上 下
45 / 52

第四十五話

しおりを挟む
 ハンスはセレナに降ろしてもらうと、残りの三匹のオーガをどうするか考え込んだ。
 先程の魔法は相手を混乱させ同士討ちさせるもので、それなりに知性がないと有用でないが、群れで居る場合にはこちらの戦力を温存したまま、相手の戦力だけ削る中々の効果が見られた。

 しかし、現状では、複数マルチを上手く当てるために、なるべく近寄る必要があるなど、運用上の改善が必要だった。
 ただ、これを例えば王国貴族などが多く集まる場所で放ったとしたら……ハンスはこれだけは絶対に世に出してはいけないと、心に誓った。

 まぁ、全ての魔法も道具も、使い方次第では、毒にも薬にもなるのだが。
 ハンスはそう思いながら、自分の知識欲と魔法への情熱を具現化するために開発した、混乱コンフューズの魔法を今度どう扱うか思案した。

 この魔法の開発過程で思いついた補助魔法、精神安定カームは場合によっては有用な魔法だ。
 これだから魔法の研究は止められない、そう思いながら、いい加減現実に思考を戻し、残り三匹のオーガへかける魔法を唱え始めた。

広範囲睡眠ラージスリープ!」

 やっぱりこれが安全で楽だよなぁ、と思いながら、先程の二匹のオーガにも使った補助魔法をかける。
 補助魔法による巨大な魔法陣がオーガの身体に落ちていくが、オーガの身体にぶつかると、弾けて消えた。

「うお!?」

 思わぬ出来事にハンスは変な声を上げる。

「ハンス様!」

 距離を既に詰めてきたオーガの拳が、ハンスの居た地点に上から振り下ろされる。
 地面が砕ける音と共に砂埃が舞い、手応えを感じなかったのか、オーガはきょろきょろと獲物の行方を探した。

「ふぅ。危なかった。助かったよ。セレナ」
「大丈夫ですが、どうなったんですか?」

 ハンスは今、セレナの小脇に抱えられた姿で、下からセレナの顔を覗き込みながら話している。
 オーガの攻撃の直前、危険を察知したセレナがハンスを抱えてその場から逃げたのだ。

「うーん。気付かなかったが、どうやら使い勝手がいいと思っていた睡眠スリープも欠点があるらしい。いきり立った魔物には効かないようだ」

 先程の同士討ちで、オーガたちの感情は高ぶっていた。
 興奮した状態では寝ることなど出来ないのだろう。

「参ったな。一体一体倒していくか? いや。これでどうかな?」

 するとハンスは、別の呪文を唱え始めた。
 それはここに来る間にセレナにかけた強化魔法だった。

 ハンスの意図が分からず、いつでもオーガの攻撃を避けれるよう、セレナはハンスを抱えたまま身構えた。
 少女の小脇に挟まれたまま、空中で指を細かく動かしながら、ブツブツとつぶやく青年。

 本人達は至って真面目なのだが、傍から見るとなかなかな絵柄になっていた。
 そんな事などお構い無しにハンスの魔法が完成する。

広範囲精神安定ラージカーム!」

 放たれた魔法陣はオーガに魔法陣を刻み、興奮していたオーガ達は穏やかになった。
 間髪入れずに、先程不発に終わった広範囲睡眠ラージスリープを唱える。

 落ち着いたためか、今度は抵抗もなく三匹のオーガはすやすやと眠りについた。
 念の為、それぞれに複数睡眠マルチスリープかけ、睡眠の深度を上げると、セレナは一匹ずつ、一撃の元に仕留めていった。

「こういう使い方もあるんだなぁ。どうだ? セレナも驚いたろ?」

 ハンスは自分の発見にまんざらでもない笑みを浮かべ、セレナに同意を求める。
 相変わらずセレナには何が起こったのか、ハンスが何をしたのか分からなかったが、嬉しそうにするハンスを気遣い、ぶんぶんと頭を上下に振った。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...