上 下
1 / 1

欲に目が眩んだ婚約者は私を捨て、伝説の聖女様を選びましたが…それは大きな間違いです。

しおりを挟む
「彼女は異世界から来たらしい。このまま放り出すのは可哀そうだから、これからは俺の妹ととしてこの家に住む事になった。」

 ある日突然、異世界から来た女が、婚約者の義理の妹になった。

「あなたと彼…いえ、お兄様は、まだ婚約して間もないんですって?」

「えぇ。」

「いいわね…あんな方と婚約する事が出来て。」

 そう言って、彼をじっと見つめる彼女。

 何か、嫌な予感がするわ─。

※※※

「…お前と、婚約破棄したい。」

「ど、どうしてです!?」

「それは、彼女が伝説の聖女だからだ。」

「あの子が…?」

 伝説の聖女…それはこの地に伝わる古い言い伝えだ。

「異世界より娘が現れた時…天の神は祝福し皆に加護を授けるだろう。そう、古い書物にあった。そんな者を妹にしておくより、婚約者に…そしていずれは妻にした方が良いと思ってな。そしたら、俺とこの家はもっと幸せに…もっと繁栄するはずだ!」 

 彼の目は…今までに見た事がない、欲に満ちた恐ろしい目をしていた。

「ですが…あの子はこの世界に来てから怠けてばかり、あなたの庇護の下で遊んでばかりです。そんな者が、伝説の聖女だなんて─」

「お前、そんな事を思っていたのか…。やはり、彼女の言う通りだったな。」

「え…?」

「彼女に相談されていたんだ。まだこの世界に慣れない自分を、お前が悪く言って来ると。」

「そんな事は─」

「言い訳など聞きたくない!俺には伝説の聖女が居るから、お前は必要ない。この家からも出て行け!」

 私の話は、何も聞いてくれないのね…。
 
 もう、どうなっても知らないわ─。

※※※

 この世界に来て、私は一目で彼を好きになった。
 
 でも…既に彼には、あの女が─。
 聖女だか何だか知らないけど、邪魔なのよ─!

 そんな時、私は彼に、君は伝説の聖女なのかと聞かれた。

 正直意味が分からなかったけど…期待に満ちた目で私を見る彼に、私は思わずそうだと答えた。

 すると彼は、私の事をとても大事にしてくれるように─。

 私はもう一押しとばかりに、あの女が私を虐めると嘘をついてやった。
 
 そしてこれが決め手となり、あの女は婚約破棄された上に、家からも追い出されたのだ。

 でも…彼が期待してくれるのは嬉しけど、加護ってどうやってつけるのかしら?
 あの女は、神の声を聞いてたらしいけど、私には何も聞こえないし…。

 今は何とか誤魔化せてるけど、それも時間の問題ね─。

 すると何日か経った頃、彼が慌てて家に帰って来た。

「た、大変だ!王の居る城に神が降り立ち、王やそこに居た者たちに加護を与えたそうだ!そしてそこには、伝説の聖女が居ると─!」

※※※

 城には国の民が大勢集まって、まるでお祭り騒ぎだった。

「伝説の聖女は、この彼女だ!ここを通せ!おい、神はどこだ?俺にも加護を授けろ!」

「─もう遅いです、神はお帰りになりましたよ?」

「お前…何でお城に、王の隣に居るんだ!?」

「それは…私が本物の、伝説の巫女だからです。」

「何!?」

「あなたは…本当の伝説を知らないのよ。」

 異世界より娘が現れた時…その者によって、この地は悪い方へと変わる。
 すると伝説の聖女が目覚め…天の神は祝福し、皆に加護を授けるだろう─。

「あなたが読んだ書物は、あちこち虫喰いがあって…所々文字が抜け落ちていたのよ。でも、伝説の聖女として目覚めた私は、全てが分かっていた。だから、あなたにそれを教えようとしたのに…あなたは、何も聞いてくれないんだもの。」

「そ、そんな…。」

「じゃ、じゃあ私は何なのよ!これじゃあ、ただの悪女じゃないの!」

「そうよ。あなたはこの地にもこの世界にも不要な者。なのに…何かの間違いでやって来てしまった。あなた…元居た世界でも、気に入らない女を虐めたり…随分悪事を働いていたみたいね。そんなあなたの存在を、神は許していない。今すぐ、この世界から消してしまいたい程にね─。」

「この娘は、悪の化身といったところか…。おい、この娘と男を捕えよ!せっかく皆が加護を授かりこの城は神聖な場と化したのに、それを穢そうとする罪深き者たちだ!」
 
「ど、どうかお許しを!」

「嫌…こんな目に遭うなら、元の世界に返して─!」

※※※

 その後二人は、伝説の聖女である私にした仕打ちとお城での振る舞いが原因で、処刑が決まった。

 普通の聖女だと追い出した女が、伝説の聖女だったなんて…彼にとっては、さぞや大きな誤算だった事でしょう。

「加護を授かる事が出来た者は皆幸せになり、この国もますます発展するだろう。俺も幸せだ…どうかこのまま、俺の妃になって欲しい。」

「はい、喜んで─!」
 
 本当に、このお城に来て良かった。

『城に行けば、お前と王、そして皆は幸せを手にする事が出来る。そしてあの女と男には、厳しい罰が与えられるだろう。』

 まさに、ご神託の通りになったわね──。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

やって良かったの声「婚約破棄してきた王太子殿下にざまぁしてやりましたわ!」

家紋武範
恋愛
 ポチャ娘のミゼット公爵令嬢は突然、王太子殿下より婚約破棄を受けてしまう。殿下の後ろにはピンクブロンドの男爵令嬢。  ミゼットは余りのショックで寝込んでしまうのだった。

王子に婚約破棄され生贄になった私ですが、人外愛されスキルで神様の花嫁になれました。

coco
恋愛
王子により婚約破棄され、生贄になった私。 愛人の聖女の代わりに、この国の神に捧げられるのだ。 「お前など、神に喰われてしまえ!」 そうあなたたちは言うけど…それは大丈夫だと思います。 だって私には、人外愛されスキルがあるんだから。 昔から何故か人には嫌われるけど、不思議なものには愛されてた。 だから生贄になっても、きっと幸せになれるはず─。

醜い黒豚姫だと王子に捨てられてしまった私ですが、真実の姿を取り戻し幸せになれました。

coco
恋愛
醜い黒豚姫だと、王子とその愛人に嘲笑われる私。 ついには、婚約破棄され城から出て行く事に…。 ですが、私は真実の姿を取り戻し幸せになれました─。

私の婚約者が幼馴染を好きになり、婚約破棄を告げられましたが…悪女の思い通りにはさせません!

coco
恋愛
私への愛がなくなったと言う婚約者。 彼は私に婚約破棄を告げると、後に私の幼馴染に求愛し…?

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

醜く太った豚のような私は婚約者を失いましたが…ある出会いにより、漸く幸せになれました。

coco
恋愛
大食らいで、豚のように醜く太った私。 そのせいで婚約破棄され、領地からも追い出される事になったけれど…?

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

妹が私を婚約させ家から追い出そうとしましたが…出で行く羽目になったのは彼女でした。

coco
恋愛
妹が私に婚約話を持ち掛けて来た。 その相手はろくでもない男で、私は断ろうとしたが…?

処理中です...