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第五十話
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「ハンスさん、セレナさん。いらっしゃいますか? いらっしゃたらこちらへお越しください」
「呼ばれたようだ。行くぞ。セレナ」
さっきの受付嬢とは異なる声色だった事を不思議に思いながら、呼ばれた方へと進んでいく。
やはり先程とは違う女性のようだ。女性の案内に従い、二人は奥の部屋へと案内された。
なんか前にも似たような事があったな、と思いながら、ハンスは開けられた扉を潜り、中にいる人物を見つめた。
そこには人の良さそうな比較的年齢の若い男性が一人立っていた。
「御足労頂いて申し訳ないね。この街のギルドマスターをやらせてもらっているアレスという者だ。少々今回の件で話が聞きたくてね。ああ、座ってくれて構わないよ」
そう言いながら自身もハンス達とは机を隔てた椅子に腰掛ける。
ギルドマスターと言うには若すぎる気もするが、先程の救助に向かった冒険者たちを考えると、信頼を受けている人物なのだろう。
「単刀直入に聞かせてもらうけど、あのオーガの角は誰か他の冒険者たちが倒したのを盗んだ訳じゃなく、間違いなく君たちが倒したものなんだね?」
「ああ。証明は出来ないがな。間違いない」
「なるほど。失礼なようだが、二人はまだ白銅級らしいね。どうやってこんな数のオーガを倒したか教えてもらえないだろうか? 受付嬢の話によると君たちがクエストを受けたのは今日の朝だと言うじゃないか」
「それは断る。簡単には手の内を教えることは出来ないな。いくらギルドマスターの命令とは言え、答える義務は無いはずだ」
「うーん。困ったね。その通りだからどうすることも出来ないよ。ところで、そこの、女性かな……? 君のそのフードを取ってもらうことは出来るかな?」
セレナは困ったようにハンスの方を窺う。
ハンスは頷き、それを見たセレナはゆっくりとフードを取った。
冒険者として登録する際に種族は必要事項として申告しているし、そもそもあんな事が起こるまでは、ガバナではセレナは素顔で活動していたのだ。
少し調べればすぐ分かることを、誤魔化す必要など感じられなかった。
アレスはセレナの頭に生える二つのふさふさとした獣の耳を見ても驚かず、むしろセレナの幼い顔付きに驚いているようだ。
「こんなにお若い方だったとはね。いやはや。驚かされた。ところで、さっきの話だけど、もしこっちが力づくで聞き出す、と言ったらどうする?」
「その時は力づくでこの街を出ていくさ」
ハンスは両肩をすくめ、本気とも冗談とも取れない素振りを見せる。
質問の間、鋭い目線を投げかけていたアレスも、毒気が抜かれたのか、顔に微笑みを浮かべ、立ち上がり懐から取り出した硬貨袋をハンスに手渡した。
「あははは。もちろん冗談だよ。そんな事をしてもギルドにはなんの得も無いからね。この街にはもう少しいるのかい?」
「ああ。実を言うと昨日到着したばかりでな。しばらくはこの街には世話になろうと思っている。冒険者には住みやすそうな良い街だな」
「そう言ってくれると嬉しいよ。ようこそティルスへ。どんどんクエストを受け、達成していってくれることを願うよ」
アレスはハンスと握手を交わすと、部屋の扉を開き、外へ出ていくハンスたちを見送った。
出る途中、思い出したように慌ててフードを被り直すセレナを見て、アレスは心の中で笑った。
「呼ばれたようだ。行くぞ。セレナ」
さっきの受付嬢とは異なる声色だった事を不思議に思いながら、呼ばれた方へと進んでいく。
やはり先程とは違う女性のようだ。女性の案内に従い、二人は奥の部屋へと案内された。
なんか前にも似たような事があったな、と思いながら、ハンスは開けられた扉を潜り、中にいる人物を見つめた。
そこには人の良さそうな比較的年齢の若い男性が一人立っていた。
「御足労頂いて申し訳ないね。この街のギルドマスターをやらせてもらっているアレスという者だ。少々今回の件で話が聞きたくてね。ああ、座ってくれて構わないよ」
そう言いながら自身もハンス達とは机を隔てた椅子に腰掛ける。
ギルドマスターと言うには若すぎる気もするが、先程の救助に向かった冒険者たちを考えると、信頼を受けている人物なのだろう。
「単刀直入に聞かせてもらうけど、あのオーガの角は誰か他の冒険者たちが倒したのを盗んだ訳じゃなく、間違いなく君たちが倒したものなんだね?」
「ああ。証明は出来ないがな。間違いない」
「なるほど。失礼なようだが、二人はまだ白銅級らしいね。どうやってこんな数のオーガを倒したか教えてもらえないだろうか? 受付嬢の話によると君たちがクエストを受けたのは今日の朝だと言うじゃないか」
「それは断る。簡単には手の内を教えることは出来ないな。いくらギルドマスターの命令とは言え、答える義務は無いはずだ」
「うーん。困ったね。その通りだからどうすることも出来ないよ。ところで、そこの、女性かな……? 君のそのフードを取ってもらうことは出来るかな?」
セレナは困ったようにハンスの方を窺う。
ハンスは頷き、それを見たセレナはゆっくりとフードを取った。
冒険者として登録する際に種族は必要事項として申告しているし、そもそもあんな事が起こるまでは、ガバナではセレナは素顔で活動していたのだ。
少し調べればすぐ分かることを、誤魔化す必要など感じられなかった。
アレスはセレナの頭に生える二つのふさふさとした獣の耳を見ても驚かず、むしろセレナの幼い顔付きに驚いているようだ。
「こんなにお若い方だったとはね。いやはや。驚かされた。ところで、さっきの話だけど、もしこっちが力づくで聞き出す、と言ったらどうする?」
「その時は力づくでこの街を出ていくさ」
ハンスは両肩をすくめ、本気とも冗談とも取れない素振りを見せる。
質問の間、鋭い目線を投げかけていたアレスも、毒気が抜かれたのか、顔に微笑みを浮かべ、立ち上がり懐から取り出した硬貨袋をハンスに手渡した。
「あははは。もちろん冗談だよ。そんな事をしてもギルドにはなんの得も無いからね。この街にはもう少しいるのかい?」
「ああ。実を言うと昨日到着したばかりでな。しばらくはこの街には世話になろうと思っている。冒険者には住みやすそうな良い街だな」
「そう言ってくれると嬉しいよ。ようこそティルスへ。どんどんクエストを受け、達成していってくれることを願うよ」
アレスはハンスと握手を交わすと、部屋の扉を開き、外へ出ていくハンスたちを見送った。
出る途中、思い出したように慌ててフードを被り直すセレナを見て、アレスは心の中で笑った。
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