あしたがあるということ

十日伊予

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かくれんぼ

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 ――何があったん?
 唐突に、エイコは目の前にいた。気が付けば、ぼくの眼前にいた。ぼくは泣きじゃくって彼女に飛びつこうとしたが、エイコは身をのけぞらせてぼくを避けた。
 ――何なん、とも。なんでそんな泣いてんの?
 ――助けてよ、エイコ。
 ぼくはおばあちゃんがそうしたように、地面に膝をついた。涙があとからあとから零れた。
 ――お父さんが、離婚って、ぼくもうここに来れなくて、助けてよ、わけわかんないよ、ぼく、ぼく……。
 何の余裕もないぼくに触れることはせず、慰めることもせず、エイコは穏やかに微笑んだ。ぼくが見た中で一番きれいなエイコの顔だった。
 ――ねえ、とも。今日が最後なら、もう会えんのなら、最後にかくれんぼしよう。
 エイコはそう言った。
 ――あたしを見つけて。
 ぼくは色々と彼女に喚いたが、かまわず、彼女は踊るように深い木々の方向へと駆けていった。ぼくは取り残され、怖くなって、彼女の後を追った。追いかけっこなんてしたことがなく、ずっと知らなかったが、エイコの足は速かった。
 ――エイコ、エイコ、待ってよ。
 ぼくは彼女の背中に手を伸ばして、叫んだ。遠くで、お父さんの声が聞こえた。
 ――こっち。
 エイコはそう言って、足を止めなかった。意味が分からないまま、ぼくは走り続けた。エイコのスカートがひらひらと、生き物のように揺れた。だんだんと木々の色が変わり始めた。それはぼくの錯覚だった。何もかもが夢のようだった。ぼくは現実にはいなかった。
 突然、光が目に飛び込んだ。
 うっそうとした木々は消え、そこには草原があった。エイコはその真ん中に立っていた。セミはけたたましく鳴いていた。
 ――見つけて。
 彼女はうっすらと笑って、ぼくを見た。ぼくははじめ戸惑い、何をすればいいかわからなかった。エイコはそこにいるじゃないか。そう言おうとして、しかし唇は動かなくなった。
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