怪・家

coco

文字の大きさ
上 下
6 / 11

5、丸の付く日

しおりを挟む
由美ゆみちゃん、その手帳、可愛いね。」

「ありがとう。これ、お気に入りなの。」

「ねえ、中見てもいい?」

「じゃあ…来月のページね。そこならいいよ。」

「やった、ありがとう。…うわ~、中も可愛いね。私も来年は、このキャラの手帳にしようかな。」

「うん…。」

「あれ…由美ちゃん、この丸印は何?何か、日付の所に丸が付いてる。…もしかして、デートの日とか!?」

「それ…!ううん…そんなんじゃないよ。」

「何だ、違ったか~。」

※※

 これは、そんなんじゃない。

 でも、何よりも大事な日だ。
 この日を忘れたら、私は大変なことになる。

 あの家に、あの部屋に住むようになって、よく分かった。

 あそこは、おかしい。

 だから、私がちゃんと対処しなくては。

 また引っ越すのは嫌だ、せっかく友達ができた。
 それに、お父さんとお母さんも、前みたいに仲良くなってきてる。
 もう、生活がかき回されるのは嫌だ。

 その為だったら、私は何でもする-。

※※※

「いや~、特に何も居ませんね。どうです、この映像、分かりますか?動物がえさを食べた形跡や、糞尿ふんにょうも見られません。綺麗なものですよ。」

「そうですか…。」

「これを見る限り、害獣がいじゅうの可能性は低いですよ。まあ、もし心配なら、外の通風孔の所に罠を仕掛けたりもできますけど、それだとまた別料金でして…。」

 私は駆除業者の方にお礼を言い、今日は帰って頂くことにした。
 あまり事を荒立てて、夫に文句を言われるのも嫌だ。

 とりあえず、動物の可能性は消えた。
 また音が聞こえてきたら、考えよう。

「ママ、お仕事の人帰った?お姉ちゃんのお部屋で、何かあったの?」

「ああ、大丈夫よ。勝手に入ると、お姉ちゃん怒るから。さあ、おやつにしよう。」

 私は部屋に入って来た息子の手を引き、この部屋を出ようとした。

 すると、息子がくるりと振り返って、かべを見た。

「ママ…あのシミ。」

「ああ、汚れてるでしょ。」

「ううん。そうじゃなくて…可哀そうだね。」

「…何が、可哀そうなの?」

「出れなくて、可哀そう。あそこ小さいもんね。あんなとこから、出れないよね。」

 …この子は何を言っているのだ?

 私には、何の変哲もないシミにしか見えない。
 この子には、一体何が見えているの…?

 この家、お化け屋敷なんだって-。

 その言葉がふいに浮かんで、私の背中に冷たいものが走った。

※※※

「お前は、勝手に業者まで呼んで…。この請求、誰が払うんだよ。今の職場になって給料が下がったんだから…ちょっとは使い方を考えてくれ。」

「悪かったわよ。それは、私の貯金から払う。」

「お前さ、家に一日中居るから、気になるんだ。息子ももう小学生なんだし、午前中だけでも、パートに出たらどうだ?ゆう君ママのお店で働くのはどうだ、誘われてるんだろう?」

「まあ…。そうね、考えておく。」

 お金の話になると、いつも喧嘩けんかになる。
 そもそもお金が無いのは、あの婚約者に多額の慰謝料いしゃりょうを払ったからじゃない。
 そんなことになったのは、あなたが不倫を…辞めよう、こんなこと思っていたら、またあの人を責めてしまう。

 今責めたら、私たちはお終いだ。
 もう溝は、埋められなくなる…。 
しおりを挟む

処理中です...