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第10話
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結局同棲の話は断ったが、京一郎はなおも食い下がって、それならすぐそばの持ちマンションの一室に住まないか、と誘った。
徒歩一分も掛からないから三食食べに来れば良いと言われて、俺はあっさり申し出を受けることにした。一人暮らしは長年の夢だったのである。
朝食を食べた後、俺は再びソファに掛けて「ス◯ナチュ」鑑賞を再開した。
京一郎も隣に腰を下ろしてぽん吉を膝に乗せ、優しく頭を撫でている。しかし、少しでも近付くとぽん吉がウウーッと唸るので、俺は端っこに座って彼らとは出来るだけ離れていた。
「ぽん吉は、何で俺のこと、そんなに嫌いなんだ……」
ちょっと体勢を変えただけでまた唸られたからそうぼやくと、京一郎はフフン、と言ってから答えた。
「ぽん吉さんは気位が高いからな。有名犬舎出身だし、代代ショーでチャンピオンの血筋だ」
「へえ、それならめっちゃ高かったんじゃね!?」
「百◯十万だ」
「アホみてえに高ぇ!!」
思わずそう叫んだら、京一郎はムッとした顔で「アホみてえとは何だ」と文句を言った。だから慌てて「でもそう言われてみると、めっちゃきれいな犬だよな、ぽん吉さん!」とおべっかを使った。
「こんなものに金を使うのは、本当はアホみてえだと分かっている……。でも金が有り余っているんだ」
「なんかナチュラルにめっちゃ嫌味で引くわ!」
俺がそう言ったら、京一郎は眉を寄せて続けた。
「しかし、運命の番にはきっと出会えないと諦めていたからな。それでも完全には諦められなくて、純潔も守っていたんだ。でも、流石に一生一人だと思うと、犬で良いからパートナーが欲しくて……」
いつも通り真面目な顔だったが、少ししょんぼりしているように見えたので、俺は「なら仕方ねえな」と慰めてやった。それから、ふと思い出して聞く。
「そういや、パートナーはぽん吉さんだ、とか言ってたけど、やっぱり俺は愛人なのか?」
「いや、お前は俺の妻だ。いや、妻になって欲しい」
「つ、妻って! ってか、さらっとプロポーズすんなし!」
真っ赤になってそう言ったら、京一郎はぽん吉を床に下ろして寄ってきた。それから俺の手を取り、優雅に甲にキスをして言う。
「俺と結婚してくれ、園瀬梓。一生大事にする」
「ええええ」
本当にプロポーズされたから、俺は手を握られたまま目を白黒させた。
「嬉しいけど、今すぐに返事は無理だから! もっとアンタのこと、知らないと……」
「そうか……仕方ないな。だが、前向きに検討してくれるということだな?」
「え、ええ? う、うん……まあ」
「それなら良い。ところで、婚約指輪のダイヤのカラット数はどうする?」
「カラット数ってめっちゃ具体的だな! ってかまだ返事してねえ!」
俺はそう叫ぶと握られている手を引っ込めようとしたが、逆にぐいと引っ張られてバランスを崩した。弾みで京一郎の腕の中へ倒れ込む。
「まだヒートは起きないのか? ずっと待っているのに……」
俺をギュッと抱き締めた京一郎が耳元でそう囁いたから、真っ赤になってまた叫ぶ。
「そ、そんなに噛みたいのかよ!」
「そうだ。それに、ヒートでなくても抱きたい。良いか?」
「だ、だめ……」
体を離して間近に見つめ合いながらそう言われて、勝手に腹の奥がきゅんとした。だから、弱弱しく断ることしか出来なかった……。
徒歩一分も掛からないから三食食べに来れば良いと言われて、俺はあっさり申し出を受けることにした。一人暮らしは長年の夢だったのである。
朝食を食べた後、俺は再びソファに掛けて「ス◯ナチュ」鑑賞を再開した。
京一郎も隣に腰を下ろしてぽん吉を膝に乗せ、優しく頭を撫でている。しかし、少しでも近付くとぽん吉がウウーッと唸るので、俺は端っこに座って彼らとは出来るだけ離れていた。
「ぽん吉は、何で俺のこと、そんなに嫌いなんだ……」
ちょっと体勢を変えただけでまた唸られたからそうぼやくと、京一郎はフフン、と言ってから答えた。
「ぽん吉さんは気位が高いからな。有名犬舎出身だし、代代ショーでチャンピオンの血筋だ」
「へえ、それならめっちゃ高かったんじゃね!?」
「百◯十万だ」
「アホみてえに高ぇ!!」
思わずそう叫んだら、京一郎はムッとした顔で「アホみてえとは何だ」と文句を言った。だから慌てて「でもそう言われてみると、めっちゃきれいな犬だよな、ぽん吉さん!」とおべっかを使った。
「こんなものに金を使うのは、本当はアホみてえだと分かっている……。でも金が有り余っているんだ」
「なんかナチュラルにめっちゃ嫌味で引くわ!」
俺がそう言ったら、京一郎は眉を寄せて続けた。
「しかし、運命の番にはきっと出会えないと諦めていたからな。それでも完全には諦められなくて、純潔も守っていたんだ。でも、流石に一生一人だと思うと、犬で良いからパートナーが欲しくて……」
いつも通り真面目な顔だったが、少ししょんぼりしているように見えたので、俺は「なら仕方ねえな」と慰めてやった。それから、ふと思い出して聞く。
「そういや、パートナーはぽん吉さんだ、とか言ってたけど、やっぱり俺は愛人なのか?」
「いや、お前は俺の妻だ。いや、妻になって欲しい」
「つ、妻って! ってか、さらっとプロポーズすんなし!」
真っ赤になってそう言ったら、京一郎はぽん吉を床に下ろして寄ってきた。それから俺の手を取り、優雅に甲にキスをして言う。
「俺と結婚してくれ、園瀬梓。一生大事にする」
「ええええ」
本当にプロポーズされたから、俺は手を握られたまま目を白黒させた。
「嬉しいけど、今すぐに返事は無理だから! もっとアンタのこと、知らないと……」
「そうか……仕方ないな。だが、前向きに検討してくれるということだな?」
「え、ええ? う、うん……まあ」
「それなら良い。ところで、婚約指輪のダイヤのカラット数はどうする?」
「カラット数ってめっちゃ具体的だな! ってかまだ返事してねえ!」
俺はそう叫ぶと握られている手を引っ込めようとしたが、逆にぐいと引っ張られてバランスを崩した。弾みで京一郎の腕の中へ倒れ込む。
「まだヒートは起きないのか? ずっと待っているのに……」
俺をギュッと抱き締めた京一郎が耳元でそう囁いたから、真っ赤になってまた叫ぶ。
「そ、そんなに噛みたいのかよ!」
「そうだ。それに、ヒートでなくても抱きたい。良いか?」
「だ、だめ……」
体を離して間近に見つめ合いながらそう言われて、勝手に腹の奥がきゅんとした。だから、弱弱しく断ることしか出来なかった……。
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