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第四話⑤
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「ごめん、待たせた」盆を僕が外したゴーグルの横に置いて、君岡が言った。
「いや、全然」
「そう。よかった」そのまま君岡も腰を下ろし、コップを手に取ると、たまった鬱憤を晴らすようにごくごくと、喉を鳴らして飲み干した。
「いつもああなんだ。大事な時に、邪魔をする」
君岡は空になったコップに麦茶を注いで言った。
「いつも?」僕は聞いた。これから何度か入り浸る家のことだ。一応知っていた方がいいと思った。
「うん、この間もちょうどゴーグルのテストをしている時に、買い物をしてくれって頼まれてさ。時々さ、お母さんは僕をカメラかなにかで監視しているんじゃないかなって思うんだよね」
僕が何も答えないでいると、君岡は目を見開きながら聞いた。
「そうだ。〝オブスキュラ〟のインストールはした?」
僕はゴーグルを手に取った。
「まだしてない。どこからするんだ?」
「貸して」君岡は僕の方に手を伸ばした。僕はゴーグルを手渡す。
「すぐ終わるよ」
ゴーグルを半分だけ被り、おざなりになったバンドが君岡の髪の毛を逆立たせていた。君岡はそんなことは気に留めず、コントローラーを操作し終えると、ゴーグルを外した。
その後、インストールが完了するまで十分ほど、互いに会話を交わした。その結果わかったのだが、僕たちは互いの趣味はあまり似てもいないし、偶然関心が被ることはあっても、その深さにはかなり差があった。
僕たちに唯一共通しているのは、〝オブスキュラ〟と〝ANNE〟に強い関心があることだった。
「そろそろ終わったかな」
しばらくして、君岡がゴーグルを覗き込みながら待ち切れないといったようにそう呟いた。
「なあ、〝Galatia〟って知ってるか?」
いよいよインストールも済み、アバターも設定し終わると(僕のアバターはプリセットにあった黒パーカーの地味な姿だった)、僕は思い切って聞いてみた。二人ともゴーグルをはめ、互いの姿は見えなくなっていた。
目の前には、待機ルームの、現実離れした美しさの山や、巨大な滝、白波を立てている海辺の風景が見えていた。
「え? なんだって?」
「〝Galatia〟だよ! 知ってる?」
「なんのこと? 新しいデバイスか何か?」
それだけ聞ければ十分だった。
「なんでもない!」僕は答えた。
「もういい? 早く〝オブスキュラ〟の中に入ろうよ」君岡が僕を急かした。
「ああ」僕はコントローラーを動かし、さっき作ったばかりの自分のアカウントのログインボタンにVRカーソルを合わせた。その時、
「ねえ、聞いていい」と、今度は君岡が言った。
「何」
「野宮が〝オブスキュラ〟に行く理由を教えてよ」
僕は黙り込んだ。さらにパススルー映像に切り替え、現実の君岡の表情を確認した。
「聞いてる?」無言の時間が長くて不安になったのか、君岡が言った。
「聞こえてるよ」僕は答えた。それからパススルーを切って、間髪入れずに言った。
「僕も同じだよ。どうしても〝ANNE〟に会って確かめないといけないことがあるんでね」
「いや、全然」
「そう。よかった」そのまま君岡も腰を下ろし、コップを手に取ると、たまった鬱憤を晴らすようにごくごくと、喉を鳴らして飲み干した。
「いつもああなんだ。大事な時に、邪魔をする」
君岡は空になったコップに麦茶を注いで言った。
「いつも?」僕は聞いた。これから何度か入り浸る家のことだ。一応知っていた方がいいと思った。
「うん、この間もちょうどゴーグルのテストをしている時に、買い物をしてくれって頼まれてさ。時々さ、お母さんは僕をカメラかなにかで監視しているんじゃないかなって思うんだよね」
僕が何も答えないでいると、君岡は目を見開きながら聞いた。
「そうだ。〝オブスキュラ〟のインストールはした?」
僕はゴーグルを手に取った。
「まだしてない。どこからするんだ?」
「貸して」君岡は僕の方に手を伸ばした。僕はゴーグルを手渡す。
「すぐ終わるよ」
ゴーグルを半分だけ被り、おざなりになったバンドが君岡の髪の毛を逆立たせていた。君岡はそんなことは気に留めず、コントローラーを操作し終えると、ゴーグルを外した。
その後、インストールが完了するまで十分ほど、互いに会話を交わした。その結果わかったのだが、僕たちは互いの趣味はあまり似てもいないし、偶然関心が被ることはあっても、その深さにはかなり差があった。
僕たちに唯一共通しているのは、〝オブスキュラ〟と〝ANNE〟に強い関心があることだった。
「そろそろ終わったかな」
しばらくして、君岡がゴーグルを覗き込みながら待ち切れないといったようにそう呟いた。
「なあ、〝Galatia〟って知ってるか?」
いよいよインストールも済み、アバターも設定し終わると(僕のアバターはプリセットにあった黒パーカーの地味な姿だった)、僕は思い切って聞いてみた。二人ともゴーグルをはめ、互いの姿は見えなくなっていた。
目の前には、待機ルームの、現実離れした美しさの山や、巨大な滝、白波を立てている海辺の風景が見えていた。
「え? なんだって?」
「〝Galatia〟だよ! 知ってる?」
「なんのこと? 新しいデバイスか何か?」
それだけ聞ければ十分だった。
「なんでもない!」僕は答えた。
「もういい? 早く〝オブスキュラ〟の中に入ろうよ」君岡が僕を急かした。
「ああ」僕はコントローラーを動かし、さっき作ったばかりの自分のアカウントのログインボタンにVRカーソルを合わせた。その時、
「ねえ、聞いていい」と、今度は君岡が言った。
「何」
「野宮が〝オブスキュラ〟に行く理由を教えてよ」
僕は黙り込んだ。さらにパススルー映像に切り替え、現実の君岡の表情を確認した。
「聞いてる?」無言の時間が長くて不安になったのか、君岡が言った。
「聞こえてるよ」僕は答えた。それからパススルーを切って、間髪入れずに言った。
「僕も同じだよ。どうしても〝ANNE〟に会って確かめないといけないことがあるんでね」
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