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4話 おともだち候補?
しおりを挟む「河合真央くん……端的に申しますと、キミのような存在を冒険者ギルドは野放しにできません」
衝撃の異世界デビューからの翌日。
ぼくは冒険者ギルドの要請を受けて、偉そうな方々が集まる部屋に同席していた。
正直、こういう仰々しい空気は苦手だ。
おなかの下の辺がキリキリする。
「キミはこの一年間以上、どこに勤めるでもなく、所属するでもなく、無職として引きこもっていた。この事実に間違いはありませんね?」
「あ、はい……」
お偉いさんたちの質問にどうにか答える。
「今、キミには冒険者としての適性ももちろんですが、社会性も持ち合わせているのか疑われています」
「と、いうと……?」
「簡単なお話です。しばらくの間、冒険者ギルドから保護監察員を派遣いたします」
要はぼくが化け物かもしれないれから監視役をつけるよ、といったお話だ。
ここで拒否しても事を荒げるだけだし、ぼくはコクコクと了承の意を表す。
「では、保護監察員の金剛守理さん。お入りください」
「失礼します」
お偉方に促されて入室してきたのは二十代前半の物凄い美人さんだった。
おしゃれなメガネの奥から、ぼくを興味深そうに見詰める瞳は、少し切れ長で知性に溢れている。
そして彼女はなぜか白衣姿で、黒タイツが異様になまめかしい。
「彼女、金剛守理さんは冒険者でもトップクラスの実力を持っています」
「キミが河合真央ちゃ————真央くんね? 私は金剛守理。普段は中学校の保健教諭をしているのよ。気軽にまり姉って呼んでくれたら嬉しいな」
「あ、はい……はじめまして。河合真央です。よろしくお願います」
トップクラスの冒険者が普段は中学校の保険教諭?
深く突っ込んじゃいけないところかもしれない。組織の闇に触れるってやつだ。
気さくな雰囲気で接してくれるけど、彼女は所詮監視役だ。
お仕事でぼくのそばにいるわけだから……余計な気持ちを抱くな……期待はするな。
仲良くなれてもそれはきっと錯覚だし、どこまでいっても監視役と監視対象、ビジネスの関係なんだ。
そんなことをとっさに思ってしまうのは……一年間以上のヒキコモリ生活が堪えているのかもしれない。やっぱりかつてのゲーム仲間、【六芒星】のみんなや……同僚の安藤と馬鹿言ってはしゃぎたい気持ちがあるからなのかもしれない。
ぼくってきっと寂しい奴なんだろうな。
「私が真央くんのそばにいたら、楽しい以外ありえないわよ?」
「あ、はあ……」
だから、笑顔で話しかけてくる金剛さんを見ても————
とにかく彼女について考えるのを放棄した。
◇
「とにかく、まずは金剛さんと合流しないとか」
再び異世界に赴くぼく。
なぜなら先日の冒険ではお金になりそうな物を何一つゲットしてないからだ。収入のために冒険者を始めたのだ。
いくらLvアップに必要な金貨を手に入れても、生活できなきゃ元も子もない。
「えっと、金剛さんは闘技場の近くにいる……?」
冒険者ギルドから支給されたスマホには、彼女からのメッセージが入っていた。
ぼくと冒険者ギルドとの間で交わした約定は、しばらくの間は異世界に行く際は彼女が同行するといった内容だ。そして何も問題を起こさなければ他の冒険者と同じ扱いになるのだとか。
首輪をつけられるなんて、難儀なことだ。
スマホをもらえたのはラッキーだけどさ。
そんな感想を抱きながら【剣闘市オールドナイン】を散策すれば、この都市の全容を少しづつ把握できるようになった。まずこの都市は中央へ行くほど標高が高くなっている。つまり、水に沈んでいる建物が減少してくるのだ。そして一度小高い場所で都市を一望してみると、どうやら巨大な湖の中心に【剣闘市オールドナイン】はあるようだ。
「そして闘技場らしき建物は2つ……」
金剛さんとの集合場所である闘技場は2つあったのだ。
一体、どちらが正解なのか不明だけど、人の流れが多い方の前で待つことにした。
「ははっ、やっぱりガチの殺し合いが見れるって思うと最高だな」
「賭けてるもんが違うしなー」
それにしても世界設定的に女神の祝福が失われつつあるのに、こうも冒険者が多いと活気づいて見え、とても滅びに向かっているとは思えないな。
「てめえ! 俺が推す『絶姫』が負けるだと!?」
「ああ。確かにスピードはあるけど、『剣砕き』と比べたら剣戟の重さがまるで足りちゃいねえ」
「じゃあ30万賭けてみるか!?」
「あ? 逃げんなよ?」
さすがは人と人が争いその代償を血で贖う闘技場前というべきか。
出入りする冒険者たちの誰もが目をギラつかせ、興奮しているようだった。ちらほらと怒鳴り声や、剣闘談義がヒートアップして掴み合いや罵り声が聞こえてきたりする。
ちょっと物騒な雰囲気が漂っているので、金剛さんがどうしてこの場所を指定したのか疑問に思う。たしかにこの都市では一番大きな施設に見えたし、わかりやすいと言えばわかりやすいのだけど……。
「おいおい、こんな危ねえところに別嬪嬢ちゃんがいるぜ……」
「可愛らしい顔して刺激的な趣味をお持ちだな」
「どうだ? 俺らと観戦してみないか?」
「賭けの仕方ぐらいなら教えてやるぜ」
さっきからこの手のお誘いが絶えないのだ。
「すみません。待ち合わせをしているもので」
「はっ! つまんねえな」
「こんなところで待ち合わせ? お前さんの友達もよっぽど血の気が多いと見るぜ」
変にもめたりはしないけど、ちょっと怖い人たちが多い。
僕がそんな人たちに何度も声をかけられ、断るのを繰り返しているとようやく目的の人と遭遇できた。
「真央くん! こっちにいたのね!」
「金剛さん……闘技場が2つあるなら先に言ってくださいよ」
「あら? 私は【魔法と剣の闘技場】ってちゃんと言ったわよ? それに中に入れば施設名の看板があるわ」
「あんな物騒な雰囲気が渦巻く場所に1人で入りたいとは思えません」
「それもそっか。【栄光と無法の闘技場】に銀髪の美少女がぼっ立ちしてるって、他の冒険者から聞いたから、まさかと思って来てみたら……真央くん、スマホは頻繁にチェックしてね?」
「あ、はい……すみません」
彼女の指摘でスマホを見ると、確かに先ほどから何度も着信が入っていたようだ。
マナーモードにしていたのと冒険者への対応で気付かなかった。というか多分……一年以上ぶりにスマホを使うから、意識がスマホに行きづらかったのかも?
「それで、真央くんは異世界で何がしたいの?」
「そうですね……お金稼ぎと……友達、作り、ですかね?」
「じゃあ、私が真央くんの友達第一号に立候補しちゃいまーす♪ それ以外ありえないわよ!」
「金剛さんはぼくのお目付け役でしょ」
「うーん……今は、そうかもね?」
朗らかに笑う彼女を見て、胸の奥がトクンと高鳴る。
ついついビジネスだとわかっていても、彼女のやわらかい態度がぼくを期待させてしまう。
もしかしたら、彼女と友達になれるかもって。
◇
【金剛守理 ステータス】
身分:教皇の盾(SSR)
Lv :12
記憶:8
金貨:91枚
命値:5 信仰:3
力 :4(+3) 色力:2
防御:5(+4) 俊敏:3(-1)
主武器
——————————————————————
【鋼鉄の剣】
【装備必要ステータス:力3】
【基本性能:ステータス力+3】
【鋼鉄の大盾】
【装備必要ステータス:力4】
【基本性能:ステータス防御+4 俊敏-1】
——————————————————————
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