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みんなが幸せなんてクソくらえ!

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温かく心地よい朝のこと。
カフェに、こんな張り紙がありました。

暴れ牛祭りを開く。
俺の暴れ牛に勝てたら、若い雌牛と雄牛を、めいめい一頭ずつくれてやるのだ。
飢饉に貧困に苦しむ町人共よ。
それこそ、命を賭けて挑むがいい。
約束は必ず果たすのだ。
日時は明後日の昼なのよ。

店長「おこそとの」

チト「あのね。か弱い少女が暴れ牛に勝てるわけ?」

店長「えけせてね」

チト「そうね。もしかしたらがあるかも」

店長「いかさらだ」

チト「考えておくわ」

太陽が山に少し隠れた頃、チトはフェルト人形屋さんにいました。

チト「おじさん。この時世にフェルト人形なんて売れるわけ?」ちくちく

フェルトおじさん「ああ、売れないよ」ちくちく

チト「他に仕事はないの?」ちくちく

フェルトおじさん「あればいいんだがね」ちくちく

チト「木こりもフェルトも同じね」ちくちく

フェルトおじさん「木こり?」ちくちく

チト「私の親、木こりなの。もちろん私も手伝っていたわ」ちくちく

フェルトおじさん「なんだ。君は、やっぱりいい子じゃないか」ちくちく

チト「口を動かす暇があったら、手を動かしなさい」ちくちく

フェルトおじさん「よし。今日はもういいだろう」

チト「いや、はやすぎるし」

フェルトおじさん「いいんだよ今日は。はい、今日の賃金」すっ

チト「たったこれっぽち?全然足りないじゃない、もう今日はいらないわ」

フェルトおじさん「遠慮しなくていい。受け取ってくれ」

チト「遠慮?生意気言わないでちょうだい」すたすた

リート「あ、もう帰るの?またね!」

チト「あばよ」てをふりふり

太陽がすっかり隠れた頃、チトは家に帰り着きました。

チト「ただいま」

ココ「おかえり!」

チト「カフェはどうしたの?」

ココ「まだ猫になれないみたい」

チト「なら今の内に」

カフェ「何するつもりよ」じとー

チト「あら残念」

ココ「チト、今日は早かったね」

チト「ココに会いたかったからよ」

ココ「本当?」

チト「もちろん」

ココ「嬉しいな!」

チト「ふふ。さ、まずはお風呂に入りましょうか。カフェ」

カフェ「はいはい、入れてきますよ」

湯上がり後。

チト「はーさっぱり」

カフェ「あたしは苦手」ぷるる

チト「あ、そうだ。明後日ね、楽しみが出来たよ」

ココ「楽しみ?」

チト「暴れ牛を殺したら、なんと、若い雌牛と雄牛が貰えるの!」

ココ「ええ!すごい!」

チト「それを、我が家へ届けましょう」

カフェ「いつもみたくワシに化けても、さすがに運べやしないわよ」

チト「怪物みたいな大きな鳥に化けなさい」

カフェ「そんなことしたら、町中大騒ぎになるわ」

チト「ちっ」

ココ「帰ろう」

チト「え?」

ココ「チト、久しぶりに帰ろうよ!」

チト「あーそれもありね。ええ、そうしましょうか!」

ココ「やったー!」うきうき

カフェ「それで。暴れ牛は、どうするおつもり?」

チト「おまじないをかけなさい」

カフェ「途中で解けたらどうするのよ」

チト「途中で解ける?夜にしかかけらんないの?」

カフェ「当たり前じゃない」

ココ「ねえ。おまじないって、いつ解けるの?」

カフェ「さあねえ。お菓子の家だって、毎日新しくしてたから。今頃は腐り果てていることでしょう」

ココ「ふーん」

カフェ「この家にある、おまじないで作った家具だって、あたしが毎日しっかりと、おまじないをかけているのよ」

ココ「そうだったんだ!」

チト「とにもかくにも何であれ、殺られる前に殺るだけよ」

カフェ「そもそも。おまじないを人前で使わない方が、あんたの身のためよ」

チト「その説教は聞き飽きた」

カフェ「あんたね」

チト「あなたは黙って、ただ私に利用されなさい!」

カフェ「ふんっ!」ぷい

ココ「チト」

チト「ん?」

ココ「あまり無茶しないでね」

チト「わかってますよ」

陽が廻り訪れた、お祭りの日。
けれど町は、特に賑わってはいませんでした。

チト「ここにある出店、全部ぼったくりじゃないの」

ココ「ひどいね」

チト「あのクソ野郎。だから金持ちは大っ嫌いなのよ!」

ココ「チト!暴れ牛が現れたよ!」

広く四角い、少し手の込んだ木の柵の中で、立派な角をもった大人よりも遥かに大きな体の暴れ牛が、勇ましく挑戦者を待ちます。

ココ「ふぇぇん……」びくびく

チト「美味しそうね」じゅるり

暴れ牛は鼻息を荒くして、目をギョロつかせて、大きな雄叫びを一つ上げました。

ココ「ひぃ……!やっぱり、誰も参加しようとしないね!」びくびく

チト「いい機会じゃないの。ありがたく頂戴するわ!」

ココ「ケガしないでね……」びくびく

しばらくして、一人の挑戦者が柵を飛び越え、暴れ牛の前へ余裕の態度で立ちました。

モロモロ「きましたか」

チト「誰よおばさん」

モロモロ「私は見届け人の、モロモロです」

チト「じゃ。あの牛が息絶えるのを、そこで、しっかりと見届けなさい」

モロモロ「その手に持つのは、鉄の棒に油を塗って、火をつけたものですか」

チト「武器の持ち込み禁止とは、どこにも書いてなかったし」

モロモロ「はい構いませんよ。それでどうにかなるならね」

暴れ牛がチトめがけ、勢いのままに体当たりをしました。

チト「ふぅ……」ほっ

チトは牛の角を空いた左手で掴んで受け止めると、そのまま、ヒビが入るほど強く握りしめ離しません。

チト「さっさと終わらせるよ」

そう言って、力任せに角を捻って牛を倒すと、燃える鉄の棒を牛の体に頭へと、幾度も乱暴に振り下ろしました。

チト「私は生きるために情けを捨てたの。だから、悪く思わないでね」

牛は抵抗することも許されず、徐々に弱っていきます。

チト「これで……さようなら!」

最後に。
心臓に鉄の棒を突き立てられた牛は、目を見開いたまま、舌を口から出し、確かに死にました。

チト「これを早急に焼き肉にして、町の人に配りなさい。私達じゃ食べきれない分が、もったないし」

モロモロ「おぞましい……あなたはやはり」

チト「ねえ、聞いてんの?」

モロモロ「はっ……ああ。かしこまりました」ぺこり

チト「ココー!今日は牛の焼き肉よー!」

ココ「わあ!牛なんて初めて!楽しみー!!」わくわく

こうして。
今日だけこの町は、焼き肉祭りで、みんながお腹いっぱいになりましたとさ。

カフェ「あら珍しい!これをお土産なんて!」きらきら

ココ「今日は、みんなが幸せな日だからね!」

カフェ「そう。ありがとうねえ」なでなで

ココ「うん!」

チト「はんっ。みんなが幸せなんてクソくらえよ」ぼそっ

続け!
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