花火空

こががが

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前編

part 6

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「律村はマンドリンの音、聴いたことあるの?」
 愛の問いに、「まあな」と律村はごく当たり前のように答えた。

 今の音楽部は人が少ないから、たまにコンサートの手伝いをしている、そんな旨の説明を彼はしてくれた。
 
「天文部の活動もあるだろうに、相変わらず、人がいいね、律村は」
「それは嫌味か?」
「そんなわけないじゃない。褒め言葉だから」
 これは愛の本心だった。

「マンドリンって、どんな音してるのかな」
「そればかりは、実際に聴いてもらうのが早いな」
「そんなに素っ気なく言わないでさ。ちょっとは説明してみてよ」
「いあの無茶振りは、いつも本当に困るな」

 愛の悪戯っぽい笑顔に促されて、律村はいつものごとく、はぁ、と四分音符一つ分の呼吸してから、説明を始めた。

「マンドリンって、ピックを使って弦をはじいて鳴らすんだけど、カラカラというか、キラキラというか不思議な音がするんだよ。」
「キラキラ?」
「一つ一つの音が、ノスタルジックな響きをしていて、音が連続して続くと、思わず耳が音を拾ってしまうというか、幻想的というか」

 へぇ、なるほど。
 そう頷く愛に「分かりにくくて、悪かったな」と律村が拗ね始める。

「まあ、空橋そらはしさんの演奏を聴けば、俺の言ったこと、すぐ分かるから」
「あ、もしかして、さっき一緒にいた人が空橋そらはしさん?」

  愛が面白そうに聞き返して、律村は観念したようだ。

「相変わらず、察しがいいな。さっきまで一緒にいたのが、空橋そらはしさん。空橋そらはし玲葉れいはさん」
さん?」
 彼は淡々と「いや、さん」と訂正をした。


「れいは……さん、かぁ。いい名前だなぁ。すごく綺麗。綺麗なお名前」
 羨ましそうに、愛は地面の小石を爪先で蹴ってみる。

「いあだって、綺麗な名前だろ」
「そうかな」
「そうだろ」
 律村の言葉に、愛は顔を上げる。

桜雫さくらなだって、滅多にない苗字だろ? 桜雫いあ。人を魅了するような、そんな不思議な力を持ってそうな、いい名前だろ」
「そうかな? ありがと」
 愛は前髪を左手で整えてながら、そう答えた。

 一方で律村は「まあ、俺は不思議な力なんてものには興味は全くないんだけどな」と無粋ぶすいなことを言い始める。

「仮に、誰もを魅了する不思議な力とか、特別な力とかが存在したとして、それって結局のところ、実力かオカルトかの二択じゃん。もしも、オカルトの方だったなら、俺、昔からそういう話、あんま興味ないし、詳しくなりたいとも思わない」
「いかにも、あんたらしい言葉」
「変わってないな」
「お互いに」

 二人して笑った瞬間に、律村の肩越しに、先程見たすらりとした女性の影が見えた。

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