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第125話
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あっという間に四月も末になり、ゴールデンウィークがやって来た。けれどもやっぱり俺達には余り関係無い——熟有り難いことである。
そして妊娠三十三週になった俺は、すっかり動く気を無くしてソファに引っくり返って——いなかった。最早、苦しくてそうすることが出来ないのである。腹が大き過ぎて立つと腰が痛いのに、横になっても腹が重くて苦しい。だからといって普通に座っていても苦しい。けれども背筋を伸ばして胡座をかいたらある程度楽だ——そのせいで座禅を組んでいるみたいになっている。
「京一郎きゅん、今日は昭和の日だぞぉ~。でも俺達は二人とも平成生まれ~」
「だから何だ」
スマホを弄るのに飽きてキッチンの京一郎にそう声を掛けたら、真面目な声で返事があった。作業中なのか、顔は出さない。
「もう令和の世なんだよな。俺達、一昔前の世代になっちまった!」
「そうだが、あずさはその割に幼いな。中学生、いや小学生みたいだ」
「小学生は言い過ぎだろ! 今の俺は立派なニート妻だ」
「ニート妻? 新しいジャンルだな」
「だって家事全般やってるのは京一郎だから、専業主夫はおかしいだろ。つまりニートなのは変わっていない……」
「自覚があるだけマシだな。でも、りょーちゃんが生まれたら子育てで忙しくなるぞ」
「そうなんよな。結構体苦しくなって来たし、幸せな食っちゃ寝生活はそろそろ終わり……」
そう言って、俺は切ないため息を吐いた。元元佐智子とは家事をする約束だったし、何もしないで良いのは妊娠中だけだったのだ。そう思うと、夏休みの終わりの小学生みたいにブルーな気分になった。
「ところでさ、赤ちゃん産むのって痛いんだろ? 嫌だな……」
「ああ、それは……」
会陰切開など想像するだけでも恐ろしいので、俺は敢えて検索しないようにしていた。
「ただでさえ京一ん◯んを出し挿れして酷使しているお◯んこを切るなんて!」
両手で顔を挟みながらそう叫ぶと、ようやく京一郎がキッチンから顔を出した。見ると、珍しく気の毒そうな顔をしている。
「俺もあずさの◯んこが心配だ。せっかく大事にしているのに……」
「ブッ」
まるで京一郎の私物みたいな言い草に、俺は思い切り噴いた。それから真っ赤になったけれど、眉を寄せて抗議する。
「どこが大事にしてるんだよ!! この前まで毎晩のようにヌポヌポ京一ん◯んを突っ込みまくってた癖に!!」
「凄い、人間はここまで下品になれるんだな……」
「感心するなし!!」
思い切り遣り返したら、京一郎は目を見開いて感慨深そうにそう言ったので俺はぷりぷりした。しかしどちらにせよ、俺の大事な場所はこれから辛い目に遭う。そう思うと可哀想になって撫で撫でしていたら、京一郎がぽっと頬を染めて「もしかして誘ってるのか?」と聞いたので、俺は「違ぇよ!!」と叫んだ……。
ところで昭和の日の今日は金曜で、土日と休むと月曜は平日だ。それから火水木と祝日が続いて、また金曜が平日で土日と続く。だから、間の二日間を休んだら十連休にすることが可能だ。
「おい、京一郎! ワイハは行ったことあるか? ワイハ!」
「ハワイか……冬休みにはよく連れて行かれたな」
「チキショー!」
十連休ともなれば、海外旅行に行く人も多いからそう聞いたら、京一郎は事も無げにそう答えた。俺はぎりぎり歯噛みすると、「パンケーキが食いてえんだ! ワイハのパンケーキ!」と叫ぶ。
「で、今からパンケーキを作れと言うんだな?」
「おっ、察しがいいな。流石は京一郎きゅん」
「ぽん吉さんとあずさの要求には直ぐ様応えられるよう、訓練されているからな」
「威風堂堂たる奴隷宣言だな! 凄いぞ京一郎きゅん!」
得意気にそう言った京一郎を褒め称えると、俺は「で、昼ごはんは何?」と聞いた。今は午前十一時過ぎで腹が減って来た。
「ああ、昼はほうれん草と鮭とポテトのグラタンを作るぞ。まだ下拵えの途中だが」
「おお! 鮭はもちろん厚切りの銀鮭だよな?」
「そうだ。昨日キョー◯イで買ったやつだ」
俺は肉に目が無いけれど、鮭は同じくらい好物である。ほうれん草とポテトも大好きだから最高の献立だな、と思ってうきうきした。けれども唐突に尿意に襲われ「お◯っこ!」と叫ぶ。
「毎回そう叫ぶのはやめろ。幼児か?」
腹を抱えてよっこらしょ、とソファから下りようとしている俺に、京一郎が呆れ顔で突っ込んだ。それを無視して「漏れちゃう、漏れちゃう」と呟きトイレへ急ぐ。
ちなみにこの家のトイレの温水洗浄便座は、センサーで蓋が自動で開くハイエンドモデルで癖になる使い心地だ。そしてトイレの内装はオフホワイトで統一されていて、大きな鏡の付いた洗面化粧台は大理石で出来ている。そんなラグジュアリーな空間で用を済ませると、きれいに手を洗いぽんぽこ腹を叩きながらリビングに戻った。
「京一郎きゅん! お寿司のトイレタリー買おうぜ」
「は?」
「いや、う◯このが本当は良かったんだけど、流石に来客がドン引きするからな」
「何を言っているのか全く理解出来ないんだが」
キッチンへ行くと、京一郎は鮭の身を解して皮と骨を取り除いているところだった。彼は俺の発言を聞いて首を傾げたが、手は止めないでてきぱき作業を進めている。
「『お寿司だぜ』っていうキャラクター知らん? 寿司に顔が付いてるゆるいイラストの……」
「ああ、あずさがグッズを持っているやつだな」
「そうそう。それのペーパーホルダーカバーがあってさ。お寿司のところがぬいぐるみになってんだけど……」
「俺はカバーを付けない主義だ。ステンレスのままの方が清潔だしすっきりしている」
京一郎に提案をばっさり切り捨てられたが、俺はもじもじするとスマホ画面を見せ、「でも、実はマルカリでもう買っちゃった……」と打ち明けた……。
そして妊娠三十三週になった俺は、すっかり動く気を無くしてソファに引っくり返って——いなかった。最早、苦しくてそうすることが出来ないのである。腹が大き過ぎて立つと腰が痛いのに、横になっても腹が重くて苦しい。だからといって普通に座っていても苦しい。けれども背筋を伸ばして胡座をかいたらある程度楽だ——そのせいで座禅を組んでいるみたいになっている。
「京一郎きゅん、今日は昭和の日だぞぉ~。でも俺達は二人とも平成生まれ~」
「だから何だ」
スマホを弄るのに飽きてキッチンの京一郎にそう声を掛けたら、真面目な声で返事があった。作業中なのか、顔は出さない。
「もう令和の世なんだよな。俺達、一昔前の世代になっちまった!」
「そうだが、あずさはその割に幼いな。中学生、いや小学生みたいだ」
「小学生は言い過ぎだろ! 今の俺は立派なニート妻だ」
「ニート妻? 新しいジャンルだな」
「だって家事全般やってるのは京一郎だから、専業主夫はおかしいだろ。つまりニートなのは変わっていない……」
「自覚があるだけマシだな。でも、りょーちゃんが生まれたら子育てで忙しくなるぞ」
「そうなんよな。結構体苦しくなって来たし、幸せな食っちゃ寝生活はそろそろ終わり……」
そう言って、俺は切ないため息を吐いた。元元佐智子とは家事をする約束だったし、何もしないで良いのは妊娠中だけだったのだ。そう思うと、夏休みの終わりの小学生みたいにブルーな気分になった。
「ところでさ、赤ちゃん産むのって痛いんだろ? 嫌だな……」
「ああ、それは……」
会陰切開など想像するだけでも恐ろしいので、俺は敢えて検索しないようにしていた。
「ただでさえ京一ん◯んを出し挿れして酷使しているお◯んこを切るなんて!」
両手で顔を挟みながらそう叫ぶと、ようやく京一郎がキッチンから顔を出した。見ると、珍しく気の毒そうな顔をしている。
「俺もあずさの◯んこが心配だ。せっかく大事にしているのに……」
「ブッ」
まるで京一郎の私物みたいな言い草に、俺は思い切り噴いた。それから真っ赤になったけれど、眉を寄せて抗議する。
「どこが大事にしてるんだよ!! この前まで毎晩のようにヌポヌポ京一ん◯んを突っ込みまくってた癖に!!」
「凄い、人間はここまで下品になれるんだな……」
「感心するなし!!」
思い切り遣り返したら、京一郎は目を見開いて感慨深そうにそう言ったので俺はぷりぷりした。しかしどちらにせよ、俺の大事な場所はこれから辛い目に遭う。そう思うと可哀想になって撫で撫でしていたら、京一郎がぽっと頬を染めて「もしかして誘ってるのか?」と聞いたので、俺は「違ぇよ!!」と叫んだ……。
ところで昭和の日の今日は金曜で、土日と休むと月曜は平日だ。それから火水木と祝日が続いて、また金曜が平日で土日と続く。だから、間の二日間を休んだら十連休にすることが可能だ。
「おい、京一郎! ワイハは行ったことあるか? ワイハ!」
「ハワイか……冬休みにはよく連れて行かれたな」
「チキショー!」
十連休ともなれば、海外旅行に行く人も多いからそう聞いたら、京一郎は事も無げにそう答えた。俺はぎりぎり歯噛みすると、「パンケーキが食いてえんだ! ワイハのパンケーキ!」と叫ぶ。
「で、今からパンケーキを作れと言うんだな?」
「おっ、察しがいいな。流石は京一郎きゅん」
「ぽん吉さんとあずさの要求には直ぐ様応えられるよう、訓練されているからな」
「威風堂堂たる奴隷宣言だな! 凄いぞ京一郎きゅん!」
得意気にそう言った京一郎を褒め称えると、俺は「で、昼ごはんは何?」と聞いた。今は午前十一時過ぎで腹が減って来た。
「ああ、昼はほうれん草と鮭とポテトのグラタンを作るぞ。まだ下拵えの途中だが」
「おお! 鮭はもちろん厚切りの銀鮭だよな?」
「そうだ。昨日キョー◯イで買ったやつだ」
俺は肉に目が無いけれど、鮭は同じくらい好物である。ほうれん草とポテトも大好きだから最高の献立だな、と思ってうきうきした。けれども唐突に尿意に襲われ「お◯っこ!」と叫ぶ。
「毎回そう叫ぶのはやめろ。幼児か?」
腹を抱えてよっこらしょ、とソファから下りようとしている俺に、京一郎が呆れ顔で突っ込んだ。それを無視して「漏れちゃう、漏れちゃう」と呟きトイレへ急ぐ。
ちなみにこの家のトイレの温水洗浄便座は、センサーで蓋が自動で開くハイエンドモデルで癖になる使い心地だ。そしてトイレの内装はオフホワイトで統一されていて、大きな鏡の付いた洗面化粧台は大理石で出来ている。そんなラグジュアリーな空間で用を済ませると、きれいに手を洗いぽんぽこ腹を叩きながらリビングに戻った。
「京一郎きゅん! お寿司のトイレタリー買おうぜ」
「は?」
「いや、う◯このが本当は良かったんだけど、流石に来客がドン引きするからな」
「何を言っているのか全く理解出来ないんだが」
キッチンへ行くと、京一郎は鮭の身を解して皮と骨を取り除いているところだった。彼は俺の発言を聞いて首を傾げたが、手は止めないでてきぱき作業を進めている。
「『お寿司だぜ』っていうキャラクター知らん? 寿司に顔が付いてるゆるいイラストの……」
「ああ、あずさがグッズを持っているやつだな」
「そうそう。それのペーパーホルダーカバーがあってさ。お寿司のところがぬいぐるみになってんだけど……」
「俺はカバーを付けない主義だ。ステンレスのままの方が清潔だしすっきりしている」
京一郎に提案をばっさり切り捨てられたが、俺はもじもじするとスマホ画面を見せ、「でも、実はマルカリでもう買っちゃった……」と打ち明けた……。
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