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夫は運命の相手ではありませんでした…もう関わりたくないので、私は喜んで離縁します─。
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「使用人に私の友人、領地の娘…次は、ご自分の友人の妻ですか!?」
今日も私は、泣いて夫に縋っていた。
もう、浮気はしないでくれと─。
「あっちが俺に迫って来たんだ、俺は悪くない!」
怒った夫は私を突き飛ばし、その弾みで私は壁に頭を打ち付けた。
その拍子に、頭の中に膨大な映像が流れ込んでくる。
こ、これは…。
私がその場にへたり込み放心しているのを見て、夫は邪魔だと更に突き飛ばした。
この男…そうか、私はこの男の妻になったんだ。
ならばもう、この先こんな男の為に涙を流す必要はない。
こんな浮気者の暴力男…しかも、運命の相手でもない男に─。
※※※
「領主様…本当に私をあなたの愛人に?」
「そうとも、そしていつかは妻にしてあげるよ。」
最近領地に迷い込んで来たこの女。
とても美しく、妻よりもかなり若い娘だ。
そして何かショックな事があり、記憶を失って居るようだった。
見つけた時に、ドレスのあちこちが汚れ破れていたから、恐らく暴漢にでも襲われたのだろう…ならば、そんな事を思い出させては可哀相だ。
そう思い、過去は詮索しないようにしている。
「でもそんな事、あなたの奥様がお許しに…?」
「何、もし拒否するなら…俺の家には地下牢がある。そこへ押し込めておけばいいさ。」
「…幽閉、という訳ね。あなたは領主様だし、女一人くらいどうとでも出来るわよね。」
ゾッとするほど、美しい笑みを浮かべる彼女…だがそれもまた、魅力の一つだ─。
その後俺の離縁を、妻はあっさり受け入れた。
涙の一つも見せると思って居たが…これには拍子抜けした。
あれ程浮気をするなと泣いていた癖に、まるで人が変わったようだ。
まぁいい…下手に揉めるよりは─。
俺は早速、愛人である彼女を家に迎えた。
それから暫くして…俺の家に、突然王都からの使者と憲兵が押しかけて来た。
「お前は追放されし悪女を匿い、領地のお金を私利私欲の為に使っているな!」
「確かに女を迎えたが、追放、領地の金って…?」
「分からないなら、彼女に聞いてみたら?あなたも…いい加減、記憶喪失の振りは辞めなさい。」
※※※
「お前…記憶喪失とは何の事だ?もしや、お前が彼らを?」
「はい。私の元夫がある悪女を囲っている。その女は過去を隠し、追放先でも悪さをしようと企んでいる…その足掛かりとして私の夫を奪い、離縁させたと知らせました。」
「その女は数々の悪事を働き、王都から追放されたのだ。そして追放先でも一つの家庭を壊し、その地のお金を自分に為に使い込んだ。」
「お前…金の為に俺に近づいたのか?」
「…ここまでバレたら仕方ないわね。そうよ…領主の妻になれば、領地のお金を自由にできると思って。予想通り、良い思いをさせて貰ったわ。」
「そ、そんな…。」
彼と女は、その場で捕らえられた。
夫は領主の座を追われ、女が使い込んだ分のお金を領地に返還する事となった。
彼は土地や財産の全てを失い破滅…その後行方知れずとなった。
女は追放ではなく、もっと重い罪…死罪となった。
これ以上悪さが出来ないようにするには、そうするより他ないと判断されたからだ。
…この二人の結末は、ほぼゲームのシナリオ通りね。
彼らの悪事は最終的に公のものとなり、厳しい罰を受けていた。
その中で違ったのが、私が死ななかった事くらい。
本来妻は、地下牢に閉じ込められたまま死ぬ運命にあった。
離縁を拒否した妻は、夫の手によって地下牢に幽閉─。
そして彼と彼に迎えられた悪役令嬢に虐め抜かれ、地下牢でひっそりと命を落としてしまう。
少ししか語られる事のない名もない女だが、余りに悲惨な最期だ。
浮気されても幽閉されても虐められても夫を愛し、そのせいで命を落としてしまった哀れな妻が私…。
頭を打った拍子に全てを思い出し理解した私は、もう夫を愛する事は辞めた。
だから夫の離縁をすぐ受け入れ、その後も王都に行き彼女の事を密告したのだ。
この件がひと段落すると、私は縁あって素敵な殿方との再婚が決まった。
クズな夫をいつまでも愛さず早く別れ、妻である彼女には幸せになって欲しい…生前このゲームをやっていた私の切なる願いは、これでようやく叶う事になったわ─。
今日も私は、泣いて夫に縋っていた。
もう、浮気はしないでくれと─。
「あっちが俺に迫って来たんだ、俺は悪くない!」
怒った夫は私を突き飛ばし、その弾みで私は壁に頭を打ち付けた。
その拍子に、頭の中に膨大な映像が流れ込んでくる。
こ、これは…。
私がその場にへたり込み放心しているのを見て、夫は邪魔だと更に突き飛ばした。
この男…そうか、私はこの男の妻になったんだ。
ならばもう、この先こんな男の為に涙を流す必要はない。
こんな浮気者の暴力男…しかも、運命の相手でもない男に─。
※※※
「領主様…本当に私をあなたの愛人に?」
「そうとも、そしていつかは妻にしてあげるよ。」
最近領地に迷い込んで来たこの女。
とても美しく、妻よりもかなり若い娘だ。
そして何かショックな事があり、記憶を失って居るようだった。
見つけた時に、ドレスのあちこちが汚れ破れていたから、恐らく暴漢にでも襲われたのだろう…ならば、そんな事を思い出させては可哀相だ。
そう思い、過去は詮索しないようにしている。
「でもそんな事、あなたの奥様がお許しに…?」
「何、もし拒否するなら…俺の家には地下牢がある。そこへ押し込めておけばいいさ。」
「…幽閉、という訳ね。あなたは領主様だし、女一人くらいどうとでも出来るわよね。」
ゾッとするほど、美しい笑みを浮かべる彼女…だがそれもまた、魅力の一つだ─。
その後俺の離縁を、妻はあっさり受け入れた。
涙の一つも見せると思って居たが…これには拍子抜けした。
あれ程浮気をするなと泣いていた癖に、まるで人が変わったようだ。
まぁいい…下手に揉めるよりは─。
俺は早速、愛人である彼女を家に迎えた。
それから暫くして…俺の家に、突然王都からの使者と憲兵が押しかけて来た。
「お前は追放されし悪女を匿い、領地のお金を私利私欲の為に使っているな!」
「確かに女を迎えたが、追放、領地の金って…?」
「分からないなら、彼女に聞いてみたら?あなたも…いい加減、記憶喪失の振りは辞めなさい。」
※※※
「お前…記憶喪失とは何の事だ?もしや、お前が彼らを?」
「はい。私の元夫がある悪女を囲っている。その女は過去を隠し、追放先でも悪さをしようと企んでいる…その足掛かりとして私の夫を奪い、離縁させたと知らせました。」
「その女は数々の悪事を働き、王都から追放されたのだ。そして追放先でも一つの家庭を壊し、その地のお金を自分に為に使い込んだ。」
「お前…金の為に俺に近づいたのか?」
「…ここまでバレたら仕方ないわね。そうよ…領主の妻になれば、領地のお金を自由にできると思って。予想通り、良い思いをさせて貰ったわ。」
「そ、そんな…。」
彼と女は、その場で捕らえられた。
夫は領主の座を追われ、女が使い込んだ分のお金を領地に返還する事となった。
彼は土地や財産の全てを失い破滅…その後行方知れずとなった。
女は追放ではなく、もっと重い罪…死罪となった。
これ以上悪さが出来ないようにするには、そうするより他ないと判断されたからだ。
…この二人の結末は、ほぼゲームのシナリオ通りね。
彼らの悪事は最終的に公のものとなり、厳しい罰を受けていた。
その中で違ったのが、私が死ななかった事くらい。
本来妻は、地下牢に閉じ込められたまま死ぬ運命にあった。
離縁を拒否した妻は、夫の手によって地下牢に幽閉─。
そして彼と彼に迎えられた悪役令嬢に虐め抜かれ、地下牢でひっそりと命を落としてしまう。
少ししか語られる事のない名もない女だが、余りに悲惨な最期だ。
浮気されても幽閉されても虐められても夫を愛し、そのせいで命を落としてしまった哀れな妻が私…。
頭を打った拍子に全てを思い出し理解した私は、もう夫を愛する事は辞めた。
だから夫の離縁をすぐ受け入れ、その後も王都に行き彼女の事を密告したのだ。
この件がひと段落すると、私は縁あって素敵な殿方との再婚が決まった。
クズな夫をいつまでも愛さず早く別れ、妻である彼女には幸せになって欲しい…生前このゲームをやっていた私の切なる願いは、これでようやく叶う事になったわ─。
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