花火空

こががが

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前編

part 3

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「それでさ、誰に会いに来たんだ?」
 核心を突くように、律村は愛を覗き込む。
 愛は即座に首を振ってから、彼を睨み返した。

「なに思い違いしてんの? わざわざ誰かに会いに来たとかじゃないから。普通に友達と来ただけなんだけど」
「その『お友達さん』は見当たらないようだけご?」
「今はお手洗い。たぶん」
「たぶん?」
 律村は不思議そうな顔をする。

 とにかくただの友達。
 愛はもう一度、断言してみせた。

「へぇ、じゃあ、彼氏かな?」
「人の話聞いてた?」
「いあの嘘を俺が見抜けないとでも?」
「容赦ないね」
「つまり、否定はしないと」

 律村の追求に、愛は素っ気なく「まあ、否定したら可哀想だし」とだけ答えた。
 愛の言葉に「そっか」とだけ律村は言った。

「でも、もし、六ヶ原こっちに来ると知ってたら、むー君も会いたがっただろうに」
「あーー、えっと……。日枯ひがらし君のこと……かな?」

 「むー君」という響きが懐かしすぎて、それと「日枯ひがらし 」という存在が話題に出てきたことに、愛は一瞬、肝を冷やした。

 日枯ひがらし が律村から「むー君」と呼ばれていたことを、愛はすっかり忘れていた。


 日枯ひがらし も律村と同様、中学時代の同級生。

 彼が律村と同じ六ヶ原ろくがはら高校に進学したというのは、愛にとっては意外なことだった。
 律村と違って、日枯ひがらし は頭の出来が格段に違う。
 六ヶ原ろくがはらよりも遥かに頭のいい高校だって選べたはずなのに。

「むー君、かぁ……。その呼ばれ方、彼は嫌ってたじゃない。律村はまだ日枯ひがらし 君と仲いいの?」

 日枯ひがらし という苗字そのものが珍しいから、普段、彼を下の名前で呼ぶ者は少ない。

 今もなお、彼を「むー君」と呼ぶのは、愛の知っている限りでは、律村を含めてもはや二人しか存在しない。

日枯ひがらし 君は伊佐木いさき市の人間には会いたがらないよ」
「そうか? 昔ならともかく、彼も変わったさ」
「えーー、それ本当?」

 愛は「信じられない」というように目を丸く開いてみせる。
 律村「うん」と一瞬考えてから、「多分、本当だよ」と頷く。

「少なくとも最近の彼は、前よりちょっとだけだけど、楽しそうだよ」


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