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第二章 普通の男の子に戻ります! 戻してください!

再会したヨッパライ

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 あぁ、俺という男はどこまで愚かなんだ。
 自分が愚かなことなんて、嫌になるほど知っていたつもりだったけど、それでもまだ認識が甘かったらしい。
 俺は苦い思いを飲み下しながら、引きつる頬を宥めて笑顔を作った。

「久しぶりだな、元気にしてたか?」
「あぁ、おかげさまで」

 俺の言葉に込められたイヤミなど、お前は何一つ知ることはないだろう。
 久しぶりにバンバンと叩かれる肩の痛みは俺の愚かさの証だ。

 ……アディよ、お前は何でこの町でも女装をしていた?

 ここに居ることをこいつに知られないためじゃなかったのか?

 なのに、何故、軽装のままで街中をふらふら出歩いていたんだ。
 俺のバカ!

「いやー、お前でもここまで来られるようになったんだな! 成長したじゃないか」

 上から目線、あざーっす。
 成長も何も、てめえのおかげでつい先日4つもレベルアップさせてもらったけどな。
 今はお前よりレベル上だわ、アホが。

「幼馴染として嬉しいよ。俺のおかげだよな、なんちゃって」

 先日のレベルアップはてめえのおかげだわ。確かにな。
 けど、それをお前に誇られるいわれは欠片もねえわ。

「な。積もる話もあるし、軽くいこうぜ」

 ひとっかけらの後ろめたさも罪悪感も見せず、ガリオンは俺の肩に腕を回した。
 久しぶりに幼馴染に逢えて嬉しい。それだけで、俺にはわだかまりがあるかもしれない、なんてこと考えてもしないんだろう。
 ついでに言えば、断られるなんてことも想像もしていないに違いない。

「おまえには謝りたいこともあるしさ」

 ……なんて軽く言われて、こいつにも反省なんて殊勝な気持ちがあるのか、と思った俺は本当に愚かだった。

「悪い、お前と作った『暁の星』だけど解散しちまった」
「へえ」

 酒場で安い酒を片手に軽い頭を下げられて、それ以外何を言えと?
 確かに設立したのは俺とお前だけど、俺、半年も前にそこから脱退勧められてるんですよね。
 バカにされて追い出されて、そんなものが今更なくなったと聞いたところでなぁ。
 謝るのそこなんだ? っていう驚きしかないわ。

「解散したのは昨日でさっき届けだしてきたばっかなんだけどさ……へへ。あーあ、お前に会うのがもう少し早かったらな……」

 再加入? しねーよ、そんなもん。
 何が悲しくてまたお前に振り回されなきゃならないんだよ。
 解散ってことは、昨日あの後、ジョーイとヨナとも喧嘩別れでもしたのか。
 何があったんだろうな。
 分配金のことで揉めたんだろうか。

「何もかも俺が悪いんだ……」
「そーね」
「パーティ内に恋人が居ながら、真実の愛に目覚めてしまったこの俺が……」
「しんじつのあいー?」

 飛び出してきた思いもよらない単語に、思いっきり胡散臭そうな反応を返してしまった。
 だけど、ガリオンは自分に酔っているのか、一切不愉快そうな顔などせず、むしろうっとりと何かヤバいものでもキメているかのような顔で自分の右手を見つめている。

「そう。愛の奇跡を起こすほどの思いを傾けてくれた女性に、心奪われてしまうのは男として当然のことだ……そうだろう?」
「愛の奇跡、ねえ……」

 なんだ。
 昨日の今日でどうした、お前。
 さてはヨナに振られて昨日は娼館に行ったのか?
 そこによっぽどの美女がいたとか?
 ガリオンはたっぷりとタメを作り、しこたま長い溜息を吐いてから情感たっぷりに呟いた。

「アディ……」
「はい?」

 俺が返事をすると、可哀想なものを見るかのように俺を見て、それからゆっくり首を振って、また思わせぶりに長い長い溜息を吐いた。

「……あぁ、お前のことじゃない。俺の……女神だ」
「ぶーっ!!」
「きたねえな」

 あんまりにも間を取って喋りやがるものだから、つい口にしてしまった酒を、俺は思い切りよく吹き出してしまった。

「なん……? なんだって……?」
「俺はお前と別れてから、女神のような女性に逢ったんだ。奇しくも名はお前と同じアディ……だが、お前とは比べ物にならない、素晴らしい冒険者であり、俺の女神だ。あぁ、君は今、どこで眠っているのだろう……」

 このまだ日の残る時間に眠ってる奴は、赤ん坊か、病人か、夜番の衛士くらいなもんだろうよ。
 ……その女神さまなら、今おまえの目の前にいるんですけどねえ。
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