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第一章 すみません甘えてました

明かされた3人の秘密

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「……俺の立ち回りが下手なのが悪いんでしょうけど」

 ひとしきり話し終えて、ぐっとグラスを煽る。
 さっきまで美味いと思っていた酒が、不思議と苦くて舌の根っこが痺れた。

「……そう」

 エリーさんたちも言葉を失ってしんみりしてしまう。

「すみません、変な話をして空気を悪くしてしまって」

 へらっと笑って空気を換えようと試みる。
 アリスが胸元で握った右の拳を震わせた。
 たぶん、やる人によっては可憐なポーズなんだろうけど、やたらに力強いな。
 どっちかというと騎士の誓いに見える。

「アディは頑張ったもの。もう、ポーターなんて言わせちゃダメよ! アディが強くなったのはアリスが保証するぅ! アディはあたしの直弟子なのよぉ! ポーターだって立派なお仕事だけどぉ! アディは立派な剣士なんだからぁ! しばらくはひとりでだって順調にレベルを上げられるはずだわ!」

 お、おう……その評価はありがたいけど、涙で化粧のはじっこが流れて黒い線が出来てるし、まつげ(?)が塊で浮いてるけど、それどうなってるの?
 いつにも増して怖くなってるから、ちょっと鏡見て直して!

「皆さんには本当に色々教えてもらったもんな。みんなの扱きに恥じないくらい頑張らないと。俺からも何か礼が出来ればいいんだけど」

 いつか立派になった姿を見せるのが礼になるかな、なんて甘いことを考えていたら、スザンナが、ずい、と身を乗り出してきた。

「礼がしたい、と言いましたか」
「あ、その……俺ができることなら……」

 え、今、俺何かまずいこと言った?
 命の危機とかないよね!?

「でしたら、私お願いしたいことがあるのです」
「じ、人体解剖とかはご勘弁いただけるでしょうか……」

 びくびくしながら聞き返すと「アディは冗談がお上手ですね。くひひひひ」と笑われたけど、スザンナの笑い方って陰謀を企んでいそうというか、容姿もあって魔女にしか見えないから怖い。

「お化粧、してみませんか?」
「俺が!? 俺、男ですよ!?」

 いやいやいやいや。
 なんで俺が化粧すんのよ。意味が分からん。
 助けを求めてエリーさんに目を向けると、エリーさんはアリスと顔を見合わせて頷きあっている。

「あのね……アディにはぁ、秘密にしていたことがあるの……」

 しおらしげにおずおずとアリスが口を開いた。
 でしょうね。
 秘密にしていることは色々あるだろうけど、それぞれに事情もあるだろうし、踏み込もうとは思わない。
 もしそれが貴族の問題だったりしたら、とてもじゃないけど俺に抱えきれないし、聞いたことで何かに巻き込まれたら困る。

「あの……言いにくいことだったら、言わなくても……」
「ううん、言わせて」

 意を決したみたいに、アリスがギュッと自分の胸元を掴んだ。

「あたしたちね……男だったの」
「あ、そんなこと。知って……えぇええええ!?」

 知ってた、と笑い飛ばそうとして驚いた。
 今、あたし『たち』って言った?
 たちって?

「とても信じられないとは思うけどぉ、エリー様も、あたしも男なの。スザンナはすぐにバレてしまうかと思ったんだけどぉ……」

 アリスはともかく、エリーさんも男なの!?
 どう見ても美女なのに!?
 スザンナは……その、男女を疑う前に、人間かどうかが疑わしいというか……性別を超越して怪しかったから、何とも言いにくいけども。
 女装してるって疑う前に、精霊が人間に化けてるって言われた方が納得できる。

「マジかぁ……マジかぁ……」

 このひと月、鍛練に必死で不埒なことなんて考えたこともないけど、ずっと美女だと信じていた相手が男だったというのはなかなかの衝撃だ。
 道理で、宿屋で『惑う深紅』の3人は同じ部屋でいるはずだよ。
 おっさんが美女と一緒の部屋でいいのかなぁ、とは気になってはいたけど。
 だって、同性なんだもん。
 何も問題ないんだもん。

「だった、ってことは、今は女性に?」

 そんな方法があるのかは知らないけど、どっかの国じゃ切り落とす刑罰もあるっていうし、切り落とすだけなら可能……なのか?

「ううん。お役目があるものぉ。ずっと女の子でいられるわけでもないの。それにぃ、アリスは『可愛い』が好きなだけでぇ、そういう意味で女の子になりたいわけじゃないものぉ」

 ふるふる、と首を振るアリスに、エリーさんはくすりと妖艶に笑う。
 色っぽいんだよなぁ!
 匂い立つような、とか、滴るような美貌なんだよなぁ!
 そんじょそこらの美女が裸足で逃げ出すような美女なんだよなぁ!
 これで男ってマジかよ!

「私は目的があって装っているだけだから、女性になりたいわけではないね。だけど、美しいものを好むのは私も同じだよ。それでね、アディも女装したらきっと可愛くなるだろうな、ってずっと思ってたんだ」

 美女に可愛くなる、とか言われましても……。

「私、アディに是非お化粧を施してみたいのです」

 俺に迫るスザンナは、魔法についてメモを取っているのと同じ輝きを放っていた。
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