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にゃあああにゃあああにゃあああ!

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夜な夜な。
人々が寝静まる頃、カフェはひっそりと散歩に出掛けます。

カフェ「んー……!すっかり昼夜逆転ねえ」のびー

カフェは屋根から屋根へと、遊ぶように移動します。

カフェ「今夜は、どこに忍び込んで悪戯してやろうかしら」

まったく悪い猫です。

カフェ「そろそろ壁に、お前たちは地獄に堕ちる、とでも書いてみようかしらね」るんるん

しかも、かなりの性悪です。

カフェ「おやまあ」

さて。
カフェは、真夜中なのに明かりが見える家を見つけました。

カフェ「こんな夜遅くに、何をしているのかしらねえ」わくわく

しゃんと胸を張って、かかとを上げて、尻尾をリズム良く揺らしながら、おしとやかに明かりのある家に近づきます。

カフェ「こんばんにゃ」のぞき

二階の窓をおまじないを使って開けると、中へ忍び込み、慎重に一階へ降りました。

カフェ「ここ、時計屋さんなのね」

部屋の中には、いろんな形をした時計が、一定の間隔で並んでいました。

カフェ「へえ。中々いいじゃない」

素敵な時計ばかりで、思わずうっとり。

カフェ「なんてのはいいの。憂さ晴らしに悪戯しなきゃ」

カフェはそう言って、明かりの見える部屋の奥へと向かいました。
するとそこには、若い青年がひとり、しかめっ面で時計とにらめっこしていました。

カフェ「時計の修理でもしているのかしら?」

いきなり。
青年は手元にある時計を、手に持つ工具で叩き壊しました。

カフェ「あらやだ」

何度も何度も叩くので、飛び散った破片の一つが、カフェの額に勢いよく当たりました。
なので、つい、カフェは声を漏らしてしまいました。

テクア「何だお前。どこから忍び込んだ」

カフェは、つん、と無視してやりました。

テクア「にしても。ははは!お前変な模様をしているな!」

その言葉を聞いて、にゃんだふるおにゃんこきっく、を青年の顔面にくれてやりました。

テクア「ったあ!何すんだお前!」

青年はカッとなって工具を構えましたが、ハッとなってそれを机に置きました。

テクア「邪魔しないでくれ。俺は忙しいんだ」

カフェ「なら。なおのこと、邪魔してやるわ」ふふっ

テクア「俺はな。今、最後の仕事をしているんだ」

カフェ「若いのに最後?辞める気?」

テクア「もう長くない幼馴染みがいてな。指輪の代わりに、最高の時計を渡すと約束したんだ」

カフェ「濃い顔に似合わず、にゃんともシャレオッティね」

テクア「俺、顔は濃いけどさ、お洒落には自信があるんだぜ。子供の時から、ずっと時計に夢中だったからさ」

カフェ「ふーん」

テクア「だから今まで、いろんな形のお洒落な時計を作ってきた。でもさ、この時世に時計なんか売れないし、幼馴染みは死にかけだし。もう、わけわかめだぜ!」どんっ!

カフェ「呪われてんじゃないの?」

テクア「親も早くに亡くしたし。俺、もしかして呪われてる?」

カフェ「気づいた?」

テクア「はー……。もいいか、幼馴染みには悪いけど、このまま引退しよう」

カフェ「甘ったれんじゃにゃいよ!」

ねこぺちん!

テクア「え」

カフェ「ふにゃしゃふにゃららにゃにゃあご!」ふしゃあ!

残念なことに、カフェは言葉を話すつもりがないので。
青年にはずっと、こうしか聞こえていません。

カフェ「ということで、私をデルモにするといいわ」

テクア「……そうだ!猫の時計にしよう!」

カフェ「世話の焼ける坊やね」やれやれ

それから、カフェが毎晩訪れ。
ある夜、青年は遂に時計を完成させました。

テクア「っしゃできたあ!変な模様の猫時計!」

完成した時計は、カフェを模した猫が膝を曲げて踏ん張り、ネズミの形をした時計を頭上にかかげているという、それはもう見たくも触りたくも貰いたくもな……。
こほん。それはそれはお洒落な時計に仕上がりました。

カフェ「呆れたわ。どうしてこんなことになったのよ」

テクア「うんうん、これは見事な出来、まさしく最高だぜ!」ふふん

カフェ「呪いのせいにしといてやりましょう」

テクア「時間が惜しい。こっそり、今から枕元に届けよう」

カフェ「そうなさい」

テクア「お前も来るか?」

カフェはその言葉に、一度頷きました。

テクア「今更だけど、とても不思議な猫だ。まるで、人の言葉を理解しているようだ」

カフェ「これでも魔女なのよ」

さてさて。
青年とカフェは、幼馴染みの住む家に着きました。

テクア「不思議で利口な猫よ。どこからか忍び込んで、鍵を開けておくれ」

カフェ「おまじないで、ほい」

カフェは続けて、扉を開けてやりました。

テクア「お前、まさか魔女の使いか?」

カフェ「さ、行くわよ」ととと

テクア「あ、待ってくれ」そろー

幼馴染みの両親に見つからぬよう、息を殺して、彼女の部屋に入りました。
そうしたら、彼女は起きていました。

チカ「テクア。あなたテクアね」

テクア「しっー」

テクアは、ベッドに横たわるチカの隣に座りました。

テクア「どうした?眠れないのか?」

チカ「ええ。あなたが恋しくて毎晩」

テクア「俺も同じだ。恋しくて眠れない夜を過ごしてきた」

チカ「こうして会えて嬉しいわ」

テクア「俺もさ」

テクアとチカは、優しく抱き合いました。

テクア「でも、見つかったらおしまいだ。君の両親は、稼ぎの悪い俺が嫌いだから」

チカ「それは違うわ」

テクア「え?」

チカ「両親は、私達が深く傷つき悲しまないように、敢えてあなたを遠ざけたのよ」

テクア「そうだったのか」

チカ「でも、そうする必要はもうないわ」

テクア「それはどういうことだ?」

チカ「わかるの。私の命の灯火が、あと少しで消えること」

テクアは体を起こして、その言葉に驚きます。

テクア「そんな、もう少し頑張ってくれ。俺が家にある時計を全部売って、有名な医者を連れてくるから」

チカ「有名な医者?」

テクア「ああ、見るだけでその患者が助かるかどうか分かるんだ。何よりも、薬草一つでどんな病気も治すんだぜ」

チカ「そう。けれど、それも無理ね」

テクア「どうして」

チカ「私は、助からない人だと思うから」

テクア「そんなの、見てもらわなきゃ……くそっ。どうして諦めるんだよ」

チカ「諦めたわけじゃないわ。先に、天国に行ってあなたを待つのよ」

テクア「天国で……」

チカ「天国なら、辛い思いをせずに、ずっと一緒にいられるでしょう?」

テクア「そうだね」

カフェ「天国なんて、本当にあると思う?」

テクア「!」ふりむき

カフェは、構わず語りかけます。

カフェ「メルヘンのように、そう都合よくいくかしらねえ」

テクア「お前、いきなり何を言い出すんだ」

チカ「猫さん」

カフェ「私は魔女よ」

テクア「魔……魔女だって?」

チカ「魔女さん。天国は、必ずあるわ」

魔女「どうしてわかるの?」

チカ「信じているから」

魔女「そう。あなたは信心深いのね」

テクア「おいお前。魔女と言ったな」

カフェ「ええ」

テクア「魔女はチカを救うことができるか?」

カフェ「…………」

チカ「テクア」

カフェ「できるわ」

テクア「ならお願いする」

カフェ「…………」

テクア「どうした?おい」

カフェ「おまじないはね。かける人の想いが強ければ、かける人とかけられる人を繋ぐ確かな絆があれば、不可能だって可能にできるわ」

テクア「つまりどういうことだ」

カフェ「今のあたしには、あんたに対する強い想いもなく、あんたとの確かな絆もない」

テクア「じゃあ、やっぱり無理ってことじゃないか……」

カフェ「そうね」

テクア「この……この意地の悪い魔女め!たぶらかしやがったな!!」

カフェ「は?あたしは」

テクア「でていけえ!そうしないと、お前なんか火炙りにしてやるぞ!さっさとでていけえ!!」

カフェ「!」びくっ

チカ「テクア。テクア、落ち着いて」

カフェはその場から逃げるように立ち去り、その家から急いで出ました。

カフェ「二人を救いたかっ……たなんて。はんっ、そんな馬鹿なことないわ」

背後の家からは怒声が止まず、カフェはそれを煩わしく思い、そこからさっさと離れました。

カフェ「あたしは何がしたいの。どうして生きているの」

カフェは道の真ん中で、ひとり、朧げな黄金色の満月に向かって、ひとしきり鳴き叫びました。

おっちゃん「うるせえぞ!ばかやろう!」

カフェ「あん?お前を頭から食ってやろうか!」

おっちゃん「なんだと、どこのどいつだ!殺してやる!」

カフェ「殺れるもんなら殺ってみな!」

と吐き捨てて、カフェは家に帰ると、チトとココの間に落ち着きました。

カフェ「そもそも、あんた達にさえ出会わなければ。出会わなければ……」

カフェは軽く、チトの頬を爪で引っ掻いてやりました。
すると、少し血が出てしまいました。

カフェ「ふふふ。このまま目玉を抉って、舌を噛み切って、喉を引き裂いてやろうか」

チト「殺すぞ」ぎろ

カフェ「あらおはよう」

チト「夜中に人引っ掻いてぶつくさ殺人計画語って何があらおはようだこのクサレババア」

チトは、両手で握り潰すように、カフェの喉を絞めます。

カフェ「結構……。殺りたきゃ……殺りな……さ……」

チト「…………」

チトは、ふと、カフェの首から手を離してやりました。

カフェ「けほっ!こほっ!」

チト「危ね。楽に死なせるとこだった」ふー

カフェ「殺しなさいよ。どんな方法でもいいから、今すぐに!」

チト「やだし」

カフェ「どうしてよ!」

チト「ココが見てる前で、じっくりいたぶって、最後にかまどの業火に投げてやるから。今は無理」

カフェ「そんなくだらな」

チトはカフェの頭を全身を、息が吸えなくなるほど、強く抱きしめました。

チト「静かにして、ココが起きるでしょう。それに何様のつもり?ワガママ言わないの」

カフェ「ぷはっ」

チト「まったく。狂ったババアの余生を面倒見るのは、地獄だわ……」ふあー…

カフェ「離して」

チト「やだし……」ねむねむ

カフェ「…………」

チト「…………」すや…

カフェは、チトの頬の傷をペロリと舐めて癒すと、そのまま、すやすやと眠りましたとさ。

続け!
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