35 / 75
第二章 普通の男の子に戻ります! 戻してください!
死ねない理由
しおりを挟む
「クッソ、ヨナの裏切り者ぉおおおおおお!」
ガリオンが咆哮した。
……けど、まぁ、あながちヨナのことは責められない。
調査依頼なんかは『生きて帰って報告する』のも依頼の内だ。
力及ばず、と判断したなら、個別にでも早々に撤退しギルドに報告すべきだ。少なくとも建前上は。ヨナの行動は間違っていない。もちろんパーティメンバーが心情的に割り切れるかどうかは別として。
調査依頼なのに討伐を主張したのはヨナもだしな。
だが少なくとも、自分勝手に突撃したお前が言うな、という話ではある。
「くそっくそっくそっくそっくそっ……」
手数に優れた盗賊のヨナが抜けたことによって増した寄生樹の猛攻を必死になって切り払う。
攻撃の主体となっているガリオンか俺、どちらかが抜けたら、他のメンバーに待ち受けるのは死だろう。
かといって、他の三人のうち誰かを逃がせるかと言えば、どうもそれも難しそうだ。
火魔法を使えるわけでもなく攻撃力の低いリズならば、抜けても大勢に影響はないが、逆にリズには逃げるだけの力がない。
仮に逃げられたとしても、町までに何か魔獣に出くわしてしまえばそれで終わりだ。
「天空を切り裂き、唸れ【雷の槍】!」
「モイラ、MPの無駄遣いをするな! 切り口を焼きふさぐのに徹底しろ!」
モイラが無言のままギリィと唇を噛み締める。
詠唱付きの雷魔法はトレントにぶっ刺さり、表皮を焼き焦がしたが、それだけだ。
倒しきるには威力が足りない。
威力が足りない場合はどうするか?
まずは相手の攻撃手段を徹底して奪い去り、小さくとも生命力をけずりそいでいくのだ。それを積み重ねていくしかない。
これは【惑う深紅】で徹底して教えられた逃げられないし勝てない時の戦い方だ。
もう死にそうだってのに、少しでも腰が引ければアリスにケツを蹴り飛ばされて、あの時は本当に殺す気なのかと思ったな。
彼らならば一撃で屠ることのできる敵に、サポートされつつ必死にくらいついていくのだが、結局とどめまでは届かずに途中でぶっ倒れる。下手をしたら剣を突き立ててもダメージすら入らず、経験値にもならない。
そういう討伐も何度かあった。
「うわぁっ!」
「ぐぁっ!」
「ぐっ……ジョーイ、俺はいいからガリオンにヒール! モイラはガリオンのサポートに、ジョーイは回復に専念!」
俺の装備はこう見えて耐久重視だが、攻撃重視のガリオンの防具は比較的軽装だ。エリーさんに防具をあつらえてもらったり、男どもからエンチャント付きのアクセサリーを貰っている俺よりも耐久値が高いとは到底思えない。
別に助けたいわけじゃないけど、ガリオンが行動不能に陥ってしまえば、俺一人ではこの攻撃をしのぎ切れない。
「っこの!」
俺は剣に火魔法を纏わせることで、切り口を焼きながら切り落とす。
火属性があってよかった。
そして、魔法の使い方をスザンナに教わっててよかった。
これ、魔法の使い方を覚える前なら速攻で詰んでた。
C級魔獣の耐久値にだって、限界がある。
絶対に倒せない相手じゃないんだから、最後まであきらめるもんか。
「きゃあっ!」
おそらく一番レベルの低いリズが行動不能に陥った。
「リズ!」
「ガリオン、よそ見をするな!」
「がはっ!」
気を逸らしたガリオンの肩を一本の根がぶっさし、剣を取り落す。
あぁ、もう馬鹿!
なにやってんだてめえ!
「ぐぅっ」
「……っ」
続いてジョーイが撓る枝に打ち据えられ、モイラがMP枯渇で倒れる。
「ぐぁああああっ」
背後から俺の腹が貫かれた。
……駄目だったか。
俺はここで死ぬのか?
決別したはずだったのに、結局ガリオンと一緒に死ぬだなんて、なんていう腐れ縁なんだ。
まったくイヤになる。
身動きが取れなくなってトレントを睨みつけていると、バリ、とモイラが焼き焦がしたトレントの表皮が剥がれ、そこからデカい蜂が姿を現した。
「……あ、れは……」
寄生蜂?
寄生樹と同じくランクCの、他の生物に寄生して繁殖する魔獣だ。
寄生樹と違うのは、生前の宿主と近い行動をすることで……はっ、寄生樹が寄生蜂に寄生されてたなんて笑えねーな。
……ちょっと待て。
寄生樹に寄生されたのなら、宿主は明らかな異常行動をとるようになる。
アンデッドに近い動きしかしないため、比較的寄生されているのは明らかなので、討伐されやすい。
またアンデットの被害の拡大を防ぐため処理は問答無用で焼却だ。
しかし、寄生蜂の場合、生前の宿主の行動をトレースするせいか、突然奇行を始めたように見えるため、若干討伐が後手に回るし、アンデッドや寄生樹に寄生された被害者と違って問答無用では処理されにくい。
つまり、死後、死因を調べられてしまうかもしれないわけで……。
まずいまずいまずい!
今、俺、どんな格好をしている?
そして、一緒に居るのは誰だ?
これって、女装してまでガリオンを付け回していた、なんて見られたりしないか?
そんなの、死んでも死に切れん!
「がぁあああああああああああ! 死・ん・で・たまるかああああああああああ!」
ガリオンが咆哮した。
……けど、まぁ、あながちヨナのことは責められない。
調査依頼なんかは『生きて帰って報告する』のも依頼の内だ。
力及ばず、と判断したなら、個別にでも早々に撤退しギルドに報告すべきだ。少なくとも建前上は。ヨナの行動は間違っていない。もちろんパーティメンバーが心情的に割り切れるかどうかは別として。
調査依頼なのに討伐を主張したのはヨナもだしな。
だが少なくとも、自分勝手に突撃したお前が言うな、という話ではある。
「くそっくそっくそっくそっくそっ……」
手数に優れた盗賊のヨナが抜けたことによって増した寄生樹の猛攻を必死になって切り払う。
攻撃の主体となっているガリオンか俺、どちらかが抜けたら、他のメンバーに待ち受けるのは死だろう。
かといって、他の三人のうち誰かを逃がせるかと言えば、どうもそれも難しそうだ。
火魔法を使えるわけでもなく攻撃力の低いリズならば、抜けても大勢に影響はないが、逆にリズには逃げるだけの力がない。
仮に逃げられたとしても、町までに何か魔獣に出くわしてしまえばそれで終わりだ。
「天空を切り裂き、唸れ【雷の槍】!」
「モイラ、MPの無駄遣いをするな! 切り口を焼きふさぐのに徹底しろ!」
モイラが無言のままギリィと唇を噛み締める。
詠唱付きの雷魔法はトレントにぶっ刺さり、表皮を焼き焦がしたが、それだけだ。
倒しきるには威力が足りない。
威力が足りない場合はどうするか?
まずは相手の攻撃手段を徹底して奪い去り、小さくとも生命力をけずりそいでいくのだ。それを積み重ねていくしかない。
これは【惑う深紅】で徹底して教えられた逃げられないし勝てない時の戦い方だ。
もう死にそうだってのに、少しでも腰が引ければアリスにケツを蹴り飛ばされて、あの時は本当に殺す気なのかと思ったな。
彼らならば一撃で屠ることのできる敵に、サポートされつつ必死にくらいついていくのだが、結局とどめまでは届かずに途中でぶっ倒れる。下手をしたら剣を突き立ててもダメージすら入らず、経験値にもならない。
そういう討伐も何度かあった。
「うわぁっ!」
「ぐぁっ!」
「ぐっ……ジョーイ、俺はいいからガリオンにヒール! モイラはガリオンのサポートに、ジョーイは回復に専念!」
俺の装備はこう見えて耐久重視だが、攻撃重視のガリオンの防具は比較的軽装だ。エリーさんに防具をあつらえてもらったり、男どもからエンチャント付きのアクセサリーを貰っている俺よりも耐久値が高いとは到底思えない。
別に助けたいわけじゃないけど、ガリオンが行動不能に陥ってしまえば、俺一人ではこの攻撃をしのぎ切れない。
「っこの!」
俺は剣に火魔法を纏わせることで、切り口を焼きながら切り落とす。
火属性があってよかった。
そして、魔法の使い方をスザンナに教わっててよかった。
これ、魔法の使い方を覚える前なら速攻で詰んでた。
C級魔獣の耐久値にだって、限界がある。
絶対に倒せない相手じゃないんだから、最後まであきらめるもんか。
「きゃあっ!」
おそらく一番レベルの低いリズが行動不能に陥った。
「リズ!」
「ガリオン、よそ見をするな!」
「がはっ!」
気を逸らしたガリオンの肩を一本の根がぶっさし、剣を取り落す。
あぁ、もう馬鹿!
なにやってんだてめえ!
「ぐぅっ」
「……っ」
続いてジョーイが撓る枝に打ち据えられ、モイラがMP枯渇で倒れる。
「ぐぁああああっ」
背後から俺の腹が貫かれた。
……駄目だったか。
俺はここで死ぬのか?
決別したはずだったのに、結局ガリオンと一緒に死ぬだなんて、なんていう腐れ縁なんだ。
まったくイヤになる。
身動きが取れなくなってトレントを睨みつけていると、バリ、とモイラが焼き焦がしたトレントの表皮が剥がれ、そこからデカい蜂が姿を現した。
「……あ、れは……」
寄生蜂?
寄生樹と同じくランクCの、他の生物に寄生して繁殖する魔獣だ。
寄生樹と違うのは、生前の宿主と近い行動をすることで……はっ、寄生樹が寄生蜂に寄生されてたなんて笑えねーな。
……ちょっと待て。
寄生樹に寄生されたのなら、宿主は明らかな異常行動をとるようになる。
アンデッドに近い動きしかしないため、比較的寄生されているのは明らかなので、討伐されやすい。
またアンデットの被害の拡大を防ぐため処理は問答無用で焼却だ。
しかし、寄生蜂の場合、生前の宿主の行動をトレースするせいか、突然奇行を始めたように見えるため、若干討伐が後手に回るし、アンデッドや寄生樹に寄生された被害者と違って問答無用では処理されにくい。
つまり、死後、死因を調べられてしまうかもしれないわけで……。
まずいまずいまずい!
今、俺、どんな格好をしている?
そして、一緒に居るのは誰だ?
これって、女装してまでガリオンを付け回していた、なんて見られたりしないか?
そんなの、死んでも死に切れん!
「がぁあああああああああああ! 死・ん・で・たまるかああああああああああ!」
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。
応援していただけたら執筆の励みになります。
《俺、貸します!》
これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ)
ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非!
「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」
この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。
しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。
レベル35と見せかけているが、本当は350。
水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。
あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。
それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。
リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。
その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。
あえなく、追放されてしまう。
しかし、それにより制限の消えたヨシュア。
一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。
その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。
まさに、ヨシュアにとっての天職であった。
自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。
生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。
目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。
元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。
そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。
一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。
ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。
そのときには、もう遅いのであった。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる