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ご自分の病気が治ったら私は用無しですか…邪魔者となった私は、姿を消す事にします。

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 私の婚約者は、半年ほど前から病を患っていた。
 美形だった彼の顔には酷い湿疹ができ、それは今や全身に広がり始めていた。

 私はそんな彼をどうにか助けようと色々な医者を訪ね、聖職者や魔力持ちにも掛け合ってみた。
 そして、ある神官から彼の病を治す一つの方法を教えて貰い、今それを実践中だ─。

※※※

 それから数週間後。
 私は婚約者に呼ばれ、彼の元を訪ねた。

 するとそこには…湿疹が消え、元の美形の顔を取り戻した婚約者が─。

「朝起きたら、すっかり元の顔に戻っていてな!医者にも、異常なしと言われた。」

「良かった…本当に良かったわ!」

「それでな…お前に大事な話があるんだ。」

 彼の病気で延期になっていた、結婚に向けての事かしら…。

「お前と、婚約破棄したい。」

「…え?」

「実は…以前からそう思っていたが、病に罹り言えずじまいでな。でももう病は治ったし、良い機会だと思って。」

「そんな…私、あなたの病が良くなるように─」

「だがな、そうしてくれたのは俺の愛人も同じだ。」

 彼の言葉に、私は目の前が真っ暗になった。

「お前には内緒にしてたが…俺には密かに愛し合ってる女が居る。家同士の約束でお前と婚約はしたが…どうしても好きになれなくてな。お前と婚約破棄し、その女と婚約し直したいんだ。俺の顔が戻った事をあいつもとても喜び、婚約出来るのを今か今かと待ってるんだ。」

「私は、あなたとその愛人にとって邪魔者…という訳ですか?」

「まぁ、そういいう事だな。」

 彼はもう私と話を続ける気は無いようで…私もこれ以上話しても、彼の心は動かない事を悟った。

「…分かりました。ならば私は、もうあなたの前から消えます─。」

※※※

「…という訳で、あいつとはちゃんと婚約破棄したぞ。」

「嬉しい…本当に良かったわ、あなたの顔が元通りになって。きっと私が買った、高いお薬が効いたのね。持つべきものは、私の様な金持ちの女よ?」

「そうだな。それに美形の俺には、やはりお前のような美女しか釣り合わない。地味なあいつでは駄目だ。」

 そう言って、俺たちは笑い合った。

 するとその瞬間…俺の顔に激しい痛みが走り、俺は思わず俯いた。

「あ、あなた…その顔はどうしたの!?」

 愛人の声に、近くにあった鏡を見れば…俺の顔には、前よりも酷い湿疹が─。 
 そしてそれは、あっという間に全身に広がって行った。

 俺は驚き愛人に助けを求め、その腕を取った。

 するとどうだろう…彼女の腕に、突然無数の湿疹が出来て…それは俺と同様、全身に広がった。

「わ、私の身体が…美しい顔が!あなたの病気は、移らないって言ってたじゃない…どういう事なのよ!?こんなの嫌~!」
 
 愛人は泣きながら、家を飛び出して行った。

 俺は、慌てて残っていた薬を手あたり次第に飲み干したが…それは治まるどころか、ますます悪化した。

「薬が効いたんじゃないのか!?俺は…一体どうすれば─。」

※※※

「…それでその神官に私の事を聞き、訪ねて来られたと。」

「俺の病気が治ったのは、お前のおかげだったんだな…。」

「私はその神官に言われ、あなたの病を治す為に毎日欠かさず神殿に参りました。それを百日間続ければ、神が願いを聞き届けて下さるという事でしたので…。そして神が願いを叶えてくれたら、その後必ず二人で神殿にお礼のお参りに行かねばならないと。でも…あなたは私と、婚約破棄してしましたから。」

「じゃあ…そのお参りには行かなかったと?」

「いいえ、仕方ないから私だけで行きました。そして、あなたの不在を神に詫びたのです。すると…その祈りの中で、私は神の声を聞きました─。」

『お前の清らかな心を踏みにじり傷つけた悪しき男と女には、天罰が下るであろう─。』

「そんな…!」

「ですから…あなたと愛人がそんな体になったのは、神が与えた罰です。」

「一体どうしたら元の身体に戻る!」

「そこまでは…神は他に何も仰いませんでしたし。」

 彼は絶望の表情を浮かべ、その場に崩れ落ちた─。

 その後二人の身体は、治るどころかますます悪化…身体中に出来た湿疹の痛みのせいで、共に寝たきり状態に─。
 
 彼は動けない自分に代わり、もう一度私に百日間神殿に参るよう言うけど…そんなのお断りよ。
 
 だって私は、新しい婚約者との結婚に向けての準備に忙しいもの。

 でもそうね…もし神に祈る事があるならば…今度は愚かなあなたの為に祈るのではなく、私とその彼のこれからの幸せの為に祈るわ─。
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