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第146話
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添い寝といっても、俺は寝付きが良いので京一郎と一緒に布団に入り、大きな体にしがみついて五分も経ったら夢の中だ。
まだ外には眩しい日差しが降り注ぎ、小鳥の囀りの他に遠くから子ども達の遊ぶ声が聞こえて来るが、俺は京一郎と二人でもぞもぞと布団に潜り込んだ。部屋の明かりを消してカーテンを閉めたから仄明るくて、空調の温度はやや低めに設定してあるのでふわふわの羽毛布団を被ると丁度良かった。
「なあ、京一郎きゅん……」
「何だ? あずさ」
「りょーちゃんが生まれて来たら、京一郎きゅんと二人っきりの暮らしは暫くお預けなんだな……」
「ずっと二人っきりが良かったのか?」
「そうじゃないけど、京一郎きゅんに上げ膳据え膳、添い寝までして貰う生活を手放すのが惜しくて……」
「……」
間近に見つめ合いながらそんなことを言うと、途中から少し嬉しそうに聞いていた京一郎は最後には眉を顰めた。だから俺は、ふふっと笑って「嘘だよ。京一郎きゅんとずーっと二人が良かった」と言って彼の胸に顔を埋めた。すると、長い腕が俺の体をすっぽり包み込み、きつく抱き締めた。
「ずっと一緒に居よう……あずさ。りょーちゃんや、二人目、三人目の子ども達が巣立つまでは二人きりになれないが……その後はずっと一緒だ」
「うん……っていうか、もし断っても許してくれないんだろ?」
「ああ。絶対に許さない」
京一郎が囁くように言ったのに、少し体を離した俺が微笑んで尋ねたら、彼は真面目な顔でこっくり頷いた。けれども、そんな風に束縛されるのも幸せだから、俺は再び彼の胸に顔を埋めると「良いよ、それで」と言った。
「出会った時は何が何だか分かんなかったけど、京一郎きゅんと家族になれて本当に良かった。何度も言うけど、りょーちゃんがお腹に居るのも本当に嬉しい」
「あずさ……」
「だから、京一郎きゅんと番になるの、楽しみなんだ。きっと今よりずっと、一つになれる……」
「あずさ」
逞しい胸に顔を埋めたまま、ぼそぼそと本当の気持ちを口にしていたら、京一郎が優しい声で名前を呼んだ。それから顎を掴まれ、顔を上向かされて……。
「ん……ふぅ」
「好きだ……」
激しく口付けられて、体の奥深い部分がズキン、と疼いた。けれども抱き合うことは出来ないから、互いの体を弄り合う。そのうちに京一郎の大きな手は腹の膨らみを優しく撫で始め、それが気持ち良くて俺は直ぐに夢の世界へ旅立った……。
あっという間に五月最後の週末がやって来た。月曜は憲法記念日だから三連休である——といっても年中夏休みの俺達には余り関係無い。
「京一郎きゅん! 良い季節だし、俺達の出会いの地である中央公園へウォーキングに行こうぜ! そんで、愛妻と愛犬の写真を撮り捲るんだ!」
キッチンの一角の壁を背にし、所謂「臨月スクワット」をしながらそう持ち掛けたら、朝食を作る為キッチンに立ったばかりの京一郎が「あ゛あ゛?」と言って振り返ったのでぎょっとした。
「何だ、どうした京一郎きゅん! いきなり半グレ期突入か?」
「半グレ期って何だ? いや、ちょっと喉に痰が絡まってな」
「そうなのか? 花粉か?」
「そうかも知れない……いや、もしかしたらぽん吉さんの背中を吸引し過ぎたせいかも」
「ああ、京一郎きゅん、いつもやってるもんな……」
愛犬家なら皆やっている(?)所謂「犬吸い」をやり過ぎたと聞いて、俺は納得した。細かい毛や頭垢を大量に吸い込むのに毎回やるのは、京一郎曰く「抗い難い誘惑がある」かららしい。
「京一郎きゅん! 俺なら毛はそんなに生えてないから、ぽん吉の代わりに吸引するのはどうだ? ああでも、お乳とお股ならいつも吸ってるか……」
「藪からステックなR18発言はやめろ」
良いことを思いついた、と思って勧めてみたら、京一郎は眉を寄せてそう言った——せっかくのアイデアなのに、と俺は口を尖らせる。
「それよりさっきの提案だけど、中央公園にウォーキングに行こうぜ! 新緑が綺麗できっと気持ち良いぞ!」
「分かった。では、お弁当を作って行こう。何が食べたい?」
「勿論、唐揚げにポテトサラダに林檎の兎、それからミートボールにだし巻き卵、振り掛けおにぎり!」
「いつもそれだな。では、さっさと作ってしまおう」
京一郎は俺のリクエストに微笑んで頷くと、部屋着の袖を腕捲りした……。
まだ外には眩しい日差しが降り注ぎ、小鳥の囀りの他に遠くから子ども達の遊ぶ声が聞こえて来るが、俺は京一郎と二人でもぞもぞと布団に潜り込んだ。部屋の明かりを消してカーテンを閉めたから仄明るくて、空調の温度はやや低めに設定してあるのでふわふわの羽毛布団を被ると丁度良かった。
「なあ、京一郎きゅん……」
「何だ? あずさ」
「りょーちゃんが生まれて来たら、京一郎きゅんと二人っきりの暮らしは暫くお預けなんだな……」
「ずっと二人っきりが良かったのか?」
「そうじゃないけど、京一郎きゅんに上げ膳据え膳、添い寝までして貰う生活を手放すのが惜しくて……」
「……」
間近に見つめ合いながらそんなことを言うと、途中から少し嬉しそうに聞いていた京一郎は最後には眉を顰めた。だから俺は、ふふっと笑って「嘘だよ。京一郎きゅんとずーっと二人が良かった」と言って彼の胸に顔を埋めた。すると、長い腕が俺の体をすっぽり包み込み、きつく抱き締めた。
「ずっと一緒に居よう……あずさ。りょーちゃんや、二人目、三人目の子ども達が巣立つまでは二人きりになれないが……その後はずっと一緒だ」
「うん……っていうか、もし断っても許してくれないんだろ?」
「ああ。絶対に許さない」
京一郎が囁くように言ったのに、少し体を離した俺が微笑んで尋ねたら、彼は真面目な顔でこっくり頷いた。けれども、そんな風に束縛されるのも幸せだから、俺は再び彼の胸に顔を埋めると「良いよ、それで」と言った。
「出会った時は何が何だか分かんなかったけど、京一郎きゅんと家族になれて本当に良かった。何度も言うけど、りょーちゃんがお腹に居るのも本当に嬉しい」
「あずさ……」
「だから、京一郎きゅんと番になるの、楽しみなんだ。きっと今よりずっと、一つになれる……」
「あずさ」
逞しい胸に顔を埋めたまま、ぼそぼそと本当の気持ちを口にしていたら、京一郎が優しい声で名前を呼んだ。それから顎を掴まれ、顔を上向かされて……。
「ん……ふぅ」
「好きだ……」
激しく口付けられて、体の奥深い部分がズキン、と疼いた。けれども抱き合うことは出来ないから、互いの体を弄り合う。そのうちに京一郎の大きな手は腹の膨らみを優しく撫で始め、それが気持ち良くて俺は直ぐに夢の世界へ旅立った……。
あっという間に五月最後の週末がやって来た。月曜は憲法記念日だから三連休である——といっても年中夏休みの俺達には余り関係無い。
「京一郎きゅん! 良い季節だし、俺達の出会いの地である中央公園へウォーキングに行こうぜ! そんで、愛妻と愛犬の写真を撮り捲るんだ!」
キッチンの一角の壁を背にし、所謂「臨月スクワット」をしながらそう持ち掛けたら、朝食を作る為キッチンに立ったばかりの京一郎が「あ゛あ゛?」と言って振り返ったのでぎょっとした。
「何だ、どうした京一郎きゅん! いきなり半グレ期突入か?」
「半グレ期って何だ? いや、ちょっと喉に痰が絡まってな」
「そうなのか? 花粉か?」
「そうかも知れない……いや、もしかしたらぽん吉さんの背中を吸引し過ぎたせいかも」
「ああ、京一郎きゅん、いつもやってるもんな……」
愛犬家なら皆やっている(?)所謂「犬吸い」をやり過ぎたと聞いて、俺は納得した。細かい毛や頭垢を大量に吸い込むのに毎回やるのは、京一郎曰く「抗い難い誘惑がある」かららしい。
「京一郎きゅん! 俺なら毛はそんなに生えてないから、ぽん吉の代わりに吸引するのはどうだ? ああでも、お乳とお股ならいつも吸ってるか……」
「藪からステックなR18発言はやめろ」
良いことを思いついた、と思って勧めてみたら、京一郎は眉を寄せてそう言った——せっかくのアイデアなのに、と俺は口を尖らせる。
「それよりさっきの提案だけど、中央公園にウォーキングに行こうぜ! 新緑が綺麗できっと気持ち良いぞ!」
「分かった。では、お弁当を作って行こう。何が食べたい?」
「勿論、唐揚げにポテトサラダに林檎の兎、それからミートボールにだし巻き卵、振り掛けおにぎり!」
「いつもそれだな。では、さっさと作ってしまおう」
京一郎は俺のリクエストに微笑んで頷くと、部屋着の袖を腕捲りした……。
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