いとしのチェリー

旭ガ丘ひつじ

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旅立ち

16 マリモッツォ

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米印、ここで補足
ボス戦や一部のダンジョン、クエストでは他のプレイヤーが表示されない

二人は桜桃特製のピーニャジュースをグッと飲んだ
このゲームで疲労を感じることはほぼない
その代わりに息が上がる
呼吸の難しさで疲労を表現するという仕組みになっている
ピーニャジュースはその疲労を緩和して、長時間の激しい運動を可能にしてくれる

桜桃は武器をヤキパラガスに変えた
本当は大剣が良かったけどカカシと初期武器しかない、、、

ヤキパラガスは、前にドスパラガスを倒した時にドロップして手に入れた焼きアスパラガスの槍だ
それを知っていた息子の誠清が盾をプレゼントしてくれた

お弁当じゃないか

食品サンプルの極みだよ

ポニーテールの美少女が警備服を着てジャンボサイズのアスパラガスとジャンボサイズのミックス弁当を持っているという可愛らしい絵面が完成した
これには息子も満足して表情が柔らかくなった
ところで、唐揚げに海老フライにハンバーグに漬物に海苔などなどといった豪勢なミックス弁当は現装備の中で一番ランクの高いCランクの盾である
息子が方々を旅して目標の敵を倒したり食材を集めたりと苦労して手に入れた

ま、形は何でもいいや
ありがとう



そんじゃ
一緒に頑張るぞー

ここで二人のステータスをおさらいしておこう
レベルは桜桃が18で息子が21

攻撃(体力)
防御(耐性)
俊敏(運)

この三つのステータスがあり、弱中強を順に卵ひよこ鶏のイラストで表す
桜桃が上から卵ひよこ鶏
息子は上からひよこ鶏卵

物理攻撃は攻撃に依存して
魔法攻撃は防御に依存する

さて、バトルは始まっている
桜桃がリタイアしてる間に息子が必死に逃走している
息子は素早さが低いのでマリモッツォを引き離すことが出来ない
武器は威力が防御に依存する鉄砲、レーザーライフルなので迎撃するのも難しい

対するマリモッツォは子供相手でも平気で拳骨を振り下ろし、ローキックを放つガンガン攻めるタイプ
動きは遅いが表情もないしでプレッシャーを強く受ける

いま助けるぞ!

桜桃がやっと復活した
盾をうまく使ってくれればいいのに槍でやたらめったら突っつこうとするから困る

バーストチャンスまで耐えることに集中して

いや攻撃した方が良いだろう

何でそんな攻めたがるんだよ

あああっっ!いだい!

痛かないだろう
しかし桜桃は頭に拳骨を食らって、頭を抱えて丸く縮こまった
一所懸命にチクチクしてたのに拳骨一発でこれだ
ゲームの仕様で軽く目が回ってしまっている
立ちあがろうとして、フラフラしてるところへ容赦のないローキックが炸裂した
衝撃は当然さほどないが、それでも、こてんと横倒れに
体力はもう残り少ない
目眩がして回復薬も使えない

助けてくれー

か細く鳴いて、こちらへ手を伸ばす
今日四度も見た光景だ

普通さ、盾を装備しててこんなにコンボが決まることあるか
頑張ってるのは分かるけど、考えが足りないから惜しい

と息子は頭を悩ませる
敵が何であれ真っ直ぐに立ち向かおうとする姿勢は激動の昭和世代だからなのか
それともワイルドな田舎育ちだからなのか
そう言えば、、、

高校生ん時にな
イノシシ相手に丸太をぶん回してな
こう、うおーてぶん回して戦ったことがある
そりゃあもう死ぬかと思ったぞ
でも何とかなった
ははは、俺の勝ちだ
お父さん凄いだろう
お前イノシシと戦って勝てるか?
そもそも戦えるか?

、、、そう言えばだなあ
丸太持って戦っているみたいだ
あダメだやられた

桜桃は千切ったマリモを投げつけられてリタイアした
復活までニ分も耐えなきゃいけない
面倒だなあ
と、こんな時にボスが必殺技を放つためにエネルギーを溜めている
バーストチャンスだ
このゲームは子供向けなのでバーストすることで攻略が簡単になる親切設計になっている
でも今バーストしたところで、、、一人では、、、

息子は必殺技バーストショットというビーム攻撃で見事、一撃でバーストさせると、膝をついた隙だらけのマリモッツォへありったけのレーザーを撃ち込んだ
敵が立ち直る頃に桜桃も復活した

頼むから言うこと聞いて

分かった
どうすりゃいい

盾で攻撃を防ぐことに集中して
スキルも忘れずに
でも、槍のスキルと必殺技は使わないで

あ?いっぺんに言われてもわからん

ああああああああああもう

マリモッツォが立ち上がった
桜桃は警備員という仕事柄か度胸だけはある
直ちに槍を突き出して猪突猛進する
しかし、直撃するや軽く弾かれてしまった
ダメージはあるが刺さることが無いので、考えなしに突っ込むとこういう隙だらけになる
でも親父は偉い
そこから素早く盾に隠れて踏ん張っている
いい調子だ

「がんばれ!」

息子は援護射撃しながら、つい応援してしまう
敵の注意が息子へ向くと、桜桃が咄嗟に庇うように回り込んだ
ナイスカバーでコンビネーションがベリーグッド
桜桃はたまたま発動した盾のスキルでオカズを飛ばして相手を怯ませると、これまたたまたま発動した盾の必殺技で大きく弾き飛ばした
あの巨体が吹っ飛んだので桜桃自身が目を大きく見開いて驚いている
お口をあんぐりしている
場合じゃない、と息子が注意する

桜桃は息子の指示に頷いて駆け出し、そして畳み掛ける
これでもかとチクチクしてやった
ここでバーストチャンスがきた
息子が再度温存していた必殺技でバーストゲージを削り切るや、桜桃が槍のスキル、ドリルストライクという鋭く回転する衝撃波を放った

マリモッツォは地面を滑り湖に落ちた
体半分が浸水したまま膝をつく

今だ!必殺技だ!

あれ、どうやるんだった

事前に確認しといてくれよ!

した!でも忘れた!
分かった!

じゃ、いくぜ

せーので、あーい先に撃つな!

は?知らん!

息子が先にスキルを発動した
長くレーザーを照射する技だ
そこへ遅れて桜桃がトドメと構える
盾を投げ捨て大袈裟に、プロ野球のピッチャーみたいな動作で槍をぶん投げた

バーニングドリルストライク

激しく回転して空気を焼き焦がし燃え盛るアスパラガスがマリモッツォに軽く突き刺さった
あっという間に炎に包まれて焼きマリモッツォの出来上がりだ
槍は糸で引いたみたいに桜桃の手に戻った
桜桃はマリモッツォを倒したことよりも槍が勝手に戻ってきたことの方に驚いている
息子は気疲れして溜息を吐いた

ご機嫌よろしいかな

不意に死角から猫研究同好会のリーダー格の猿、アルバートが現れた
桜桃は少女らしい悲鳴を上げて小さく跳ねた
片や息子はげんなりした

仏が神を超えることは出来ない
それは何故か分かるかね

にわかに問われた桜桃は戸惑う

仏は神を目指すが成ることはない
それは、どうしたって人間だからさ

桜桃は説明を求める目を息子へ向けたが息子は天を仰いでいる

それでも諦めなければいずれ、、、

アルバートは意味深なことをそれっぽく言うと鼻の穴を大きくして息をたっぷり吸った

上出来の実力だった
次も期待する、頑張ってくれたまえ

彼は優しい笑みを残して霞のように消えた

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