15 / 72
第15話【心酔】
しおりを挟む
「それじゃあ、どういう風にやろうか。ひとまずアンナは固定で一人ずつ抜けるのでいいか?」
「ちょっと待っておくれよ。さっきはよく分かってなかったからなんも言わなかったけど、サラちゃんもやるのかい? 【薬師】だろ?」
団体戦に参加するため闘技場に来ていた私たちに向かって、アンナは至極真っ当な言葉を吐いた。
【薬師】は生産職で、戦闘職ではないからだ。
正確に言えばこのゲームは全ての職業が戦闘用のスキルを多かれ少なかれ持っている。
だから【薬師】だろうが、【鍛冶師】だろうが、戦おうと思えば戦える。
ただ、そのダメージは極端に劣る。
【鍛冶師】はまだ打撃攻撃があるけれど、薬師に至ってはポーション投げ以外はろくなものがない。
そんな私が団体戦に、しかもランクAに出るというのだから驚くのも無理はない。
この辺りはもうレベルカンストのプレイヤーしかほとんど居ない。
「大丈夫ですよ。アンナさん。サラさんはお強い。いえ、サラさんのおかげで私たちが強くなれるのです。信じてください」
「ふーん? 分かったよ。まぁ、何も見ないで決めつけは良くないからね。でもダメだと思ったらすぐに言うよ? わたしゃ思ったことはすぐに口に出すタイプなんだ」
「あはは。分かったよ。アンナがダメだと思ったら今後私は出ない。それでいいでしょう?」
「ああ。悪いね。私が居ない時に三人で出るのは構わないけど、それでランクを落としたりしないでおくれよ?」
アンナは本当にはっきりした性格のようだ。
正直なところ羨ましく感じる。
私もこのくらいはっきりした性格だったら、もう少し変わっていただろうか。
今度秘訣を教えてもらおう。
「それじゃあ、最初にサラさんと一緒に行ってみようか。それと俺で。そっちの方がサラさんの凄さが分かるでしょ」
「そうですね。それがいいと私も思いますよ」
「わたしゃどれから先でも構わないよ。そうだ、強化薬も売ってくれるのかい?」
「あ、薬は私が出場する時は自分で使わないでください」
「なんだって?」
「大丈夫、大丈夫。まずはやってみようぜ」
アンナは合点が行かない様子だったけれど、ひとまずやれば分かるとセシルが面白そうな笑みを浮かべながら言うので黙っていた。
渋々と言った感じで、アンナは団体戦を受けるための手続きに向かう。
「それじゃあ、いつも通り最初に使うよ。今回は大盤振る舞い! 全部使うよ!!」
「おーいいねー!」
「なんなんだい? ちゃんと説明しておくれよ!」
対戦のカウントダウンが始まる中、のんきな私とセシルに向かってアンナが不服そうな声を上げる。
団体戦などは、事前のアイテムや魔法の効果は全て取り除かれた状態から始まる。
そうじゃなければ、いくらでも強化可能になってしまうから。
カウントダウン中も動作はできるが、この間に使ったアイテムやいずれのスキルも無効になる。
やがて、カウントが終わり、戦闘が始まる。
敵は少し離れた場所に居るので、待つか迎え撃つかの二択だ。
「待つのは嫌いなんだ。突っ込むよ!!」
「待って! アンナ、まだ動かないで!」
早速特攻をかけようとしたアンナに、セシルは待ったをかける。
不満そうにこちらを向くアンナに、私は用意しておいた強化薬を順に投げ付けた。
「な、なんだいこれ? このエフェクトは、強化薬!? でも、数値がおかしいよ! こんな効果のある強化薬なんて聞いたことがない!!」
「あ、それ私のパッシブスキル【薬の知識】の効果だよ。薬の効果が二倍。今使ったのは【神薬】と【強薬】だね」
元々高い部分は割合増加の【神薬】、低い部分は定値増加の【強薬】を使い分け、より効率的に上げるのが私のやり方だ。
これでアンナの攻撃力などは跳ね上がってるし、低めの敏捷なども元より随分上がってるはずだ。
「す、凄いねこれは……これじゃあ、負ける気がしないよ!」
「うふふ。良かった。あ、来たみたい。じゃあ、頑張ろうね」
相手は全員近接タイプ。
そこへアンナは突っ込んでいく。
「はは! セシル! あんたは言ったね! サラちゃんが凄いと!! 意味が分かったよ! こんな事ができるなら、一人でだって勝ってやるさ!!」
「おいおい。それじゃあ、団体戦の意味ないだろ。俺も戦うからな。手柄独り占めするなよ!」
「やれやれ……二人は何をしてるのでしょうか……」
ふと振り向くとハドラーが首を横に振っているのが見えた。
確かにどっちが多く倒すかを競うコンテンツじゃないからね。
「私も戦うからね! えいっ!!」
「うわぁ!? な、何も見えねぇ!?」
私の投げた【ダゴンの墨】が見事命中した一人は、失明状態になり右往左往する。
その間にアンナの戦斧が大きく振られ、吹っ飛びながら倒れる。
どうやら一発で倒してしまったようだ。
斧に雷のような電撃が走っていたから、なにか大技のスキルを使ったのだろう。
「最高だよ!! サラちゃん!! こんなハイになったの初めてさ!! もう絶対あんたの元を離れないよ!」
「え、えーっと。うん。ありがとう」
戦神もかくやと言うような動きで、アンナは残りの二人も倒してしまった。
言っていた通り、相手の攻撃など意に介さないような攻撃で、ずっとアンナは主導権を握っていた。
私がアンナのHPを注意して、危なくなる前にきちんと回復薬を投げて置いたから、回復する手間も要らずにやりやすかったと後から絶賛された。
「だから! 一人で倒すゲームじゃねぇって!」
一方、攻撃に巻き込まれないように、近づく事が出来ずにいたセシルは、叫び声をあげるしか出来なかったみたいだ。
戦闘が終了した間際にハドラーの方をもう一度見たら、口に手を当てて笑いを必死で堪えているのが見えた。
何はともあれ、仲間が一人増えて良かった。
これであと一人加入してくれれば、とうとう攻城戦に挑むことが出来ることになる。
そしてそれは、すぐにやってくることとなった。
「ちょっと待っておくれよ。さっきはよく分かってなかったからなんも言わなかったけど、サラちゃんもやるのかい? 【薬師】だろ?」
団体戦に参加するため闘技場に来ていた私たちに向かって、アンナは至極真っ当な言葉を吐いた。
【薬師】は生産職で、戦闘職ではないからだ。
正確に言えばこのゲームは全ての職業が戦闘用のスキルを多かれ少なかれ持っている。
だから【薬師】だろうが、【鍛冶師】だろうが、戦おうと思えば戦える。
ただ、そのダメージは極端に劣る。
【鍛冶師】はまだ打撃攻撃があるけれど、薬師に至ってはポーション投げ以外はろくなものがない。
そんな私が団体戦に、しかもランクAに出るというのだから驚くのも無理はない。
この辺りはもうレベルカンストのプレイヤーしかほとんど居ない。
「大丈夫ですよ。アンナさん。サラさんはお強い。いえ、サラさんのおかげで私たちが強くなれるのです。信じてください」
「ふーん? 分かったよ。まぁ、何も見ないで決めつけは良くないからね。でもダメだと思ったらすぐに言うよ? わたしゃ思ったことはすぐに口に出すタイプなんだ」
「あはは。分かったよ。アンナがダメだと思ったら今後私は出ない。それでいいでしょう?」
「ああ。悪いね。私が居ない時に三人で出るのは構わないけど、それでランクを落としたりしないでおくれよ?」
アンナは本当にはっきりした性格のようだ。
正直なところ羨ましく感じる。
私もこのくらいはっきりした性格だったら、もう少し変わっていただろうか。
今度秘訣を教えてもらおう。
「それじゃあ、最初にサラさんと一緒に行ってみようか。それと俺で。そっちの方がサラさんの凄さが分かるでしょ」
「そうですね。それがいいと私も思いますよ」
「わたしゃどれから先でも構わないよ。そうだ、強化薬も売ってくれるのかい?」
「あ、薬は私が出場する時は自分で使わないでください」
「なんだって?」
「大丈夫、大丈夫。まずはやってみようぜ」
アンナは合点が行かない様子だったけれど、ひとまずやれば分かるとセシルが面白そうな笑みを浮かべながら言うので黙っていた。
渋々と言った感じで、アンナは団体戦を受けるための手続きに向かう。
「それじゃあ、いつも通り最初に使うよ。今回は大盤振る舞い! 全部使うよ!!」
「おーいいねー!」
「なんなんだい? ちゃんと説明しておくれよ!」
対戦のカウントダウンが始まる中、のんきな私とセシルに向かってアンナが不服そうな声を上げる。
団体戦などは、事前のアイテムや魔法の効果は全て取り除かれた状態から始まる。
そうじゃなければ、いくらでも強化可能になってしまうから。
カウントダウン中も動作はできるが、この間に使ったアイテムやいずれのスキルも無効になる。
やがて、カウントが終わり、戦闘が始まる。
敵は少し離れた場所に居るので、待つか迎え撃つかの二択だ。
「待つのは嫌いなんだ。突っ込むよ!!」
「待って! アンナ、まだ動かないで!」
早速特攻をかけようとしたアンナに、セシルは待ったをかける。
不満そうにこちらを向くアンナに、私は用意しておいた強化薬を順に投げ付けた。
「な、なんだいこれ? このエフェクトは、強化薬!? でも、数値がおかしいよ! こんな効果のある強化薬なんて聞いたことがない!!」
「あ、それ私のパッシブスキル【薬の知識】の効果だよ。薬の効果が二倍。今使ったのは【神薬】と【強薬】だね」
元々高い部分は割合増加の【神薬】、低い部分は定値増加の【強薬】を使い分け、より効率的に上げるのが私のやり方だ。
これでアンナの攻撃力などは跳ね上がってるし、低めの敏捷なども元より随分上がってるはずだ。
「す、凄いねこれは……これじゃあ、負ける気がしないよ!」
「うふふ。良かった。あ、来たみたい。じゃあ、頑張ろうね」
相手は全員近接タイプ。
そこへアンナは突っ込んでいく。
「はは! セシル! あんたは言ったね! サラちゃんが凄いと!! 意味が分かったよ! こんな事ができるなら、一人でだって勝ってやるさ!!」
「おいおい。それじゃあ、団体戦の意味ないだろ。俺も戦うからな。手柄独り占めするなよ!」
「やれやれ……二人は何をしてるのでしょうか……」
ふと振り向くとハドラーが首を横に振っているのが見えた。
確かにどっちが多く倒すかを競うコンテンツじゃないからね。
「私も戦うからね! えいっ!!」
「うわぁ!? な、何も見えねぇ!?」
私の投げた【ダゴンの墨】が見事命中した一人は、失明状態になり右往左往する。
その間にアンナの戦斧が大きく振られ、吹っ飛びながら倒れる。
どうやら一発で倒してしまったようだ。
斧に雷のような電撃が走っていたから、なにか大技のスキルを使ったのだろう。
「最高だよ!! サラちゃん!! こんなハイになったの初めてさ!! もう絶対あんたの元を離れないよ!」
「え、えーっと。うん。ありがとう」
戦神もかくやと言うような動きで、アンナは残りの二人も倒してしまった。
言っていた通り、相手の攻撃など意に介さないような攻撃で、ずっとアンナは主導権を握っていた。
私がアンナのHPを注意して、危なくなる前にきちんと回復薬を投げて置いたから、回復する手間も要らずにやりやすかったと後から絶賛された。
「だから! 一人で倒すゲームじゃねぇって!」
一方、攻撃に巻き込まれないように、近づく事が出来ずにいたセシルは、叫び声をあげるしか出来なかったみたいだ。
戦闘が終了した間際にハドラーの方をもう一度見たら、口に手を当てて笑いを必死で堪えているのが見えた。
何はともあれ、仲間が一人増えて良かった。
これであと一人加入してくれれば、とうとう攻城戦に挑むことが出来ることになる。
そしてそれは、すぐにやってくることとなった。
21
お気に入りに追加
3,473
あなたにおすすめの小説
私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました
新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました
花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。
クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。
そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。
いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。
数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。
✴︎感想誠にありがとうございます❗️
✴︎ネタバレ見たくない人もいるかなと思いつつタグ追加してみました。後でタグ消すかもしれません❗️
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる