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私の婚約者と姉が密会中に消えました…裏切者は、このまま居なくなってくれて構いません。
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「今日の約束は無しにしてくれ。俺は、大事な用が出来た。」
「…また、舟遊びに行かれるのですか?」
「あぁ…いつもの友人たちと、ちょっとな。」
嘘よ…一緒に行く相手は、友人ではない癖に。
私は神殿を出ていく彼の背中を、ぼんやりと見送った。
※※※
「それであいつ、何も知らずに俺を見送ったんだ。」
「あの子は、本当に鈍い子なの。昔から抜けてるから。」
私を笑い者にし、抱き合う男と女。
私の婚約者と姉は、今日もこうして密会中だ。
「まさかあいつも、こんな舟の上で俺たちが会ってるとは思わないだろうな。」
「ここはめったに釣り人も来ないし、あの子は海が怖いから近づきたくないなんて言ってるから…気づかなくて当然よ。」
確かにそこには、めったに人は来ない。
でもね、あなたたちがこうして会ってる事は、前から知ってるわ。
私の居る神殿が、どこにあると思ってるの?
この、小高い丘の上よ。
あなたたちがそうして舟で密会してるのは、ここから丸見えだったわ。
本当に、考えなしなんだから。
それに、私には聖女の力があるから…こうして悪事を働くあなた達の様子や会話は、何もかもお見通しなの。
私は祭壇の鏡に映し出された二人を見て、フッと溜息をついた。
全く…二人揃って、幸せそうに眠ってるわね。
舟の上でそんなふしだらな事をして、開放的な気分になり眠ってしまったのでしょうけど…あなたたち、私のご神託をすっかり忘れていますね─?
「…私は、以前お伝えしましたよ。今日この後すぐに、この地は大きな津波に襲われると。ですから、この地の民は高台に避難しておくようにって。でも…あなたは姉に会う事で頭がいっぱいで、あの人もあなたに会う事に夢中で、すっかりそれを忘れてしまったようね。」
すると、海の方から轟々と音がし…真っ黒で大きな波が押し寄せるのが見えた。
そしてその波は、二人が眠る小舟をあっという間に呑み込んでしまったのだ。
「昔…この海では、悪い事をした者を流し追放するという、流刑が行われてきた。まさに、今のあなたたちのようね。あなたたちは私に対する裏切りの行為の最中、消えて居なくなった…だからもう、二度と帰って来なくて結構よ─。」
まぁ…私がこの津波からこの地を守らなかったのは、何もあの二人を消したかったからじゃない。
あの二人はあくまでついで。
この津波は神聖な津波で…この地に蔓延る悪の気配を全て流し持って行ってくれる。
一時避難し戻ってこれば、結果的にこの津波の後には、この地に住む全ての善良な者たちに、幸運が訪れるのだ。
そしてその幸運は、もれなくこの私にも─。
※※※
「今日も海を見ているのかい?君は、本当に海が好きだね。」
そう言って優しく微笑むのは、私の新しい婚約者だ。
「昔は、その大きさと深さが怖かったんですけど…今はもうすっかり。この地に…私に幸せを運んできてくれた海ですから。」
「俺も…君のような立派な聖女様の婚約者に選ばれ、とても嬉しいよ。」
そう言って彼は、私を優しく抱きしめてくれた─。
そして彼に抱かれながら、私は再び海を見た。
婚約者と姉が居なくなった理由は…表向きは、駆け落ちしたという事になっている。
駆け落ちはこの地では罪に問われ、犯罪者として追われる事になるのだが…あの二人は、どうやっても見つかる事は無いわね。
だって今頃二人は…。
私を裏切った婚約者と姉。
その罰として、二人はこの地から永久に追放されました。
二人は揃って、海の藻屑になったのです─。
「…また、舟遊びに行かれるのですか?」
「あぁ…いつもの友人たちと、ちょっとな。」
嘘よ…一緒に行く相手は、友人ではない癖に。
私は神殿を出ていく彼の背中を、ぼんやりと見送った。
※※※
「それであいつ、何も知らずに俺を見送ったんだ。」
「あの子は、本当に鈍い子なの。昔から抜けてるから。」
私を笑い者にし、抱き合う男と女。
私の婚約者と姉は、今日もこうして密会中だ。
「まさかあいつも、こんな舟の上で俺たちが会ってるとは思わないだろうな。」
「ここはめったに釣り人も来ないし、あの子は海が怖いから近づきたくないなんて言ってるから…気づかなくて当然よ。」
確かにそこには、めったに人は来ない。
でもね、あなたたちがこうして会ってる事は、前から知ってるわ。
私の居る神殿が、どこにあると思ってるの?
この、小高い丘の上よ。
あなたたちがそうして舟で密会してるのは、ここから丸見えだったわ。
本当に、考えなしなんだから。
それに、私には聖女の力があるから…こうして悪事を働くあなた達の様子や会話は、何もかもお見通しなの。
私は祭壇の鏡に映し出された二人を見て、フッと溜息をついた。
全く…二人揃って、幸せそうに眠ってるわね。
舟の上でそんなふしだらな事をして、開放的な気分になり眠ってしまったのでしょうけど…あなたたち、私のご神託をすっかり忘れていますね─?
「…私は、以前お伝えしましたよ。今日この後すぐに、この地は大きな津波に襲われると。ですから、この地の民は高台に避難しておくようにって。でも…あなたは姉に会う事で頭がいっぱいで、あの人もあなたに会う事に夢中で、すっかりそれを忘れてしまったようね。」
すると、海の方から轟々と音がし…真っ黒で大きな波が押し寄せるのが見えた。
そしてその波は、二人が眠る小舟をあっという間に呑み込んでしまったのだ。
「昔…この海では、悪い事をした者を流し追放するという、流刑が行われてきた。まさに、今のあなたたちのようね。あなたたちは私に対する裏切りの行為の最中、消えて居なくなった…だからもう、二度と帰って来なくて結構よ─。」
まぁ…私がこの津波からこの地を守らなかったのは、何もあの二人を消したかったからじゃない。
あの二人はあくまでついで。
この津波は神聖な津波で…この地に蔓延る悪の気配を全て流し持って行ってくれる。
一時避難し戻ってこれば、結果的にこの津波の後には、この地に住む全ての善良な者たちに、幸運が訪れるのだ。
そしてその幸運は、もれなくこの私にも─。
※※※
「今日も海を見ているのかい?君は、本当に海が好きだね。」
そう言って優しく微笑むのは、私の新しい婚約者だ。
「昔は、その大きさと深さが怖かったんですけど…今はもうすっかり。この地に…私に幸せを運んできてくれた海ですから。」
「俺も…君のような立派な聖女様の婚約者に選ばれ、とても嬉しいよ。」
そう言って彼は、私を優しく抱きしめてくれた─。
そして彼に抱かれながら、私は再び海を見た。
婚約者と姉が居なくなった理由は…表向きは、駆け落ちしたという事になっている。
駆け落ちはこの地では罪に問われ、犯罪者として追われる事になるのだが…あの二人は、どうやっても見つかる事は無いわね。
だって今頃二人は…。
私を裏切った婚約者と姉。
その罰として、二人はこの地から永久に追放されました。
二人は揃って、海の藻屑になったのです─。
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