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第51話【陥落】
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ダリアの冗談にすっかり騙されてしまった私たちに、ダリアはさらに話を続けた。
私はその内容にすっかり驚いてしまった。
「そういえば、朗報があるぞ。ようやくやつらの拠点の一つを陥落させた。これでしばらくは激しい戦闘も減るだろう」
「なんですって⁉︎」
拠点というのは長らく戦闘を続けていたこの地域に作られていた砦だ。
そこから昼夜問わず多くの魔獣たちが現れていたため、私たちはいつ止むのか分からないという戦闘を続けていた。
今までに分かっていることは、魔族たちが築き上げたとされる様々な拠点には、魔獣を召喚する特殊な部屋があるということ。
その拠点を落としたということは、この辺りにはもう魔獣が現れることがないことを意味した。
「初めはカルザー長官殿の嫌がらせと思ってたんだがな。前に一度派遣された第一衛生兵部隊も、結局戦闘に同行すると言いながら、ガチガチに守りを固めさせられたので、かえって効率が落ちたくらいだ」
「ちょっと待ってよ。ダリア。拠点を落としたって本当? 僕ですら初耳なんだけど!」
「アンバーは今日は別行動だっただろ? それに、いつまで使い魔の通信をやっているつもりだ? そっちにも既に報告の兵は送ったぞ」
「なんだって!? ごめん! みんな、ちょっと通信を切るね!!」
アンバーがそう言うと、使い魔の黒い鳥は窓の隙間から飛び出していった。
おそらく主の元へと帰るのだろう。
「話の腰が折れたな。とにかく。何年続いたかも分からんこの地域の戦闘にようやく終止符がついた。同時に、モスアゲート伯爵へ一泡吹かせることができた、ということでもある」
「伯爵に?」
「ああ。さっきも言ったとおり、第二衛生兵部隊の兵は優秀だな。傷ついた兵の怪我や毒をたちどころに治してしまう。今まで拠点を攻めるにしても、どんどんこちらの戦力は減っていく。一方、知っての通り相手の戦力は限りがない。これが拠点攻略の一番の問題でな」
確かに、拠点からは魔獣が湧くのだから、相手の戦力は減ることがない。
こちらは傷付けば戦闘から離脱していく。
拠点の周囲にはすでに発生した魔獣たちもうろついているから、拠点ばかりに目を向けていると後ろから攻撃を受けることもあり得る。
拠点に兵を送るにしても、ある程度の実力を伴わなければ、逆に足手まといだろう。
「ところが、衛生兵を帯同して、その問題が一気に解決した。使える回復魔法の質もこう言っちゃなんだが、第一衛生兵部隊の時とは段違いだ。兵士たちは安心して戦闘に集中できた。しかもだ」
「そういえば彼女らももう戻ってきているのですか? 彼女らは無事で?」
私は私と同じく戦闘に参加していた四人を思い出す。
志願してくれた彼女たちが怪我をしていたとしたらと、私は心配になってしまった。
「ああ。もうここに戻ってきているぞ。私と一緒にな。後で労ってあげてくれ。もちろんみんな傷一つない」
「ああ……良かった……」
「とにかく、今回の作戦成功の功労者は、彼女ら衛生兵と、ここにいるクロムだ」
「え? 俺が?」
突然水を向けられて、クロムは少し間の抜けた声を出す。
私はそれがおかしくて、少し笑ってしまった。
「ああ。拠点には複数の魔族がいるのが普通だ。私もアンバーも一体なら対処ができるんだが、複数は難しい。その一体をクロムが見事倒してくれた」
「あ……俺、聖女様を救うことに頭がいっぱいで、他のことなんて考えていませんでした」
恥ずかしそうに右頬を掻くクロムの肩を、ダリアは盛大に叩く。
衝撃で床が軋む音が聞こえた。
「あっはっは。戦場では結果が全てだ。胸を張れ。このことに関しては、各方面に伝達を送っている。お前も他人事じゃないぞ」
「は、はい!」
その後ダリアはやることがまだまだあるからと、隊長室を出ていった。
私はデイジーに頼んで戦場に赴いた四人を呼んでもらい、それぞれの功績を労う。
四人は自分のなしとげたことに、興奮したり、誇りに思ったり、謙遜したりと多種多様だったが、私の感謝の言葉を受けると、みな喜んでいた。
「これで、しばらくは忙しさも減るでしょうね……」
四人を下がらせた後、今度はサルビアを呼び出し今後のことについて話し合う中、デイジーがそう呟く。
「ええ。でも、まだまだ戦争は続いているわ。本当の意味で私たちが休まる時は、全ての兵士たちに休息が訪れた時よ」
「そんなことより! 隊長の呪いの件はどうするんですか? 話を聞いてびっくりですけど、私たちじゃあ、その呪い、治せないんですよね?」
サルビアの言葉に、私は少し考えてから、答えた。
「【聖女の涙】を新たに見つけるしかないでしょうね。だけど私が直接探しに行くわけにも行かないでしょうし。私は私のするべきことをするだけよ」
「どこまでもついて行きますよ!!」
「私もです!!」
「俺も!!」
私のできること……傷ついた者を治すこと、そして治すことができる者を増やすこと。
これまでもこれからもそれは変わらない。
小さい頃私の抱いた夢は、目の前の仲間たちに支えられ、着実に現実になっている。
私は一度だけ目を閉じ、これまでの出来ごとを振り返った後、目を開け視界に映る三人の顔に向け、微笑んだ。
私はその内容にすっかり驚いてしまった。
「そういえば、朗報があるぞ。ようやくやつらの拠点の一つを陥落させた。これでしばらくは激しい戦闘も減るだろう」
「なんですって⁉︎」
拠点というのは長らく戦闘を続けていたこの地域に作られていた砦だ。
そこから昼夜問わず多くの魔獣たちが現れていたため、私たちはいつ止むのか分からないという戦闘を続けていた。
今までに分かっていることは、魔族たちが築き上げたとされる様々な拠点には、魔獣を召喚する特殊な部屋があるということ。
その拠点を落としたということは、この辺りにはもう魔獣が現れることがないことを意味した。
「初めはカルザー長官殿の嫌がらせと思ってたんだがな。前に一度派遣された第一衛生兵部隊も、結局戦闘に同行すると言いながら、ガチガチに守りを固めさせられたので、かえって効率が落ちたくらいだ」
「ちょっと待ってよ。ダリア。拠点を落としたって本当? 僕ですら初耳なんだけど!」
「アンバーは今日は別行動だっただろ? それに、いつまで使い魔の通信をやっているつもりだ? そっちにも既に報告の兵は送ったぞ」
「なんだって!? ごめん! みんな、ちょっと通信を切るね!!」
アンバーがそう言うと、使い魔の黒い鳥は窓の隙間から飛び出していった。
おそらく主の元へと帰るのだろう。
「話の腰が折れたな。とにかく。何年続いたかも分からんこの地域の戦闘にようやく終止符がついた。同時に、モスアゲート伯爵へ一泡吹かせることができた、ということでもある」
「伯爵に?」
「ああ。さっきも言ったとおり、第二衛生兵部隊の兵は優秀だな。傷ついた兵の怪我や毒をたちどころに治してしまう。今まで拠点を攻めるにしても、どんどんこちらの戦力は減っていく。一方、知っての通り相手の戦力は限りがない。これが拠点攻略の一番の問題でな」
確かに、拠点からは魔獣が湧くのだから、相手の戦力は減ることがない。
こちらは傷付けば戦闘から離脱していく。
拠点の周囲にはすでに発生した魔獣たちもうろついているから、拠点ばかりに目を向けていると後ろから攻撃を受けることもあり得る。
拠点に兵を送るにしても、ある程度の実力を伴わなければ、逆に足手まといだろう。
「ところが、衛生兵を帯同して、その問題が一気に解決した。使える回復魔法の質もこう言っちゃなんだが、第一衛生兵部隊の時とは段違いだ。兵士たちは安心して戦闘に集中できた。しかもだ」
「そういえば彼女らももう戻ってきているのですか? 彼女らは無事で?」
私は私と同じく戦闘に参加していた四人を思い出す。
志願してくれた彼女たちが怪我をしていたとしたらと、私は心配になってしまった。
「ああ。もうここに戻ってきているぞ。私と一緒にな。後で労ってあげてくれ。もちろんみんな傷一つない」
「ああ……良かった……」
「とにかく、今回の作戦成功の功労者は、彼女ら衛生兵と、ここにいるクロムだ」
「え? 俺が?」
突然水を向けられて、クロムは少し間の抜けた声を出す。
私はそれがおかしくて、少し笑ってしまった。
「ああ。拠点には複数の魔族がいるのが普通だ。私もアンバーも一体なら対処ができるんだが、複数は難しい。その一体をクロムが見事倒してくれた」
「あ……俺、聖女様を救うことに頭がいっぱいで、他のことなんて考えていませんでした」
恥ずかしそうに右頬を掻くクロムの肩を、ダリアは盛大に叩く。
衝撃で床が軋む音が聞こえた。
「あっはっは。戦場では結果が全てだ。胸を張れ。このことに関しては、各方面に伝達を送っている。お前も他人事じゃないぞ」
「は、はい!」
その後ダリアはやることがまだまだあるからと、隊長室を出ていった。
私はデイジーに頼んで戦場に赴いた四人を呼んでもらい、それぞれの功績を労う。
四人は自分のなしとげたことに、興奮したり、誇りに思ったり、謙遜したりと多種多様だったが、私の感謝の言葉を受けると、みな喜んでいた。
「これで、しばらくは忙しさも減るでしょうね……」
四人を下がらせた後、今度はサルビアを呼び出し今後のことについて話し合う中、デイジーがそう呟く。
「ええ。でも、まだまだ戦争は続いているわ。本当の意味で私たちが休まる時は、全ての兵士たちに休息が訪れた時よ」
「そんなことより! 隊長の呪いの件はどうするんですか? 話を聞いてびっくりですけど、私たちじゃあ、その呪い、治せないんですよね?」
サルビアの言葉に、私は少し考えてから、答えた。
「【聖女の涙】を新たに見つけるしかないでしょうね。だけど私が直接探しに行くわけにも行かないでしょうし。私は私のするべきことをするだけよ」
「どこまでもついて行きますよ!!」
「私もです!!」
「俺も!!」
私のできること……傷ついた者を治すこと、そして治すことができる者を増やすこと。
これまでもこれからもそれは変わらない。
小さい頃私の抱いた夢は、目の前の仲間たちに支えられ、着実に現実になっている。
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