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妹のおねだりにはうんざりでしたが…婚約者を奪われた事で、私は不幸にならずに済みました。

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「お父様…私の方が、あの人にお似合いなのよ!」

「…仕方ない。この子に譲ってあげなさい。」

「ウフフ…そういう事だから、お姉様は他の殿方をお探しになって─?」

 私の妹は…欲しい物があれば父を利用し、こうして何でもおねだりする。
 
 でもまさか、姉の婚約者まで奪うとは─。

※※※
 
 そして妹は、彼と暮らす為に家を出て行く事になった。

「…お父様におねだりし、住む場所を用意させたのね?いい加減その性格を治さないと、いつか痛い目に遭うわよ?」

 私の忠告に、妹は馬鹿にしたように笑った。

「自分がおねだり下手だからって、僻まないでよ。それよりお姉様、私に婚約祝いの品は無いの?」

「どうして私が、そんな物をあなたにあげないといけないの?」 

「姉なのだから、妹の幸せを祝うのは当然じゃない!いいわよ、勝手に貰って行くから!」

 妹は、私の宝石箱からある指輪を取り出した。

「…それは─!」

「この指輪の石…とても綺麗よね。私、前から欲しかったのよ。」

「それは駄目よ…返しなさい!」

「何よ!こんな綺麗な指輪、お姉様みたいな地味な女には似合わないわ!」

 そう言って、妹は家を出て行った。

 あの指輪は、確かに綺麗だけれど…でも─。

※※※

 私は早速あの指輪を嵌め、彼の元へ向かった。

「どう、この指輪…似合ってるでしょう?」

 するとそれを見た彼は、首を傾げた。

「それは…確か俺があいつに贈った─。どうして君がそれを?」

「私達が結ばれるお祝いにと、貰ったの!」

「そうか…まぁ、あいつには派手だったからな。その指輪は、俺の幼馴染がお勧めしてくれたんだ。その石には、不思議な力が宿っているそうで…身に付けていると幸せになれるとか─。」

 ふぅん…。
 あれ…でもそんな指輪なら、どうしてお姉様は嵌めて居なかったのかしら…。

 まぁ、いいか─。

 ところが…それ以降、私の身に次々と不幸が降りかかった。

 急に体が弱り、何度も病を繰り返すようになり…身体に妙な出来物が出来て、それがやっと治った頃には、私の体や顔には醜い痕が残ってしまった。

 するとそれを見た彼は、すっかり私に見向きもしなくなり…彼は一緒に住んで居た家から出て行き、自身の屋敷へと帰ってしまった。

 私は一人取り残され…毎日ベッドの中で泣いて過ごした─。

※※※

「…すっかり、思惑が外れてしまったわね。」

「お姉様…私、どうしてこんな事に─。」

「それは…その呪いの指輪を嵌めたせいよ。」

「の、呪いですって!?嘘よ…これは、幸せを呼ぶ─」

「その石には、彼の幼馴染の恐ろしい念が籠められているの。身に付けた者を、不幸にするというね。どうやらその幼馴染の女は、彼に邪な想いを抱いていたみたいで…婚約者である私が憎かったようね。まぁ…結局私ではなく、妹のあなたがそれを嵌めてしまったのだけれど─。」

「だからあの時、お姉様は返せと─。そういえば…お姉様は彼との婚約が破棄になっても、どこか落ち着いていた。私からおねだりされるのはいつもの事だから、もう慣れた何て言ってたけれど…本当は─!」

「あなたのおねだりには、うんざりして居たけれど…彼に関しては、本当に良かったと思って居るわ。恐ろしい女の餌食にならなくて済んだのだから─。」

「お願い、私をこの呪いから救って…!」

「無理よ…。その指輪、一度嵌めたら抜けないみたいなの。呪いに詳しい知り合いが、そう言っていたわ。」

「じゃあ私は、この先ずっと呪いに苦しめられ─」

「そうよ…その命が尽きるまで、ずっとね。」

「い、いやあぁ──!」

 その後妹は…体が完全に壊れる前に、精神が崩壊─。
 自らの指を、指輪ごと切り落とし…そのままその家に閉じ籠ってしまった。

 あれでは、もうこの先誰とも生涯を共にする事は出来ないでしょうね─。

 そして…何も知らない元婚約者は、その幼馴染の女と婚約する事になった。
 彼は当初、幸せ一杯で過ごしていたが…幼馴染からあの指輪の真相を聞かされ、もし浮気をして私を裏切る事があれば、あなたも呪うと言われたらしく…毎日恐怖の思いを抱え、彼女と暮らしているそうだ─。

※※※

「…あなたが教えてくれた通り、あの指輪を付けなくて本当に良かった。それに…妹のおねだりに応え、彼を譲った事も─。」
 
 私がお礼を伝えたのは、学園時代からの友人だった。

 彼は強い神力を持って居て…呪いや邪悪な気配に鋭い人物だった。

「お礼など…君を守る事が出来て、本当に良かった。それに…そう言ったのには、俺の焼きもちも含まれていたし─。」

「え…?」

 聞けば、彼は学園で共に学んでいた時から、ずっと私の事が好きだったらしい。
 
 でも、私が家同士の約束で婚約してしまい…その気持ちを伝えられないままになって居たそうだ。

「でも…今なら君に、好きだと言える。どうか、俺の恋人になって欲しい─。」

 彼には、学園時代からずっと優しくして貰って来た。
 そして、幾度も助けられた。

 こんなに私の事を思ってくれる殿方は、この人しか居ないと思う─。

「…分かりました。でも、一つだけお願いが─。もし私に指輪を贈ってくれるならば…あんな呪われた物ではなく、互いが幸せになれる物を贈って下さい。」

 私の言葉に、彼は勿論だと言い…そして、私を抱き寄せた─。
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