いとしのチェリー

旭ガ丘ひつじ

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旅立ち

3 我が子、誠清

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今日はお父さんに会うの?

晩御飯を食べ終えると母親がきいてきた
息子が頷くと、悪いけどお父さんのことよろしくね、と任される
息子はまた頷いて、横目で妹を見た
妹はリビングのソファーで音楽番組をBGMにスマホを操作していた
父親が美少女になったことがよほどショックだったのか、ほぼ無関心といった態度になってしまった
息子は食器を流しに片付けると便所を経由して自室へ戻った

卓上のゲーム機「メタバース」を起動させる
ハンモックに身を投げて、ヘッドホンと同じ形をしたヘッドギアを被り目を閉じた
これでゲームの世界へ意識を送る
メタバースが操作に応じて唸り声を上げた
その音が段々と遠くなっていく
やがて音が消えて、次に暗闇の中にメタバースのロゴ等が浮き出て、それからゲームのタイトルが強調された
少しずつ白い光が広がって、続けて世界が彩られていく、、、

桜桃は殿様から三つのミステリースポットの調査を依頼された
でも急ぐことはないらしいので、採取クエストや討伐クエストをしたり、気ままに散歩を楽しむ毎日を送っている

今は一仕事終えて都へ戻ってきたところだ
あまり転移は使わず徒歩で移動することを好んでいた
疲れは全くない
眠気も空腹も感じない

しかし突然に意識を失って、ツリーハウスのベッドで目を覚ますことが度々あった
それは夜の十時頃になると起こり、朝は七時頃に目覚めることが分かった
なので夜更かしはせずに規則正しい生活を心掛けることを決めていた

寝床は都の宿だったり、自室だったり、お気に入りの村の宿だったり様々で、今日は都の宿で休むことを選んだ
といっても眠くないので布団を被り目を閉じて、意識を失う十時を待つのである

さて、その十時まで何をして時間をつぶそうかなあ、と広場のベンチに座ってぼんやり星を眺めていると誰かに名前を呼ばれた
今まで声を掛けられたことはないので、かなり驚いたのだが、続けて親父と呼ばれたことになお驚愕した

桜桃のことを親父と呼んだのは見ず知らずの青年だった
オーバーロードという名前で、どうも外国の人らしい
髪色が銀でかなりヤンチャな印象を受ける
彼は一目散に桜桃のもとへ駆けつけた
突然のことに息を飲んでいると肩を強く掴まれた
そして彼は、自身が息子の誠清であると告げた
とても信じられない

田中孝一

なぜその名を知っている
私はいま桜桃であり田中孝一は死んだのだ

田中孝一の名を知り親父と呼び息子の名を告げる、この外国の青年は何者だ
本物の誠清なのか
喧嘩別れしたまま二度と会えないと悔やんでも悔やみ切れない愛する息子だというのか
迷いとは裏腹に親父は彼を抱き締め胸に顔を埋めた
すぐに突き放された

息子らしい青年は酷いことを言う
気持ち悪い
抱きつくな
息子なら、、、こんなこと言うな

間違いない
息子だ
それならなぜ

「なぜお前は死んだあ!!」

誰にやられたと胸ぐらを掴んで一気に問い詰めると、また息子に叱られてしまった
俺も親父も死んでない
話を聞け
と、親に対する口の利き方がなっていないが今はそれどころではない

誠清は親父が口を挟むことを許さず、どっか店に入ってゆっくり話そうぜ、と言うだけ言って歩き出してしまった
この反抗期さながらの素直じゃない態度は間違いなく息子だ

親父はニコニコしながら彼の後について歩いた

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