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第36話【神への冒涜】
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「どうしよう!? このままじゃ負けちゃう!」
「どうもこうも……まさかあんな戦法があるなんてな」
味方を犠牲にした一斉攻撃。
きっとカインがいち早く気付いて叫ばなければ、セシルが即座に理解し私を避難させてくれなければ、すでに決着はついていただろう。
前のクランでもリディアが攻城戦の戦略を一挙に担っていたとユースケが言っていた。
恐らくあれを運よく凌げても、次の一手が繰り出されていたに違いない。
「サラさんはどうにか相手から逃げて。俺は逃げてもしょうがないから、ダメ元でできるだけポイントを稼ぐために突っ込んでくるから」
「ダメだよそんなの! 一人で行ってどうにかなるような相手じゃないでしょう?」
とは言うものの、ここからの起死回生の一手など思いつくはずもない。
私は思わず何か使えそうなものが作れないか、インベントリを開いた。
幸いにも、相手は拠点の中まで攻め込む気はないらしい。
わざわざ来なくても、時間いっぱい待てばあちらの勝ちなのだ。
もし拠点に攻め入って、万が一にも私たちが出し抜いて相手の拠点に忍び込んだりする危険性を冒すくらいなら、待つのが最良の手だろう。
そう思いながら、今まで作ったことのある薬の一覧から、役に立ちそうなものを探す。
しかし、思いつくのは今までも使っていた強化薬や回復薬、そして状態異常を付与する毒薬くらいだった。
どれもそれを一つ増やしたところで、大きな援助にはなり得ない。
「さすがに今までが順調すぎたのかな……」
セシルが珍しく弱音を吐く。
そのくらい危機的状況だということだろう。
私は再度インベントリの中を必死で探す。
何か……何かこの状況を覆すような薬がないかと。
ふと、一つの素材に目が向く。
アーサーからもらった新エリアのレアボスから取れた、薬専用という珍しい素材、【魔血】だ。
「何か……何かできないの……?」
自問自答し、【魔血】を選択する。
スキルの効果でシルエットが表示される。
つまりまだ手に入れたことのないものが作れるということだ。
しかも、その薬のシルエットは他のどれとも異なっていた。
回復薬や強化薬の場合は丸底の瓶、毒薬の場合は円錐形の瓶が表示されるのだけれど、そのシルエットはまるでハートの形をしているように見えた。
つまり、今までに例の無い特殊な効果を持った薬である可能性が高い。
それに新エリアのしかも現状では、どんなパーティも単体では倒すことのできないほどの強敵からたまにしか落ちない素材を用いた薬。
もし作ることが出来れば、凄まじい効果をもたらしてくれるかもしれない、そう思えてならなかった。
「サラさん? 大丈夫?」
インベントリを睨めっこしているせいで無言で中空を睨み続ける私を心配してか、セシルが声をかける。
大丈夫、とだけ返事をして、私は一種の賭けに出ることを決めた。
これが運良く成功する可能性は非常に低い。
それは誰よりも私が知っている。
多くの素材を試して、やっと作ることのできるのが薬のレシピだ。
ましてや、どんなものが作れるのかも想像ができないこの薬の難度は最高峰な可能性すらある。
私は持っている素材の一つひとつを確認していく。
同じ形のシルエットを見せる素材が、目的のものを作るのに必要な素材だ。
だけどそれもまた難しい。
効率を度外視すれば、一つの薬を作るためのレシピ、素材の組み合わせは多種多様だ。
同じシルエットを見せるもの全てを混ぜれば目的のものができるとは限らないのだ。
だけど私は一縷の望みに賭け、必死でハート型のシルエットを示す素材を探す。
「ダメだ……一つも見つからない……」
思わず声が漏れる。
セシルは今だに心配そうな顔をこちらに向ける。
「サラさん大丈夫? 一度深呼吸をして。何をしようとしてるのか俺には分からないけど、落ち着かないと視野が狭まるよ」
「うん。ありがと……セシル」
指摘されて、私は一度大きく息を吸い込み、そして吐いた。
視野が狭くなる、確かにそうなっているかもしれない。
私は一度視線を周囲に向けてみた。
すると今まで気付くことの無かったタブが目に入った。
「何だろこれ? こんなの今まであったかな?」
調合のための素材一覧を示すインベントリの上の方に、数字が二つ書かれたタブ。
今は『1』と書かれたタブが選択されているようだ。
気になった私は、『2』と書かれたタブを選ぶ。
インベントリの表示が変わり、そしてそこには私が持っている、調合済みの薬が表示されていた。
「こんなのが実装されていたなんて……!」
試しに一番端にある回復薬を選んでみる。
すると、それよりも効果の高い回復薬が表示された。
「なるほど……薬を素材に上位の薬を作ることができるようになっていたのね。この前のアップデートからかな?」
私は試しに次々と薬を選択して、その薬を素材に何が作れるのか見ていった。
そしてついに狙いのものが見つかったのだ。
「まさか……でも、ありえる!」
「何か見つかった?」
私の呟きが聞こえたのかセシルが声を上げる。
セシルの方に顔を向け、私は笑顔でこう言った。
「うん! もしかしたら、凄い薬の作り方をたった今見つけたかもしれない!」
セシルは驚いたような、喜んでいるような不思議な顔を見せて、一度だけ頷いた。
それを見た私は、目線をインベントリに戻し、目的の物を作るために必要と思われる素材を次々と選んでいく。
予想はしていたけれど、案の定薬を素材にする場合には、薬の処理は必要ないらしい。
恐らくモンスターの素材を使った調合があまりに難易度が高く、その改善策として、下級薬を使って簡単に上級薬を作れる仕様を作ったのだろう。
ただ、単純にやったのでは誰もモンスターの素材から薬を作ろうとしなくなる。
そのため、手順は簡単だけれど、必要な素材の量は多めにしてあるらしい。
さすがに事前情報無しで本番をやる気にはなれず、その前に余っていた回復薬や強化薬で必要な量の目安を確認しておいた。
その結果、5の倍数で作れるもののランクが上がる仕様になっているだろうと予測がついた。
1から4は失敗、5から9で一段階、10を使って二段階のランク上昇が最大らしい。
費用対効果ではかなり難がある仕様のようだ。
そこまで分かった私は【魔血】以外の素材は全て10を選ぶ。
これだけの数の薬を使用するのに、効果が大したことのないものだったらクレームものだ。
私は一度だけ息を大きく吐くと、調合を開始する。
選んだ素材は全ての種類の【魔薬】と【神薬】だった。
やがて、出来上がった薬の効果を見て、私は目を見開いたまま、固まってしまった。
禍々しい血のような色をした、ハート型の宝石のような見た目をした薬。
その名称と効果は――。
【神への冒涜】
神に背きその身を魔神と化す秘薬。
「セシル! もしかしたら勝てるかも!!」
私は思わず叫んでいた。
「どうもこうも……まさかあんな戦法があるなんてな」
味方を犠牲にした一斉攻撃。
きっとカインがいち早く気付いて叫ばなければ、セシルが即座に理解し私を避難させてくれなければ、すでに決着はついていただろう。
前のクランでもリディアが攻城戦の戦略を一挙に担っていたとユースケが言っていた。
恐らくあれを運よく凌げても、次の一手が繰り出されていたに違いない。
「サラさんはどうにか相手から逃げて。俺は逃げてもしょうがないから、ダメ元でできるだけポイントを稼ぐために突っ込んでくるから」
「ダメだよそんなの! 一人で行ってどうにかなるような相手じゃないでしょう?」
とは言うものの、ここからの起死回生の一手など思いつくはずもない。
私は思わず何か使えそうなものが作れないか、インベントリを開いた。
幸いにも、相手は拠点の中まで攻め込む気はないらしい。
わざわざ来なくても、時間いっぱい待てばあちらの勝ちなのだ。
もし拠点に攻め入って、万が一にも私たちが出し抜いて相手の拠点に忍び込んだりする危険性を冒すくらいなら、待つのが最良の手だろう。
そう思いながら、今まで作ったことのある薬の一覧から、役に立ちそうなものを探す。
しかし、思いつくのは今までも使っていた強化薬や回復薬、そして状態異常を付与する毒薬くらいだった。
どれもそれを一つ増やしたところで、大きな援助にはなり得ない。
「さすがに今までが順調すぎたのかな……」
セシルが珍しく弱音を吐く。
そのくらい危機的状況だということだろう。
私は再度インベントリの中を必死で探す。
何か……何かこの状況を覆すような薬がないかと。
ふと、一つの素材に目が向く。
アーサーからもらった新エリアのレアボスから取れた、薬専用という珍しい素材、【魔血】だ。
「何か……何かできないの……?」
自問自答し、【魔血】を選択する。
スキルの効果でシルエットが表示される。
つまりまだ手に入れたことのないものが作れるということだ。
しかも、その薬のシルエットは他のどれとも異なっていた。
回復薬や強化薬の場合は丸底の瓶、毒薬の場合は円錐形の瓶が表示されるのだけれど、そのシルエットはまるでハートの形をしているように見えた。
つまり、今までに例の無い特殊な効果を持った薬である可能性が高い。
それに新エリアのしかも現状では、どんなパーティも単体では倒すことのできないほどの強敵からたまにしか落ちない素材を用いた薬。
もし作ることが出来れば、凄まじい効果をもたらしてくれるかもしれない、そう思えてならなかった。
「サラさん? 大丈夫?」
インベントリを睨めっこしているせいで無言で中空を睨み続ける私を心配してか、セシルが声をかける。
大丈夫、とだけ返事をして、私は一種の賭けに出ることを決めた。
これが運良く成功する可能性は非常に低い。
それは誰よりも私が知っている。
多くの素材を試して、やっと作ることのできるのが薬のレシピだ。
ましてや、どんなものが作れるのかも想像ができないこの薬の難度は最高峰な可能性すらある。
私は持っている素材の一つひとつを確認していく。
同じ形のシルエットを見せる素材が、目的のものを作るのに必要な素材だ。
だけどそれもまた難しい。
効率を度外視すれば、一つの薬を作るためのレシピ、素材の組み合わせは多種多様だ。
同じシルエットを見せるもの全てを混ぜれば目的のものができるとは限らないのだ。
だけど私は一縷の望みに賭け、必死でハート型のシルエットを示す素材を探す。
「ダメだ……一つも見つからない……」
思わず声が漏れる。
セシルは今だに心配そうな顔をこちらに向ける。
「サラさん大丈夫? 一度深呼吸をして。何をしようとしてるのか俺には分からないけど、落ち着かないと視野が狭まるよ」
「うん。ありがと……セシル」
指摘されて、私は一度大きく息を吸い込み、そして吐いた。
視野が狭くなる、確かにそうなっているかもしれない。
私は一度視線を周囲に向けてみた。
すると今まで気付くことの無かったタブが目に入った。
「何だろこれ? こんなの今まであったかな?」
調合のための素材一覧を示すインベントリの上の方に、数字が二つ書かれたタブ。
今は『1』と書かれたタブが選択されているようだ。
気になった私は、『2』と書かれたタブを選ぶ。
インベントリの表示が変わり、そしてそこには私が持っている、調合済みの薬が表示されていた。
「こんなのが実装されていたなんて……!」
試しに一番端にある回復薬を選んでみる。
すると、それよりも効果の高い回復薬が表示された。
「なるほど……薬を素材に上位の薬を作ることができるようになっていたのね。この前のアップデートからかな?」
私は試しに次々と薬を選択して、その薬を素材に何が作れるのか見ていった。
そしてついに狙いのものが見つかったのだ。
「まさか……でも、ありえる!」
「何か見つかった?」
私の呟きが聞こえたのかセシルが声を上げる。
セシルの方に顔を向け、私は笑顔でこう言った。
「うん! もしかしたら、凄い薬の作り方をたった今見つけたかもしれない!」
セシルは驚いたような、喜んでいるような不思議な顔を見せて、一度だけ頷いた。
それを見た私は、目線をインベントリに戻し、目的の物を作るために必要と思われる素材を次々と選んでいく。
予想はしていたけれど、案の定薬を素材にする場合には、薬の処理は必要ないらしい。
恐らくモンスターの素材を使った調合があまりに難易度が高く、その改善策として、下級薬を使って簡単に上級薬を作れる仕様を作ったのだろう。
ただ、単純にやったのでは誰もモンスターの素材から薬を作ろうとしなくなる。
そのため、手順は簡単だけれど、必要な素材の量は多めにしてあるらしい。
さすがに事前情報無しで本番をやる気にはなれず、その前に余っていた回復薬や強化薬で必要な量の目安を確認しておいた。
その結果、5の倍数で作れるもののランクが上がる仕様になっているだろうと予測がついた。
1から4は失敗、5から9で一段階、10を使って二段階のランク上昇が最大らしい。
費用対効果ではかなり難がある仕様のようだ。
そこまで分かった私は【魔血】以外の素材は全て10を選ぶ。
これだけの数の薬を使用するのに、効果が大したことのないものだったらクレームものだ。
私は一度だけ息を大きく吐くと、調合を開始する。
選んだ素材は全ての種類の【魔薬】と【神薬】だった。
やがて、出来上がった薬の効果を見て、私は目を見開いたまま、固まってしまった。
禍々しい血のような色をした、ハート型の宝石のような見た目をした薬。
その名称と効果は――。
【神への冒涜】
神に背きその身を魔神と化す秘薬。
「セシル! もしかしたら勝てるかも!!」
私は思わず叫んでいた。
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