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石姫様
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私の祖父の、古い知り合いの方の話です。
その人は幼いころ体が弱く、よく熱を出しては寝込んでいたそうです。
布団の中で何日も過ごす日々は、その人から体力はもちろん、生きる気力まで奪っていきました。
そんなある日のことでした。
眠りについたその人は、不思議な夢を見たそうです。
それは、一面見渡すばかりに石ころが転がっている、そんな寂しい場所に自分一人が佇んでいるという夢でした。
辺りを見回してもどこか薄暗く、他に誰の居る気配もありません。
転がっている石をよく見れば、石にはそれぞれ形があり、その色や模様も様々でした。
その人は何故かふと、その中で自分が一番気に入る石を選んでみようと思い立ちました。
あれでもない、これでもないと選んでいくうちに、ある一つの石が目に留まりました。
それは薄い緑色をしていて、艶やかで、手に取った時に温かさを感じる、そんな石でした。
それを自分のポケットに入れたところで、その人は目を覚ましました。
そして布団から体を起こしたとき、なぜか自分の体が軽くなった感じがしたそうです。
長く濁り溜まっていたものが一気に流れ去っていったような…そんな清々しさを覚えたといいます。
それからです、病弱だった体が、だんだん健康な体へと変わっていきました。
寝込むことも減っていき、やがて周りの人たちと同じような生活を送れるようになりました。
そして月日が流れ十五歳を迎えた時、その人は再びあの夢を見ました。
一面石ころが転がっている中に、自分一人が佇む夢。
しかし、以前見た時とは違うところがありました。
そこには大きな門を構えた、立派な屋敷が建っていたのです。
門の前に立つと、その扉はゆっくりと開き始めました。
まるで何かに呼ばれるように、その人は門をくぐり中へと入っていきました。
屋敷の中へ声をかけましたが、誰かが出てくる様子はありません。
どなたかいらっしゃらないかと庭の方へと回ると、敷地の中は白い玉砂利が敷き詰められおり、まばゆい光を放っていました
その光の中を進んでいくと、屋敷の中から声をかけられました。
それは今までに聞いたことのないような美しい、まるで鈴を転がすような声だったそうです。
その美しい声の持ち主は、御簾の中より、「こちらに参られよ。」とおっしゃいました。
隙間から上品で鮮やかな着物がちらりと見えましたが、お顔までは分かりませんでした。
そのお方は、こう言いました。
「以前渡したものを、返してもらうためにここへ呼んだ。あれは、もうあなたには必要のないものだ。」
それを聞いたその人は、すぐにあの薄緑色の石のことを思い出しました。
夢の中であの石を拾い、その時から自分は健康な体になれた。
ああそうか、あの石のおかげであったか。
そしてあれは、この方が授けて下さったものであったか…。
「長い間、護っていただき、誠にありがとうございました。あなたにお返し致します。」
そう伝え、深く頭を下げたところで、その人は目を覚ましました。
以来、石を授けて下さった美しい声の持ち主を「石姫様」と呼び、尊び敬ってこられたそうです。
「石姫様が自分を救って下さった、だからこうして生きている。そしてその想いに応えるよう、これからも生きていく。そうして生きていく上で、誰かの助けになりたい。石姫様が自分を助けて下さったように。」
そう話すその人の顔は、どんなにきれいに磨かれた石よりもまぶしく、輝いて見えました。
その人は幼いころ体が弱く、よく熱を出しては寝込んでいたそうです。
布団の中で何日も過ごす日々は、その人から体力はもちろん、生きる気力まで奪っていきました。
そんなある日のことでした。
眠りについたその人は、不思議な夢を見たそうです。
それは、一面見渡すばかりに石ころが転がっている、そんな寂しい場所に自分一人が佇んでいるという夢でした。
辺りを見回してもどこか薄暗く、他に誰の居る気配もありません。
転がっている石をよく見れば、石にはそれぞれ形があり、その色や模様も様々でした。
その人は何故かふと、その中で自分が一番気に入る石を選んでみようと思い立ちました。
あれでもない、これでもないと選んでいくうちに、ある一つの石が目に留まりました。
それは薄い緑色をしていて、艶やかで、手に取った時に温かさを感じる、そんな石でした。
それを自分のポケットに入れたところで、その人は目を覚ましました。
そして布団から体を起こしたとき、なぜか自分の体が軽くなった感じがしたそうです。
長く濁り溜まっていたものが一気に流れ去っていったような…そんな清々しさを覚えたといいます。
それからです、病弱だった体が、だんだん健康な体へと変わっていきました。
寝込むことも減っていき、やがて周りの人たちと同じような生活を送れるようになりました。
そして月日が流れ十五歳を迎えた時、その人は再びあの夢を見ました。
一面石ころが転がっている中に、自分一人が佇む夢。
しかし、以前見た時とは違うところがありました。
そこには大きな門を構えた、立派な屋敷が建っていたのです。
門の前に立つと、その扉はゆっくりと開き始めました。
まるで何かに呼ばれるように、その人は門をくぐり中へと入っていきました。
屋敷の中へ声をかけましたが、誰かが出てくる様子はありません。
どなたかいらっしゃらないかと庭の方へと回ると、敷地の中は白い玉砂利が敷き詰められおり、まばゆい光を放っていました
その光の中を進んでいくと、屋敷の中から声をかけられました。
それは今までに聞いたことのないような美しい、まるで鈴を転がすような声だったそうです。
その美しい声の持ち主は、御簾の中より、「こちらに参られよ。」とおっしゃいました。
隙間から上品で鮮やかな着物がちらりと見えましたが、お顔までは分かりませんでした。
そのお方は、こう言いました。
「以前渡したものを、返してもらうためにここへ呼んだ。あれは、もうあなたには必要のないものだ。」
それを聞いたその人は、すぐにあの薄緑色の石のことを思い出しました。
夢の中であの石を拾い、その時から自分は健康な体になれた。
ああそうか、あの石のおかげであったか。
そしてあれは、この方が授けて下さったものであったか…。
「長い間、護っていただき、誠にありがとうございました。あなたにお返し致します。」
そう伝え、深く頭を下げたところで、その人は目を覚ましました。
以来、石を授けて下さった美しい声の持ち主を「石姫様」と呼び、尊び敬ってこられたそうです。
「石姫様が自分を救って下さった、だからこうして生きている。そしてその想いに応えるよう、これからも生きていく。そうして生きていく上で、誰かの助けになりたい。石姫様が自分を助けて下さったように。」
そう話すその人の顔は、どんなにきれいに磨かれた石よりもまぶしく、輝いて見えました。
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