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第二章 普通の男の子に戻ります! 戻してください!
乙女の花園
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「次回、参加する必要、ないよ。その前に、辞めれば」
ぼそ、とモイラが呟いた。
「え」
言われたリズが顔色を悪くする。
「で、でも、次の依頼も私ありきで何を受けるか考えてますし、急に辞めるなんて迷惑じゃないですか」
「どっちにしろ、辞めるのに?」
「ちょ、ちょ……け、喧嘩やめよ? ね?」
慌てて取りなそうとしたら、モイラに不思議なものを見る目で見られた。
え、なんでそんな顔で俺のこと見るわけ?
「うぅ、なんでそんなひどいことを言うんですか……」
「あぁー!? な、泣かないで、リズ!?」
こらえきれなくなったのか、リズが拳を太ももに押し当てて、ボロボロと泣き出してしまった。
あばばばばばば、こういう時なんて言って慰めたらいいんだ?
俺がおろおろしているのに、モイラは平然とした顔をしている。
「何で、泣く?」
「だ、だって……モイラさんが辞めろって……そりゃ、私から辞めるって言いましたけど……」
「辞めろ、とは言ってない。リズ、辞めるの、わかってたし」
「モイラさんまで私が足手まといだって言うんですか? うわーん……」
淡々としたモイラの口ぶりに、リズが声を上げて泣き出した。
モイラは迷惑そうに顔を顰めている。
「泣くの、やめて。話に、ならない」
「な、何で追い打ちかけるの!? ちょ、待って。もう少し優しくしよ? 仲間でしょ?」
「アディさんは、こんな私を仲間だって言ってくれるんですね。うわーん……あぁあーん……あーん……」
リズはもはや子供みたいに顔をくしゃくしゃにして泣いてしまっている。
「ひえ、ますます泣き出しちゃった」
「アディが、悪い」
「お、俺ぇ!?」
「こういう時は、気が済むまで、ほっとく」
そんなこと言われても、目の前で泣かれるとなぁ……。
居心地の悪さに、ケツの座りが悪くなった気がしてもぞもぞしていると、モイラはふぅ、と溜息をついた。
「私が知る限り、辞めていくのは、この半年足らずで6人目。それだけ辞めるってことは、パーティに、問題がある。辞めると決めたなら、早い方がいい」
「6人!?」
俺が知らない間に入って辞めたヤツがふたりもいるんじゃん。
いくら人の出入りが激しい冒険者稼業にしたって、限度ってもんがあるだろう。
「あ、私が入ったときは、辞めた魔術師の、補充だったから、7人、か」
ほんと何があったんだよ、『暁の星』。
「7人……」
すすり泣いていたリズまで目を丸くしている。
「ふたりは、リズと、同じ理由。いても強くなれない、それと、ガリオンと、ヨナの、態度」
「ひょっとして、その二人はポーターだった?」
俺が聞くと、モイラはこくんと頷いた。
「ひとりは、まだ、ヨナが、入る前。その前にいた、らしい、ポーターと、比べられて、腹を立てて、辞めた」
……その、いたらしいポーターって俺のことかな?
いや、モイラが入る前にもポーターが入って辞めた可能性もあるな。
「他の4人は、男女の、縺れ? ふたりは、ジョーイが、風紀を乱す、って、追い出した。ひとりは、ヨナに負けて、出て行った。ひとりは……私が、追い出した、のかな……?」
言いながら、自分で首を傾げている。
「ねえ、リズ。リズが辞めたら、私が、追い出したことに、なる?」
リズがプルプルと首を横に振ると、モイラは表情を緩めて「よかった」と呟いた。
「リズに、『暁の星』は、いい環境じゃ、ない。辞めるつもりなら、早い方が、いい。ごめん、言い方が、悪かった」
そう言って、モイラは俯いた。
「私、喋るの、苦手で、ごめん。これまでも、ずっと、ごめん。リズ、傷ついてたのに、止められなかった……」
「ううん、私ももっと早くモイラさんと話してみればよかった」
おぉ、なんだか麗しい友情の芽生えの場に居合わせてしまったようだ。
空中に花が咲き誇るような錯覚を覚える。
ぜひ仲間に入りたいところなんだけど、割って入るのもせっかくのこの空気を穢してしまいそうだ。
「私、やっぱり次回の依頼までは参加します。だって、せっかくモイラさんとアディさんと仲良くなれたのに、一緒に依頼を受けたのが一回だけなんてもったいないですもん!」
キラキラと弾けるような笑顔でリズが断言する。
「私も、次回で、抜けよう、かな……抜けても、仲良く、してくれる?」
「もちろんです! そうだ、抜けたら新しくパーティ作りましょう?」
「ほんと? それなら、抜けるの、怖くない……」
あ、これ下手に何か言うと、巻き込まれるやつだ。
いや巻き込まれてもいいかなって気はするんだけど、いかんせん女装しっぱなし、ってのはな……なしなし。
バレたら、本格的にそういう趣味の人だと思われてしまいそうじゃないか。
俺は早く男の子に戻りたいんです!
ぼそ、とモイラが呟いた。
「え」
言われたリズが顔色を悪くする。
「で、でも、次の依頼も私ありきで何を受けるか考えてますし、急に辞めるなんて迷惑じゃないですか」
「どっちにしろ、辞めるのに?」
「ちょ、ちょ……け、喧嘩やめよ? ね?」
慌てて取りなそうとしたら、モイラに不思議なものを見る目で見られた。
え、なんでそんな顔で俺のこと見るわけ?
「うぅ、なんでそんなひどいことを言うんですか……」
「あぁー!? な、泣かないで、リズ!?」
こらえきれなくなったのか、リズが拳を太ももに押し当てて、ボロボロと泣き出してしまった。
あばばばばばば、こういう時なんて言って慰めたらいいんだ?
俺がおろおろしているのに、モイラは平然とした顔をしている。
「何で、泣く?」
「だ、だって……モイラさんが辞めろって……そりゃ、私から辞めるって言いましたけど……」
「辞めろ、とは言ってない。リズ、辞めるの、わかってたし」
「モイラさんまで私が足手まといだって言うんですか? うわーん……」
淡々としたモイラの口ぶりに、リズが声を上げて泣き出した。
モイラは迷惑そうに顔を顰めている。
「泣くの、やめて。話に、ならない」
「な、何で追い打ちかけるの!? ちょ、待って。もう少し優しくしよ? 仲間でしょ?」
「アディさんは、こんな私を仲間だって言ってくれるんですね。うわーん……あぁあーん……あーん……」
リズはもはや子供みたいに顔をくしゃくしゃにして泣いてしまっている。
「ひえ、ますます泣き出しちゃった」
「アディが、悪い」
「お、俺ぇ!?」
「こういう時は、気が済むまで、ほっとく」
そんなこと言われても、目の前で泣かれるとなぁ……。
居心地の悪さに、ケツの座りが悪くなった気がしてもぞもぞしていると、モイラはふぅ、と溜息をついた。
「私が知る限り、辞めていくのは、この半年足らずで6人目。それだけ辞めるってことは、パーティに、問題がある。辞めると決めたなら、早い方がいい」
「6人!?」
俺が知らない間に入って辞めたヤツがふたりもいるんじゃん。
いくら人の出入りが激しい冒険者稼業にしたって、限度ってもんがあるだろう。
「あ、私が入ったときは、辞めた魔術師の、補充だったから、7人、か」
ほんと何があったんだよ、『暁の星』。
「7人……」
すすり泣いていたリズまで目を丸くしている。
「ふたりは、リズと、同じ理由。いても強くなれない、それと、ガリオンと、ヨナの、態度」
「ひょっとして、その二人はポーターだった?」
俺が聞くと、モイラはこくんと頷いた。
「ひとりは、まだ、ヨナが、入る前。その前にいた、らしい、ポーターと、比べられて、腹を立てて、辞めた」
……その、いたらしいポーターって俺のことかな?
いや、モイラが入る前にもポーターが入って辞めた可能性もあるな。
「他の4人は、男女の、縺れ? ふたりは、ジョーイが、風紀を乱す、って、追い出した。ひとりは、ヨナに負けて、出て行った。ひとりは……私が、追い出した、のかな……?」
言いながら、自分で首を傾げている。
「ねえ、リズ。リズが辞めたら、私が、追い出したことに、なる?」
リズがプルプルと首を横に振ると、モイラは表情を緩めて「よかった」と呟いた。
「リズに、『暁の星』は、いい環境じゃ、ない。辞めるつもりなら、早い方が、いい。ごめん、言い方が、悪かった」
そう言って、モイラは俯いた。
「私、喋るの、苦手で、ごめん。これまでも、ずっと、ごめん。リズ、傷ついてたのに、止められなかった……」
「ううん、私ももっと早くモイラさんと話してみればよかった」
おぉ、なんだか麗しい友情の芽生えの場に居合わせてしまったようだ。
空中に花が咲き誇るような錯覚を覚える。
ぜひ仲間に入りたいところなんだけど、割って入るのもせっかくのこの空気を穢してしまいそうだ。
「私、やっぱり次回の依頼までは参加します。だって、せっかくモイラさんとアディさんと仲良くなれたのに、一緒に依頼を受けたのが一回だけなんてもったいないですもん!」
キラキラと弾けるような笑顔でリズが断言する。
「私も、次回で、抜けよう、かな……抜けても、仲良く、してくれる?」
「もちろんです! そうだ、抜けたら新しくパーティ作りましょう?」
「ほんと? それなら、抜けるの、怖くない……」
あ、これ下手に何か言うと、巻き込まれるやつだ。
いや巻き込まれてもいいかなって気はするんだけど、いかんせん女装しっぱなし、ってのはな……なしなし。
バレたら、本格的にそういう趣味の人だと思われてしまいそうじゃないか。
俺は早く男の子に戻りたいんです!
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