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孫と祖母、買い出しの日

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「おばあちゃん!あのお洋服、欲しい!買って!」

「リンダぁ、今日は塩を買いにきたんだよぉ」

「えー!キラキラしてて可愛いの!欲しいのにー」

 大きな革袋を肩から下げた白髪の老婆と、10歳ほどの黒髪の少女リンダ。今日は月に一度、街への買い出しの日。

「暮らしに必要なものは買うけどさぁ。贅沢品は大人になってからリンダが自分で買ってなぁ」

「もう!おばあちゃんのケチー!大人になったら絶対、贅沢するんだから!……あっ!待ってよー」

 なんでも欲しがる孫の言うことに全部かまっていたら、それこそ帰りには日が暮れてしまう。

 先を行く祖母を追いかけるリンダ。美しく着飾った娘たちとすれ違う。

「いいなぁ…。私もあんな綺麗なお洋服着たいなぁ…」

 自分の質素な服装に比べて街の娘たちは華やいで見える。つい、ため息が出てしまう。

 ふと、通りの先に人だかりが見えた。

「ねえ、おばあちゃん!あそこ何だろう!あの綺麗な子たちもあそこ行ったよ!」

「なんだろねぇ。道化師か何かかねぇ?」

「行ってみようよ!私も見てみたい!」

 返事を待たず祖母の手を引き、人だかりに近づいていく。そこでは若い娘たちの黄色い声援が飛び交っている。

「若さま~!こっち向いてください~!」

「王都の学院を飛び級で卒業したそうよ!」

「熊騎士さまも~!強そう!」

 人々に手を振っているのは見る目麗しい金色の髪の青年、いや少年にも見える騎士。ピンと姿勢よく黒毛の馬にまたがり、にこやかに声援に応えている。

 もう1人は若く逞しい大柄の騎士。熊騎士と呼ばれているのは彼のようだ。たしかに熊に見えなくもない体格と顔立ち。金髪の騎士に比べ表情が固い。

「おばあちゃん…。あの黒い馬に乗っている人、だあれ?」

 森の集落での暮らしでは見た事ないほどのハンサムな男子。キラキラ目を輝かせるリンダ。

「新しい領主様みたいだねぇ。まだ若いって聞いてたけど15歳かそこらに見えるねぇ」

「り、領主さま?……すごく、かっこいい」

 ポーっとしたまま、人混みの隙間から馬上の美男子を見つめるリンダ。たしかに女子たちが夢中になっているのも分かる。

 ふと、若い領主がリンダの方を見て、手を振ってくれた気がした。

 そんなわけないと思いつつリンダが手を振り返すと、なんと笑顔で手を上げてくれた。

「お、おばあちゃん!領主さま、私にも手を振ってくれたよ!」

「よかったねぇ。……ちょっと、そろそろいいかい?年寄りにはこの若い娘たちの声が頭に響いて辛いんだよぉ…」

 まだ領主さまを見ていたいのに、祖母はしんどい様子だ。顔色が悪く、息が荒くなっている。そういえば無理に引っ張ってきてしまった。

「……うん、じゃあ、いいよ。帰ろう」

 疲労困憊の祖母と手をつなぎ、その場を離れるリンダ。名残惜しくて、何度も何度も振り返ってしまうのだった。
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