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第二章 普通の男の子に戻ります! 戻してください!

ゴブリン調査依頼

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「アディさんも私たちのパーティに入りませんか?」
「お誘いは嬉しいけど、それだと私が引き抜いたみたいになってしまうから……」
「あ、そっか……」

 ほんと、嬉しいんだけどね!
 しょんぼりさせてごめんね!
 俺がちゃんと俺だったら、喜んで二つ返事でお願いしちゃうところなんだけど、今の俺は姿を偽ってるからなぁ……。
 俺が『アディちゃん』でなく、ただのアディだったとしても受け入れてくれるかは微妙なところだと思うし、なにより変な目で見られるんじゃないかという危険を冒してまで飛びつくようなことはしない。
 それに引き抜きみたいなのってやっぱり嫌われるし、わざわざ女装してまでガリオンのパーティメンバー引き抜いた、なんて話になったら変な奴にちょっかいを掛けられかねない。
 そういう危ない橋を渡る気はない。
 けど、もったいないなぁ。
 こうして見るとふたりとも可愛いんだよ……あぁ、俺が今女装さえしていなかったなら……!
 ぐぅううううう……今ごろ気持ちいい思いをしているだろうガリオンの野郎、役に立たないで恥をかいてしまえ!

 リズとモイラの決意を聞いた数日後、再び『暁の星』に臨時加入して、討伐に出ることになった。

 今回の依頼は、Dランクの調査が主体になるものだ。
 普段だとロックリザードが生息しているはずの岩場に、ゴブリンが出るようになったらしい。
 ゴブリン自体はF級の中でも弱い魔獣なのだが、今までとは違う魔獣が出没したということで調査対象となったのだ。
 生息地域の変動は稀にあるが、さらにごくまれにスタンピードの予兆ということもある。
 そのため討伐だけでなく調査が必要で、広範囲の索敵が可能なパーティでなければ受けられない依頼となっていた。
 こういうことがあるから、リズみたいな冒険者も必要なんだよな。

「が、頑張ります……」

 俺とガリオンでリズの警護をしつつ、現場周辺を索敵してもらう。
 ゴブリンは行動範囲が広く繁殖力の強い魔獣なので、普段観測されない場所で出没することはままある。
 さらに動物型の魔獣と違い、人型に近い分知能も高いのか、人間に近づいてきて人間の行動様式を真似たり、人間から何かを盗むこともある。
 下手に人間に似ている分だけ、余計に嫌われている魔獣の一種だ。
 盗んだ衣服やアクセサリーでおかしな着飾り方をしている姿は、馬鹿にされているようで腹が立つ。
 それに多種族との生殖も可能なので、女とみるや襲い掛かってくるのがまた嫌われる一端だ。
 捕まった女性は苗床にされてしまったりするから、群れさえしなければ大した脅威でもないが基本女性冒険者はあまり好んで受けたがる依頼じゃない。
 あと、臭いしな……。

「お、きやがった!」

 向こうから斥候に出たらしいゴブリンが3匹現れた。
 ガリオンが喜々として切り捨てる。
 キーキー喚いているけど、このぐらいならほとんどスライムと変わらない。
 ロックリザードはD級魔獣だから、この匂いが嫌で住処を移したか、あるいはロックリザードが移住したからこそ、ゴブリンが住み着いたのか、どっちだろうな。

「また来た。こいつらって、よく増えるよね」

 しばらくしてまた現れた5匹のゴブリンを、俺、ガリオン、ヨナ、ジョーイ、モイラで片づける。
 ガリオンとヨナ以外は魔法を使った。
 そりゃそうだ。
 あんまり近づくと臭いから、遠距離攻撃が使えるなら、それに越したことはない。

「いいな、魔法使い。あーん、私も攻撃魔法が使えたらなぁ」

 悔しそうにヨナが呟く。
 盗賊のギフトに役立つ魔法から覚えたために、攻撃魔法はほとんど覚えていないのだそうだ。
 断続的に表れるゴブリンを俺たちが駆除していると、索敵をしていたリズが顔を顰めた。

「あ、これ撤退した方がいいかも」
「どうした?」

 不思議そうな顔でガリオンが聞く。

「スタンピードの心配はない、数はそれほど多くない……けど、強い個体がいるみたい」
「ゴブリンキング?」
「ゴブリンキングではないかもしれないけど、とにかく強い個体が一体いるのは間違いないです」

 重たくなった空気を吹き飛ばすみたいに明るくヨナが言った。

「ゴブリンキングって言っても、所詮しょせんはD級でしょ。これだけ人数いれば、敵じゃないって。むしろ予想外に高レベルの魔獣がいて経験値的にも素材的にもラッキーってかんじぃ? キングがいるなら、ドロップもありそうだし」
「まだゴブリンキングだと決まったわけじゃないですけど」

 慎重を期すためにか、リズが訂正する。

「何言ってるのよ、ゴブリンを指揮してるのにゴブリンキングじゃないなんてことある? オークじゃあるまいし、ゴブリンジェネラルなんて聞いたことないわよ」

 ヨナがバカにするみたいに言った。
 ゴブリンはオークより知能が低いのか、複数の指揮系統には順応できないらしく、せいぜいが一匹の司令塔的役割の個体とその他といった形態しか見られない。そのため、指揮個体を形式上キングと呼んでいるだけで、あとはアーチャーやメイジといった武器を使える個体はいれど、戦略的な役職を持てる個体はいないのだ。

「少し、気になること、ある」
「なんだ?」

 モイラが手を上げて、ガリオンが聞き返した。

「ゴブリンが、弱い。いつもより、手応えがない」
「……気のせいじゃない? レベルが上がったからそう感じるだけよ」

 言われてみれば……と考えていると、ジョーイがすっぱりと切り捨てる。

「よかったじゃない。強くなってる証拠よ」
「久しぶりのレベルアップだったものね」

 ジョーイの祝福はともかく、ヨナの言葉には悪意を感じてしまうのは、ただの先入観だろうか。

「ますます心強いな。複数の敵も一緒にって経験はないけど、一体だけのD級なら前にも倒したことがあるだろ? 進もう!」

 鼓舞するみたいにガリオンが腕を振り上げる。

「でも……嫌な予感がする。それに私はその時のパーティメンバーじゃない」

 ぼそりとリズが呟いた。
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