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両想い
37 後夜祭
しおりを挟む夜空にパッと大輪の花が一つ咲いた
七色の花弁は細雨のように、ゆるりと降り注ぐ
それを、親父と娘の綾羽は美しさに見惚れるまま満足そうに全身に浴びた
片や息子の誠清は、夜はこんなに綺麗なんだ、と感心しながらも地面に印す赤いマーカーをしっかり避けて被害を免れた
被害というのも、その花火は敵の攻撃なのだ
クジラが潮を吹くように宝船から、ひゅー、と一条の光が打ち上がった
これを噴気枝垂花火という
これによって親父と娘は体力の三分の一を削られた
幸いなことに娘が使役するメジェドニアンは、自律思考して回避に成功した
ペットがやられると、ペットと共有した分の体力値を持っていかれる
それは回復も出来ないので気をつけねばならない
ところでメジェドニアンとは果たして何者か
サイズはB1ポスター級
その見た目は、猫耳が立ち猫目が光る白い布
端から下へ真っ直ぐに琥珀色の猫尾が伸びているが、しかし、地面に着くことはなく僅かに宙に浮いている
中を覗こうとしても暗黒空間になっているので不可視で、また布自体が固く抵抗するために捲り上げることも不可能
満腹の世界の砂漠に、夜六時以降、それも満月の時に限って出現する中ボスクラスのレアネコツキだ
助けてくれー!
親父が悲鳴を上げる
鯨賓艦ダンドリオンに戯れつかれて、せっかく回復した体力がまた減っていく
ダンドリオンは子供が怖がらないよう、猫が戯れつくふうに体を擦りつける形の近接攻撃を仕掛けてくる
そして、今まさに親父が突き飛ばされたのは尾を振った攻撃によるものだ
そのうえ追い打ちとばかりにヒレを上手に使って這い寄り鬼気迫る
親父はすっかり怯えて尻をついたまま後退する
しろにゃん!お父ちゃんを助けてあげて!
メジェドニアンは綾羽の指示に従って目から短いビームを放った
この得意技はアビシニアイ光線という
それはうまく機能して、ダンドリオンの注意を引くことに成功した
しかし、ダンドリオンは観光バス級、対してメジェドニアンはB1ポスター級
その体格差は圧倒的だ
ここで息子の遠距離武器が火を吹く
Aランク、蒸気機関銃D51
両手で抱えねばならぬほど大きく重い
アチアチの炭が爆ぜるような光線弾を撃ち、なんと秒間、五十一発も射出される
そうすると今度は息子が狙われた
ダンドリオンは完全に陸に上がって息子を追う
逃げようと試みたが、武器の重さが災いして直ぐに追いつかれてしまい、激しく戯れつかれてしまう
誠清!いま助けるぞ!
親父が脇からダンドリオンに躍りかかる
まるで和太鼓を叩くように、両手に持ったケミカルライトでダンドリオンの船体をドンドコドンドコ乱打する
激しく、もっと荒々しく、そして男らしく
親父、、、負けるなよ
尾でしばかれた息子は横倒れになる
最後にグッドサインを送ると、生まれた瞬間を思い出させるピュアな笑顔を残してリタイアした
誠ー清ー!!
わなわなと激昂して、親父の乱打はいよいよ烈火の如く猛る
動作は大きく派手に縦横無尽に広がった
振り上がったケミカルライトは背後まで引かれ、次の瞬間にはムチのように振られた
敵に直撃する度に、ケミカルライトに設定した光と同じ色の火花が散る
右は息子が選んだ緑
左は娘が選んだ黄
ウオオオオオオン!!
親父の怒号か
ダンドリオンの咆哮か
娘の綾羽にはちょっと区別がつかない
お父ちゃん走って!
娘の声に反射的に体が動いた
親父はダンドリオンの戯れつきを、さっと飛び退いてかわすと、自慢の俊足で川辺を駆け回る
それは面白い具合に影響して、ダンドリオンは、あっちこっちとグルグル向きを変えて惑わされた
チャンスだ!
しろにゃん!アバルルナイール!!
綾羽が呪文を叫んで必殺技の発動を命じる
応えて、メジェドニアンの布から飛び出した猫の大群が大挙して敵へ襲いかかる
物理的接触のない攻撃で、猫の大群はダンドリオンの体をすり抜けてゆくが、さながら爪を研ぐ様にカリカリと敵の体力を削ぎ落とす
だが、タイミングが悪かった
次にダンドリオンがバーストチャージに入った
プレイヤーからすれば、それはバーストチャンスとなる
バーストゲージを削り切れば敵の必殺技を阻止するだけでなく、しばらく動きを止めることが出来るためだ
ああー惜しい!
娘が小石を蹴って悔しがる
あと少しのところで間に合わなかった
ダンドリオンは予備動作として大きく口を開いた
プレイヤー達に影響はないが、嵐の勢いで空気を吸い込むと、そこにエネルギーを加えて、大きい七色に輝く花火球を作り出した
間もなくそれをこちらへ放つことは二人にも分かった
娘はメジェドニアンを抱いて逃げの態勢をとる
一方で親父は恐れず真正面から立ち向かった
お父ちゃん無茶だよ!?
驚いた娘が戸惑いの悲鳴を上げる
その時には既に、親父は高く跳躍して宙を舞っていた
敵の頭上へ力を込めてケミカルライトを
叩き込む
その衝撃で親父の体は当然、跳ね返ってしまう
結果として花火球と対面することになってしてまった
目に優しい光なのでそこだけは安心していい
こりゃやっべえぞ、、、!
親父は焦って振り返ると地を蹴った
それでも遅いし足がもつれた
ほぼ同じタイミングで、線香花火みたいに火花を伸ばす二十号の花火球が口からやや斜め上方に放たれた
それは地面に落ちた後、弱い力でプレイヤーを引き寄せる効果を持っていた
親父は間近にいたせいでその引力に捕われてしまう
お父ちゃん逃げてー!
ダメみたい、、、
諦めるなー!もっと足を動かせー!
娘は気付いていた
花火球は点滅していて、それが加速していることに
しかし応援も虚しく時間切れとなる
必殺技、獅子吼花火がタンポポみたいな綺麗な球体を咲かせた
お父ーちゃーん!!
親父は温かい熱に焼かれてリタイアした
力の抜けた妹の隣へ復活した兄が駆けつける
大丈夫か?
まだまだ
なら二人で挽回するぞ
おっけ
「力を合わせて親父を助けるんだ」
ちょい恥ずかしいけど
うん、やろう
兄は再び蒸気機関銃を構えた
テンキーを指で押して1941と入力する
スキル、モードチェンジが発動
宙に浮いて、あっという間に蒸気機関車の姿へと変形した
それを右腕にはめて左手で支える
覚悟は決まった
行くぜ
短く息を吐いて突撃する
近接戦闘形態は攻守一体が自慢
手甲となって身を守り、鉄槌にして敵を討つ
これで戯れつくダンドリオンと力比べをしながら一進一退の攻防を繰り広げる
まるで猫と遊ぶように
お兄ちゃん頑張って!
妹は手に汗握り、メジェドニアンに攻撃を命じながらエールを送る
させるか!
少しでもダンドリオンの視線が妹の方へ向けば頬を殴って目を覚ましてやった
お前の相手は俺だ、と言わんばかりの猛攻は衰え知らず
そこへ青い稲妻が飛来してダンドリオンの鼻面に炸裂
敵はその威力に耐えかねて仰け反ると
下半身が川に浸かるまで後退した
兄貴らしくなったな
妹をよく守った
偉いぞ
小さな手が背を二度叩いた
息子はようやく思い出したように息を弾ませる
遅い
でも、ちょうど良い
ダンドリオンがバーストチャージに入った
そこで親父が突然、ケミカルライトをふりふり踊り出す
え!なにこれ!
決して、本当に、ふざけているのではない
誠清止めて!
どうか信じてほしい
止めてくれー!
これはライブフィーリングといって、仲間のテンションとバイブスとエモとノリと攻撃力を爆上げする支援スキルなのだ
今はいつでも必殺技が使える状態にあるので、ケミカルライトの光は代わるがわる色を変えて麗しい
ちなみに、説明をよく読まない子供に大人までもが犠牲となる辱めの罠として有名である
さて、そうして美少女がポニーテールを振り乱して可愛いく、いや格好良く踊って応援する傍ら
子供達が目覚ましい活躍を見せる
誠清はテンキーに1977と素早く入力
蒸気機関車は宙に浮いて蒸気機関銃の姿へ戻った
それは虹色に輝いて仄かに蒸気を上げている
狙いを敵の鼻面に定めてトリガーは躊躇いなく引かれた
GCR-EX-PRESS
銀河宇宙線を破壊光線にして撃ち放つ必殺技である
その驚異的な破壊力はダンドリオンの巨体を川へ押し戻すほど
少しズレて斜めを向いた
そこへ横腹に猫の大群が荒波となって押し寄せる
綾羽の気概が伝わったのか、巨体は少しずつ傾いて、とうとう転覆するに至った
バーストブレイク
花火球は消えた
アンコール!!
親父がリクエストして、子供達がそれに応える
GCR-EX-PRESS
アバルルナイール
直前の必殺技が繰り返された
これがケミカルライトSAVERのぶっ壊れ必殺技だ
仲間が必殺技を放てる状態にするという破格の性能
やったか、、、?
だからそれ言うなっての
息子が抱いた懸念は杞憂だった
間もなくボスは、必殺技で倒したことにより打ち上げ花火みたいな特殊演出で弾けて爆発した
やったぞー!
よくやったあー!
美少女に飛びつかれても息子は、ちっとも嬉しくなかったし、むしろ不機嫌になった
綾羽もよくやったなあ
えらいえらい
娘は親父のなでなで攻撃を今日だけは腰を屈めて受け入れてあげた
気分がいいので特別サービスである
はあ、、、
親父は長いため息を吐いて満天を仰ぐ
それから万感の思いに脱力して女の子座りしちゃった
おい親父
大丈夫か?
ああ、心配すんな
これで終わったのだ
最後のボスを残して、全てのボスを倒し、全ての世界を救った
これまで色々あったなあ
じじくさ
娘が我慢できなくて噴き出した
親父は怒るかと思いきや、わっはっはっ、と一緒になって大笑いした
息子も思わずつられて笑ってしまう
そこへ、エーデルワイスの置き手紙の入った小瓶が空から舞い降りてきたのだった
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