あしたがあるということ

十日伊予

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激高

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 ――ふざけんなよ。
 気が付けば、ぼくの唇はそんな言葉を叫んでいた。おばあちゃんは泣いて真っ赤になった目を見開かせてぼくを見た。お父さんはぼくの激高を予測していたようで、何も驚かず、目を伏せてこうべを垂れた。
 ――ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな。
 ぼくは幾度も同じことを怒鳴った。頭の中がめちゃくちゃで、とにかく憤ろしかった。
 ――なんで勝手に決めるんだよ。ぼくはどうしたらいいんだよ。ぼくは何なんだよ。お父さんもお母さんもおばあちゃんも、なんで何も言ってくれないんだよ。ふざけんな。
 混乱する意識の中に、不意に、ひとつの事柄のみがクリアに浮かび上がった。
 もうおばあちゃんの家には来られない。
 そのことへの証拠はなかった。おばあちゃんの思い込みかもしれなかった。その可能性は十分にあった。しかしぼくはなぜか確信をもってそう思った。結果から言えば、それはほとんど真実だった。ぼくの母はとても厳しい人で、彼女が一度決めたことを覆すのは容易ではなかった。
 気が付けば、二人に背を向けて、ぼくは裏山へと走り出していた。おばあちゃんの喉から絞り出したような叫び声が聞こえた。お父さんはぼくに何か静止の言葉を叫んでいた。それはぼくの奥までは届かず。耳の上を滑るだけだった。だから記憶にもない。
 ――エイコ。エイコ。
 彼女の名前を叫びながら、川に沿って駆け上がった。ぼくが履いていたのはおばあちゃんのサンダルで、それはいつの間にか脱げて、固い地面の土がぼくの足の裏を強くこすった。痛かったはずだが、痛みは覚えていない。心臓はばくばくと鳴って、破れそうだった。無我夢中で振った腕は、ちぎれてしまいそうだった。
 ――エイコ。エイコ。エイコぉ。
 涙があふれ出た。鼻水もとめどなく流れて、それは涙と一緒になってぼくの口の中に入り込んだ。
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