上 下
20 / 52

第二十話

しおりを挟む
「確かにアーミーアントだな。それにしても……こいつらいくら群れを作るからって、相変わらずえらい数持ってきたな」
「少し、試したいことがあってな。多い分には構わないだろう?」

 ハンスの発言を聞き、セレナはげんなりした。
 あれのどこが、少し、なのだろうか。
 セレナはうずたかく積まれたアーミアントの死骸を見つめ、さっきまでのことを思い出していた。

 ハンスはセレナに一通り説明をした後、様々な条件を試すため、アーミーアントの群れを見つけては魔法を放った。
 ハンスは魔法に関することならどんな些細なことでも夢中になる。
 もしセレナが分からないことがあると質問すれば、日が暮れるまで、いや、日が暮れても嬉々として詳しく話してくれるだろう。

 しかし、セレナはハンスの言っていることの半分も理解していないから、何も口を挟まず、指示されたことを黙々と実行して行った。
 見ている限り、どうやらハンスは今回新たに発明した、複数に一度にかけることの出来る魔法の、範囲と威力の関係などを確認していたようだ。

 様々な大きさに変えた魔法陣がアーミーアントの群れを襲った。
 セレナでも分かったことは、魔法陣の大きさが大きくなるほど、つまり広範囲になればなるほど、効果が薄くなるようだった。

 他にも小さな魔法陣を複数飛ばす魔法に関しては、数によって効果は変わらないが、どうやら数が少ない方が命中させやすいようだということが分かった。
 ハンスが言うには、動かない的でも全てきちんと当てられるのは三つが限度で、動いている相手では単発でないと難しいとの事だった。

 ハンスはもっと色々なことが分かっているのかも知れない。
 ひとつだけセレナが言えることは、【再現性】や【確率】という難しい言葉が出る時は、何度も何度も同じことを繰り返す、ということだった。
 そしてそれは【条件】というものを少し変えてはひたすらに行われた。

「ほら。これが今回の報酬だ。ついでに冒険者証をこっちに渡しな。言った通り、今日からお前達は白銅級だ」
「ほんとに上がるんだな。セレナ! 冒険者証をこっちにくれ。俺たちの新しい冒険者証はいつ頃出来るんだ?」

「もう出来てるよ。お前らが依頼を失敗するなんて誰も思っちゃいないって事だな。ほら。これが新しい冒険者証だ。いつも言ってるが無くすんじゃないぞ」
「おお!? 随分用意がいいな。ありがとう。それにしてもまだ白銅級か。銀級になるには先が長いな」
「うん? 銀級になる理由でも何かあるのか? まだって言うが、こんだけ早い昇級は中々例が無いんだぞ。最近で言うと、勇者アベルと聖女エマのパーティくらいか」

 受付の男の言葉にハンスの顔が曇った。
 事情を知らない男はその変化に気付かずにいたが、普段から共に過しているセレナは、ハンスの表情を見逃さなかった。

 しかし、ハンスから特にアベルたちの話を聞いていないセレナは、自分の主が機嫌を損ねた理由が何処に有るのか分からなかったため、言及するのを止めた。
 普段の表情に戻ったハンスは思い出したように、男にあることを聞き始める。

「そういえば、最近魔術師大会が開催されただろう。そこで何か面白い事が起きなかったか?」
「魔術師大会だと? うーん。ああ。そういえば、ワードナーって魔術師が今までに無い魔法を開発したって話題になっていたな」

 それを聞いたハンスの右の眉が上がる。

「ほう。ちなみにそれはどんな魔法だ?」
「おいおい。俺は魔術師じゃねぇから詳しい事を聞かれても分からねぇぞ? ただ、なんでもえらく難解な理論らしくてな。当の本人も理論として挙げた魔法の内、二、三個しか使えないらしい。だが、王はえらく気に入ったようでな。ワードナーは王宮研究所仕えになったらしい」
「ちっ! そうか。分かった。ありがとうな」
「あ! ハンス様! 待ってください!」

 ハンスは明らかに不機嫌な態度をあらわにし、ギルドの出口へ大股で歩き出した。
 置いていかれそうになったセレナも慌ててハンスを追いかける。

 セレナは困惑していた。
 先程の勇者アベルと聖女エマの話が出てきた時も、ハンスは不機嫌そうな顔をしたが、次の質問の答えを聞いた時のハンスの怒りはそれを遥かに上回っていた。

 そう長くない間だが、ほぼ一日中をハンスと共に過したセレナは、ハンスが魔法以外にほとんど興味を示さない人物だと思っていた。
 良くも悪くもそれ以外の事柄に関しては無頓着で、よく言えば大らか、悪く言えば無関心だと言えた。

 そのため、今までここまで感情を表に出すのは、魔法のこと以外で無かった。
 魔法のことに関してさえも、出てくる感情は、喜びなど正の感情ばかりだった。

 いや、たしか、ハンスが不機嫌になったのは、受付の男が新しい魔法が開発されたという話をしてからだ。
 恐らく、ハンスの感情を揺さぶった原因は今回も魔法絡みなのだろう。

 どちらにしてもセレナには、ハンスが話してくれた事をただ聞くだけしか出来ない。
 話もせずにずんずん前へと進む主に、セレナははぐれないよう付き添うことしか出来なかった。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

隠された第四皇女

山田ランチ
ファンタジー
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

処理中です...