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第二章 自分の居場所を作りたい!
分離不安はないけれど
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「あー、ひからびる……」
「おい、ガキに納得されてんぞ」
「納得しないで、チーロ。私はまだ干からびたことはないよ」
「干からびかけたことなら何度かあったけどな」
この短い付き合いの中で、ここで干からびているロイが容易に想像できてしまった。
アレンが結構な量をぺろりと食べるものだから、それにつられてロイもなんだかんだ言ってこれまでで一番食が進んでいるようだ。
テーブルの上があらかた片付くと、アレンが食後のお茶を淹れている間に、ロイが食べ終わった食器を片付ける。
「んで、ロイ。こいつのことは、ここで育てる気なのか?」
「育てる……」
ロイは思いがけないことを聞いた、みたいな顔で、私のことを見て、アレンのことを見て、それからもう一回私の顔を見た。
「育てる……」
あ、これは全然考えてなかった、って顔だ。
森で拾われてからこっち、ロイに面倒を見てもらっているといえばその通りなんだけど、初日と二日目を除き、ロイが自分の生活をそれまでのモノから変えた気配ってあんまりないんだよね。
劇的に変わったのは食生活くらいじゃないだろうか。
どっちかというと、ペスやミルフェがロイの面倒を見ていて、私はその見習いに加わった感じ。
庭・畑に出る時、地下で仕事を始める時、食事の支度をする時、寝る前に清浄化を掛ける時、私にも声はかけてくれているものの、はっきり言って幼児といるにしては気を抜きすぎだと思う。
身体年齢的にはまだまだ何やるかわからないお年頃ですよ、私。
さすがに中身の年齢は違うので、悪戯したり壊したりって進んでやろうとは思わないけども。
一歩間違えたらネグレクトにもなりかねないんじゃなかろうか。
この状態を育ててる、って言っちゃうのは、ちょっとあんまりな気がする。
「自分のケツも拭けないような奴が、ガキを育てるのは無謀だろう。なんで孤児院に連れて行かないんだ?」
あ、孤児院なんてものあるんだ。
カプスの街にあったのかは知らないけど、あの街の規模ならあっても不思議はなさそう。
アレンのご意見は実にごもっともだ。
ロイみたいな生活態度の人間が子供を育てようなんて無茶が過ぎる。
「私だって自分のおしりぐらい拭ける」
ムッとした様子でロイが反論するけど、それは物の例えであって、そういう話じゃない。
「これまでは何とかなったかもしれないけど、一時的な保護や介助と育児は別物だって、おまえにも分かるだろ?」
うーん、いちいち正論ではあるものの、その話を私本人の前でしちゃうあたりがアレンも青いというか。
リアルに子どもだったら『孤児院に連れて行け』なんて言われたら不安になるものじゃないだろうか。いや、この世界の孤児院の立ち位置がどんなものかはわからないけども。
少なくとも『森に捨てられていた子供』が『信頼できる大人』から引きはがされそうだと察したら、泣き出したっておかしくない。
いや、しないよ。しないけども。
「それは……」
ロイはちらりと私を見て、短く息を吐くと顔を上げた。
「何も考えていなかったといえばその通りだけど、今のところ、チーロはここで何の問題も起こしていないよ」
「あぁ、それどころかお前の食生活を改善し、住環境まで改善させてるみたいではあるけども」
アレンも私の方をちらりと見る。
見られたところで私から何か良い回答を出せるわけでもないので、へらりと笑って手を振ってあげた。
アレンは優しい顔で私に手を振り返して、ロイには厳しい顔を見せる。
うーん、孤児院に行くのはやぶさかではないけども、私偽幼児なので、本物の幼児の中に放り込まれるのはちょっとしんどいものがありそうだな。
許されるものなら、このままロイのとこでご厄介になっていたいのだけど、ダメかしら。
「……あのね、わたしこのままここにいちゃだめ?」
恐る恐る聞いてみると、アレンは難しい顔に、ロイは優しい顔になった。
「もちろん。チーロが居たいならここに居ればいい」
「おまえな……」
もちろんロイのそれは優しさから来ているんだろうけど、やっぱり何も考えてないんだろうな、っていうのと、アレンはそれを見越して難しい顔になってるんだろうな、というのが察せられて、なんだか申し訳ない気がする。
いやー、でもね。
私にも事情ってものがあるんですよ。
「実家の方に報告は?」
「してない」
「あぁ、だろうな!」
アレンはめんどくさそうに頭をぼりぼりと掻いて、ふーっと溜息を吐いた。
「よし、わかった。もちろん、お前のとこに報告はするけど、俺がこれからはもう少しマメに顔を出してやる」
「え、いいよ」
ロイが本気で嫌そうに顔を顰める。
「お前のためじゃねえよ。こんなガキまでお前と一緒に干からびさせたら可哀想だろうが」
アレンは呆れかえった口調でそういうと、私に向かって笑いかけてきた。
「そういうわけだから、これからよろしくな。チーロ」
「おい、ガキに納得されてんぞ」
「納得しないで、チーロ。私はまだ干からびたことはないよ」
「干からびかけたことなら何度かあったけどな」
この短い付き合いの中で、ここで干からびているロイが容易に想像できてしまった。
アレンが結構な量をぺろりと食べるものだから、それにつられてロイもなんだかんだ言ってこれまでで一番食が進んでいるようだ。
テーブルの上があらかた片付くと、アレンが食後のお茶を淹れている間に、ロイが食べ終わった食器を片付ける。
「んで、ロイ。こいつのことは、ここで育てる気なのか?」
「育てる……」
ロイは思いがけないことを聞いた、みたいな顔で、私のことを見て、アレンのことを見て、それからもう一回私の顔を見た。
「育てる……」
あ、これは全然考えてなかった、って顔だ。
森で拾われてからこっち、ロイに面倒を見てもらっているといえばその通りなんだけど、初日と二日目を除き、ロイが自分の生活をそれまでのモノから変えた気配ってあんまりないんだよね。
劇的に変わったのは食生活くらいじゃないだろうか。
どっちかというと、ペスやミルフェがロイの面倒を見ていて、私はその見習いに加わった感じ。
庭・畑に出る時、地下で仕事を始める時、食事の支度をする時、寝る前に清浄化を掛ける時、私にも声はかけてくれているものの、はっきり言って幼児といるにしては気を抜きすぎだと思う。
身体年齢的にはまだまだ何やるかわからないお年頃ですよ、私。
さすがに中身の年齢は違うので、悪戯したり壊したりって進んでやろうとは思わないけども。
一歩間違えたらネグレクトにもなりかねないんじゃなかろうか。
この状態を育ててる、って言っちゃうのは、ちょっとあんまりな気がする。
「自分のケツも拭けないような奴が、ガキを育てるのは無謀だろう。なんで孤児院に連れて行かないんだ?」
あ、孤児院なんてものあるんだ。
カプスの街にあったのかは知らないけど、あの街の規模ならあっても不思議はなさそう。
アレンのご意見は実にごもっともだ。
ロイみたいな生活態度の人間が子供を育てようなんて無茶が過ぎる。
「私だって自分のおしりぐらい拭ける」
ムッとした様子でロイが反論するけど、それは物の例えであって、そういう話じゃない。
「これまでは何とかなったかもしれないけど、一時的な保護や介助と育児は別物だって、おまえにも分かるだろ?」
うーん、いちいち正論ではあるものの、その話を私本人の前でしちゃうあたりがアレンも青いというか。
リアルに子どもだったら『孤児院に連れて行け』なんて言われたら不安になるものじゃないだろうか。いや、この世界の孤児院の立ち位置がどんなものかはわからないけども。
少なくとも『森に捨てられていた子供』が『信頼できる大人』から引きはがされそうだと察したら、泣き出したっておかしくない。
いや、しないよ。しないけども。
「それは……」
ロイはちらりと私を見て、短く息を吐くと顔を上げた。
「何も考えていなかったといえばその通りだけど、今のところ、チーロはここで何の問題も起こしていないよ」
「あぁ、それどころかお前の食生活を改善し、住環境まで改善させてるみたいではあるけども」
アレンも私の方をちらりと見る。
見られたところで私から何か良い回答を出せるわけでもないので、へらりと笑って手を振ってあげた。
アレンは優しい顔で私に手を振り返して、ロイには厳しい顔を見せる。
うーん、孤児院に行くのはやぶさかではないけども、私偽幼児なので、本物の幼児の中に放り込まれるのはちょっとしんどいものがありそうだな。
許されるものなら、このままロイのとこでご厄介になっていたいのだけど、ダメかしら。
「……あのね、わたしこのままここにいちゃだめ?」
恐る恐る聞いてみると、アレンは難しい顔に、ロイは優しい顔になった。
「もちろん。チーロが居たいならここに居ればいい」
「おまえな……」
もちろんロイのそれは優しさから来ているんだろうけど、やっぱり何も考えてないんだろうな、っていうのと、アレンはそれを見越して難しい顔になってるんだろうな、というのが察せられて、なんだか申し訳ない気がする。
いやー、でもね。
私にも事情ってものがあるんですよ。
「実家の方に報告は?」
「してない」
「あぁ、だろうな!」
アレンはめんどくさそうに頭をぼりぼりと掻いて、ふーっと溜息を吐いた。
「よし、わかった。もちろん、お前のとこに報告はするけど、俺がこれからはもう少しマメに顔を出してやる」
「え、いいよ」
ロイが本気で嫌そうに顔を顰める。
「お前のためじゃねえよ。こんなガキまでお前と一緒に干からびさせたら可哀想だろうが」
アレンは呆れかえった口調でそういうと、私に向かって笑いかけてきた。
「そういうわけだから、これからよろしくな。チーロ」
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