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第三章 過去が背中を追いかけてくる

新しい師匠

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「おーら、掛かってこねーと稽古になんねーぞぅ」

 無造作に剣を振るって、一気に距離を詰められる。

「うわっ!」

 前髪を数本持っていかれながら、慌てて後ろに飛んで逃げる。
 リーチが長いから、この一歩じゃ次が来たら避けられない。
 焦ったけど、敢えて再び振り被られた側に体重を移動し、剣を剣でしのぎながら側面を取ろうと試みる。

「お、いいねえ。そうそう、むやみに下がるのは悪手だ。次の一手が獲りやすくなる。考えろ、よく見ろ。そして感じ取れ。相手の次の攻撃を」
「わ、ちょ、ま……くそっ!」

 カンカンカンとリズミカルに剣を打ち付けられ、左右に動かされている。完全に自分で動いてるんじゃなくて、いいように動かされてる状況にイラッとしたけど、この状況を打破する手が浮かばない。
 これ、あれだ。
 創作クリエイト魔法でスザンナが作った地獄の拷問具トレーニングマシンでやらされたヤツ。
 動きが単調なのは、疲れと慣れを狙っているからだ。
 やる側は、慣れたところでリズムを崩して……。

「ほらよ、がら空きだ」
「おぶぅっ!」

 左右にいなすのに必死になった俺の腹に、ゾルガの膝がめり込む。
 変則的な攻撃が来るってわかってたのに避けられなかった……。

「かっは……膝蹴りとかアリかよ……」
「お前なー。懸賞首捕まえるのに、その攻撃は反則ですー、なんて言って通ると思うか?」

 そうだけど!
 剣使ってんのに、膝が来ると思わないじゃん!

「あぁ、くっそ! すっげーくやしいいいい!」
「いいぞ、悔しがれ。手合わせで死にやしないんだから、こういう時にめいっぱい悔しい思いをしとけ」

 アリスやスザンナもそうだったけど、こういう時に教えてくれる奴ってのは、どうしてこんなに楽しそうかな!
 痛いわ苦しいわ、散々なんすけど。
 あーもう、若手相手にちっとぐらい手加減しようとか、そういう優しい気持ちはないんですかねえ!

「おぉ、いーぞぉ! やれ! 坊主! 俺はお前を応援しとくぞ!」
「はっはっは、せめて一太刀ぐらいかまして見せろい!」

 いつの間にか集まってきた野次馬が、楽しそうに俺の応援をしている。

「おらぁ! お前らもこいつ見習って、自主的に鍛練しようとは思わねえのか」

 打ちかかった剣を振り払われて、俺がべちゃあっと地面にすっ転んだ隙に、ゾルガは観客に大声で言い放った。

「やっべ、藪蛇!」
「イスルガ! ナイゼル! スペンス! 次はお前らと手合わせしてやろうな」
「ぎゃぁあああああああ!」
「遠慮しとくよ、兄貴!」
「勘弁してくれ、また飯が食えなくなる」

 この意識が向こう向いてる今なら……!

「おっとあぶねえ!」

 仲間内でワイワイ盛り上がってる隙を狙おうと打ちかかったけど、あっさりかわされた。
 くっそ、A級ともなると背中にも目がついてんのかよ。

「よーしよーし、隙を見てかかってくる根性はいいぞ。ほら、もういっちょこい!」
「でりゃああああああ!」

 声を出す意味なんてないのかもしれないけど、腹の底から叫びながら切りかかる。

「いいぞ。勢いはいいが、全身で打ちかかると、外した時に次の動作に移れないぞ。ほら、急所を自分で晒してる」
「でぇっ!」

 剣の横腹でぺんぺんぺん、と急所を三か所叩かれて、それほど痛くはないものの屈辱的だ。
 それでもしばらくは打ち合わせてもらっている内にスタミナが切れてきて、だんだん剣が大振りになってきたのが自分でもよくわかる。
 ゾルガが一歩動くごとに、その2倍や3倍じゃ利かないぐらい動き回されているんだから、疲れるのも当たり前だ。

「疲れてきた時こそ息を止めてでも呼吸を整えろ。攻撃で隙を作るな。そらっ」
「ぎゃっ」

 やけくそで振り被った一撃を、大きく跳ね上げられて、俺は剣ごと弾き飛ばされた。
 ここにきて剣を取り落としてしまったのは痛い。
 実戦だったら死んだところだ。

「いててててて……」
「はっはぁ、お前誰に剣を習った? なかなか筋がいいじゃねえか。だが、剣筋が素直過ぎらぁ。まるでお貴族様の剣術みてえだぜ」

 もう手合わせは終了なのかゾルガは剣を納めて、ひっくり返ったままの俺の傍にしゃがんだ。
 うえっ、動きすぎて肺が痛い。
 こんなに全身がビリビリするくらい動いたのも久しぶりだ。
 それこそアリスの特訓以来だな。

「ま……『惑う深紅』の、アリスって冒険者に……少しだけ……」

 どうにか息を整えてそれだけ答えると、ゾルガは困ったみたいな微妙な顔になった。

「あー……お前、貴族関係だったりする?」
「……? そんな上等なもんに見える?」

 そんな変な勘違いのしようがないと思うんだけど、貴族ってどっから来た?

「あー、うん。アリスにね……そりゃ、あぁいう動きにもなるか……なるほど」

 ゾルガはひとりで納得すると、汗でドロドロの俺の頭を乱暴に撫でた。

「よーし、町につくまでおいちゃんがお前を鍛えてやろうな。ありがたく思えよ」
「うぃーす……」

 死にそうだけども、ありがたいのも確かだ。
 町につくまでにA級冒険者の強さの秘訣を一つでも盗んでやる!
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