上 下
21 / 55
第二章 自分の居場所を作りたい!

あれもこれも入れちゃうよ

しおりを挟む
 じゃじゃーんとかかげて見せたのは階段のところで干してあった薬草。
 多分、ニンニク。

「アリンビルの鱗茎? それはスタミナポーションに使うもので、食事には……それ匂いもかなりキツイし辛いよ」
「じゃあ、あってる! これを……ふたかけくらいでいいかな……」

 塊から外した大きめの2粒をナイフの側面で潰してから刻む。
 うひー、異世界産だから成分が違うのか、匂いが強い!
 これなら一粒でもよかったかな……。

「毒ではないけど……」
「ひをとおしたらあまくなるからだいじょうぶ!」
「加熱すると効果が薄れるだけじゃないかな……」

 ロイが鍋を複雑な顔で見下ろしている。

「それと、このはっぱもいれる!」

 これは匂いを嗅いで分かった。
 多分これはローリエの仲間だと思う。
 やっぱり階段のところに干してあった薬草だ。

「リナシネの葉……? 食べる前から胃薬を入れるってこと……?」
「いいにおいになるからね。あとはカローテがやわらかくなるくらい、によう」

 本当ならアクとりもしたいところだけど、ロイにできるとも思えないので省略。
 あと、ちゃんと炒めてから煮た方が美味しそうだし、さらに以下略。
 玉ねぎも入れたかったんだけど、薬草と一緒に干してあったから省略しました。
 あれもこれも薬草入れたら警戒されそうだし。
 すでに遅いけど。

「これ、食事じゃなくてポーション作ってるんじゃないよね……?」

 4歳児のおままごとに付き合わせてすまんな!
 なんで玉ねぎよりニンニクを優先したかというと、干し肉の臭みを抑えるため。

 昨日、干し肉をはじめて食べたんだけど、なかなかの強敵だった。
 何の肉かは知らないけど、まずしょっぱい!
 口に入れた瞬間、刺すような塩気を感じるくらいにしょっぱい。そして、焦げっぽく獣臭い匂いがする。その上めちゃくちゃ硬い。保存のためかもしれないけど、ガッチガチに乾燥させてあるんだ。
 だから、最初はしゃぶるしかなくて、しゃぶるのに飽きて噛んでもまだ固い。
 噛んでも噛んでも噛んでも、口の中いっぱいに広がるもわんとした獣臭さと、噛み切れない繊維質の肉。
 パンも固くて、一個食べ終わる頃には疲れ切ってしまうくらいだったのに、干し肉も輪を掛けて硬くて、食事が終わるとなんだか顎がだるかった。
 これじゃ食事も嫌いになるはずだよ。

「できればコショーもいれたいな……」
「コショ?」
「ちっちゃいつぶでぴりっとしてていいかおりのやつ」
「種子系の薬草は大体そんな感じだね。どれのことだろう。聞いたことないな……」

 多分胡椒も、名前も見た目もちょっとずつ違うんだろうな。
 保管棚のどこかには入ってるのかしら。

 気になって保管棚の方に目を向けたら、火にもかけていないのにコトコトお鍋が湧いてきた。

「えっ!? かまどにかけなくていいの?」
「この台に火魔法がかけてあるから、かまどに火を起こさなくても、煮焚きはできるんだ」

 なぜかロイは少し自慢そう。
 なるほど、IH。
 魔法式のIHみたいなものなのかな。
 そういえば、火の気もないのに明るかったりしたのも、あれ魔法の照明器具なんだろう。

「どうやってつかうの?」
「踏み台から降りられる? ほら、この台の下のところ、魔石の隣にひねりが付いているだろう? この石に魔力を通してから、これをひねると、発動する火魔法の大きさを調節する。火が出ないから安全だし、既定の温度より熱くなりすぎたり一定の時間が経つと魔法は止まるから、別のことに熱中していたとしても鍋を焦がす心配もないんだ。その代わり、長時間煮詰めなきゃいけないときや、高温にする必要がある時は、別にかまどや火魔法を使わなくちゃいけないけど。便利だろう?」

 便利……だけど、これ誰かに勧められたな。
 おうちの人もよくこの人に独り暮らしなんてさせてるなー。ほんの数日の付き合いでも、生活能力もなくて危なっかしいのがわかってきたぞ。
 かまどを料理に使わせてたら、確実に火傷するか火事になるもんね。

 鍋の中では細かく切った具材が、大ぶりに切られたカーベージの隙間を浮き沈みしている。
 干し肉も柔らかくなってくれるといいけど、いきなり煮たんじゃ無理かしら。
 少し水で戻したりしてからの方がよかったかなぁ……。

「こんなに色々入れるなんて、料理人が作った料理みたいだ……」

 ロイがお鍋を見ながら不思議そうにしている。

「おうちでたべるごはんはいろいろいれない?」
「昔、実家にいた頃は専属の料理人がいたから、料理人以外が作る料理についてはよくわからない」

 実家にいる時って食べるだけになりがちよね。
 それはわからなくもない。
 しかし、専属の料理人て。流石貴族!

「スープに干し肉を入れるなんて上級冒険者の食事みたいだけど、この方法は誰に教わったの?」
「……わかんない」

 やたらに硬いししょっぱいと思ったら、やっぱりこちらの世界ではそういう使い方をするわけですね。

「それに薬草の知識だって……あれだけある薬草の中、アリンビルとリナシネの葉だけを選んだのには何か理由が……それに、コショ? とやらのことも……」

 ロイは自分の世界に入ってしまったのか、ぶつぶつと考えこんでいる。
 私は違うけど、リアル幼児の事だったら、そんなに考えても、考えるだけ無駄だと思うよ。

 鍋はふつふつ沸いたのか、ぐるんぐるんと対流を始めて、だんだんいい匂いがしてきた。
 さて、まずはお味見だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

転生悪女は逃げ出した

白生荼汰
恋愛
転生チート物のヒロインに転生しちゃうお話

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...