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第一章 すみません甘えてました
筋肉を育てるのは肉と睡眠
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「そ、それで……そのような高レベルの方々が、僕のような低レベルの冒険者にどのようなご用件でしょうか……」
笑顔を作ろうとしても口の端がひくついて痙攣しているのがわかる。
卑屈になる俺に、エリーさんは蕩けるような笑顔を見せた。
「私にはとってもかわいい弟がいるんです」
あ、可愛い。
先ほどまでの礼儀として浮かべられていた微笑では、美しいな、とか美人だな、という感想だったのだけど、弟について語り始めたエリーさんの笑顔は暖かくて、可愛らしい印象を受けた。
「お日様を集めたみたいな光り輝く金色の巻毛はふわふわと柔らかく、晴れた青空よりも透き通る青い瞳に熟れた果実のように艶のある頬、小さなお口はいつだって幸福を紡ぎ出すために微笑んでいて……もちろん見た目も天使がこのけがれた地上に降りてきたと見まごうばかりに愛らしいのですが、見た目だけでなく性格も可愛らしくて、素直で頑張り屋さんで、誰からも愛される天使のような子なのです。私のこともとても慕ってくれていて……」
「失礼ですが、弟さんはおいくつで?」
「13歳。私とは7歳差です」
となると、エリーさんは20歳か。
大人っぽいからもっと年上なのかと思ったら、結構若いんだな。
しかし、13歳にもなって姉に可愛い可愛いと言われるのも微妙じゃないかな。
「その可愛い弟が、私に鍛えてほしいというのです。可愛い弟の言うことですから、もちろん否やはないのですが……」
そこで言葉を区切ると、しょんぼりと肩を落としてエリーさんは言った。
「私、レベルが123でしょう? レベル20になる前にどのような鍛練をしていたのか、遠い昔のこと過ぎて記憶にないのです」
「弟さんのレベルは?」
「12と聞いております」
13歳でもうレベル12なのか……俺なんて村を出てきたとき、やっと5か6だったのに、さすがはレベル123のつわものの弟だな。
「私の周りも、この通りでございましょう? どのぐらいの鍛練が適切なのか、弟を鍛える前に確認しておきたいと思いまして」
「……なるほど」
弟を鍛える前の参考になりそうなヤツを探していたのか。
「一月ほど私共にお付き合いいただけませんか。もちろん、その分の報酬はご用意いたします。とりあえずは一月で金貨30枚と考えておりますが」
金貨30枚!
今の俺が上手い事そこそこの依頼にありつけた時に稼げるのが、一日金貨1枚ぐらい。
もちろんそうそう美味しい依頼が転がっているわけでもないし、毎日依頼があるってわけでもないから、だいたい一月の収入は金貨10~12枚。
倍以上をもらえるのは実にありがたい。
それにこの話で行くと、俺を鍛えてレベル上げをさせたい、ってことだろう。
金を貰って、その上レベル上げまでしてもらえるだなんて、こんな美味しい話はないんじゃないだろうか。
思わずごくりと生唾を飲み込んで顔を上げる。
「……」
途端に飛び込んでくる視界の暴力。
正面と左右の落差がすごくて、冗談みたいだ。
一か月、この人たちと一緒に過ごすのか……。
「よろしければ、宿や食事についてもこちらで管理させていただきたいのです。無論、レベル20以下からどこまでついてこられるかを確認する目的ですので、最初のひと月分は途中で脱落なさっても保証いたします」
つまり、確実に金貨30枚!
それだけあれば、装備も新しく揃えられるし、結構いいモノだって選べる。
しかも宿代も食費もかからないのか。
「体を鍛えるのにぃ、食事は大事ですものぉ。いい筋肉は肉が育てるのよぉ? だから、ちゃんと食べて、寝て、強くなってもらうのぉ」
言い方は可愛らしいけど、アリスのムキムキな腕を見る限り、説得力がすごい。
強そう、通り越して見るからに強いもんな。
あまりにも俺に都合のいい話過ぎて、詐欺を疑わないこともないけど、アリスとスザンナの風体があまりにも奇異だから、それはないような気がした。
もし、若い冒険者をだますのが目的なら、ここまで目立つ格好なんかしないんじゃないだろうか。
しかし俺を躊躇わせるのは、彼女たちのレベルの高さだ。
レベル123と242と260。
それが本当だとしたら、それぞれ単騎でワイバーンにも立ち向かえる強さだ。
もはや俺とは生き物としての格が違う。
彼女たちの鍛練など受けたら、それだけで俺は死ぬんじゃないだろうか。
「あ、あの……」
「やはり難しいですか?」
エリーさんが心細げに小首を傾げた。
可愛い。
「けして、無理はさせませんから」
「い、いえ……お手柔らかに、お願いします」
決意を込めて頭を下げた俺に、エリーさんは弟の話をした時みたいな弾ける笑顔を見せてくれた。
笑顔を作ろうとしても口の端がひくついて痙攣しているのがわかる。
卑屈になる俺に、エリーさんは蕩けるような笑顔を見せた。
「私にはとってもかわいい弟がいるんです」
あ、可愛い。
先ほどまでの礼儀として浮かべられていた微笑では、美しいな、とか美人だな、という感想だったのだけど、弟について語り始めたエリーさんの笑顔は暖かくて、可愛らしい印象を受けた。
「お日様を集めたみたいな光り輝く金色の巻毛はふわふわと柔らかく、晴れた青空よりも透き通る青い瞳に熟れた果実のように艶のある頬、小さなお口はいつだって幸福を紡ぎ出すために微笑んでいて……もちろん見た目も天使がこのけがれた地上に降りてきたと見まごうばかりに愛らしいのですが、見た目だけでなく性格も可愛らしくて、素直で頑張り屋さんで、誰からも愛される天使のような子なのです。私のこともとても慕ってくれていて……」
「失礼ですが、弟さんはおいくつで?」
「13歳。私とは7歳差です」
となると、エリーさんは20歳か。
大人っぽいからもっと年上なのかと思ったら、結構若いんだな。
しかし、13歳にもなって姉に可愛い可愛いと言われるのも微妙じゃないかな。
「その可愛い弟が、私に鍛えてほしいというのです。可愛い弟の言うことですから、もちろん否やはないのですが……」
そこで言葉を区切ると、しょんぼりと肩を落としてエリーさんは言った。
「私、レベルが123でしょう? レベル20になる前にどのような鍛練をしていたのか、遠い昔のこと過ぎて記憶にないのです」
「弟さんのレベルは?」
「12と聞いております」
13歳でもうレベル12なのか……俺なんて村を出てきたとき、やっと5か6だったのに、さすがはレベル123のつわものの弟だな。
「私の周りも、この通りでございましょう? どのぐらいの鍛練が適切なのか、弟を鍛える前に確認しておきたいと思いまして」
「……なるほど」
弟を鍛える前の参考になりそうなヤツを探していたのか。
「一月ほど私共にお付き合いいただけませんか。もちろん、その分の報酬はご用意いたします。とりあえずは一月で金貨30枚と考えておりますが」
金貨30枚!
今の俺が上手い事そこそこの依頼にありつけた時に稼げるのが、一日金貨1枚ぐらい。
もちろんそうそう美味しい依頼が転がっているわけでもないし、毎日依頼があるってわけでもないから、だいたい一月の収入は金貨10~12枚。
倍以上をもらえるのは実にありがたい。
それにこの話で行くと、俺を鍛えてレベル上げをさせたい、ってことだろう。
金を貰って、その上レベル上げまでしてもらえるだなんて、こんな美味しい話はないんじゃないだろうか。
思わずごくりと生唾を飲み込んで顔を上げる。
「……」
途端に飛び込んでくる視界の暴力。
正面と左右の落差がすごくて、冗談みたいだ。
一か月、この人たちと一緒に過ごすのか……。
「よろしければ、宿や食事についてもこちらで管理させていただきたいのです。無論、レベル20以下からどこまでついてこられるかを確認する目的ですので、最初のひと月分は途中で脱落なさっても保証いたします」
つまり、確実に金貨30枚!
それだけあれば、装備も新しく揃えられるし、結構いいモノだって選べる。
しかも宿代も食費もかからないのか。
「体を鍛えるのにぃ、食事は大事ですものぉ。いい筋肉は肉が育てるのよぉ? だから、ちゃんと食べて、寝て、強くなってもらうのぉ」
言い方は可愛らしいけど、アリスのムキムキな腕を見る限り、説得力がすごい。
強そう、通り越して見るからに強いもんな。
あまりにも俺に都合のいい話過ぎて、詐欺を疑わないこともないけど、アリスとスザンナの風体があまりにも奇異だから、それはないような気がした。
もし、若い冒険者をだますのが目的なら、ここまで目立つ格好なんかしないんじゃないだろうか。
しかし俺を躊躇わせるのは、彼女たちのレベルの高さだ。
レベル123と242と260。
それが本当だとしたら、それぞれ単騎でワイバーンにも立ち向かえる強さだ。
もはや俺とは生き物としての格が違う。
彼女たちの鍛練など受けたら、それだけで俺は死ぬんじゃないだろうか。
「あ、あの……」
「やはり難しいですか?」
エリーさんが心細げに小首を傾げた。
可愛い。
「けして、無理はさせませんから」
「い、いえ……お手柔らかに、お願いします」
決意を込めて頭を下げた俺に、エリーさんは弟の話をした時みたいな弾ける笑顔を見せてくれた。
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