういえば満月は久しぶりに見るな…)

少年…いや、月見 龍新(つくみ りゅうしん)は

またもや呑気な事を考えながら

意識を手放した




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