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第二十一話 あの虫?
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サエロスは自室に戻り、すぐに準備に入った。
パーフェン伯爵にも内緒で、クライエ領に探りを入れる。
目的は、今日会った三人以外に、虫のことを知る者が誰かということ。
これまでは気付かれないように行動したが、今回は敢えて気付かれるような行動をする。
知っている者ならば、気付いた後に、なんらかの兆候が見られるはずだ。
意図的に自然な振る舞いを続けることは、訓練された者でも困難なのだから。
そのことをサエロスは長い情報収集の経験から知っている。
「まずは識別。その上で速やかな処理だ」
知っている者は皆殺しにせねばならない。
もちろん今日の三人も。
懸念はエリザだが、サエロスには彼女を御する可能性を持つ当てがあった。
「ふふふ……自ら手を下すのはいつぶりか……悪くない。悪くはないぞ」
ビオーネ地帯で見つけたサエロスのとっておき。
見つけた時から月日が経てば経つほど強大になっていくソレが、今も健在なことは定期的に確認している。
気軽に扱える訳ではないが、ソレが生きている間は、サエロスは自身の優位性を確信している。
にやりと笑みを作り、サエロスは意識を飛ばした。
☆☆☆
「いやぁ。本当に、何のために呼んだんだろうねぇ」
帰りの馬車でライラのお手製のジュースを飲みながら、文句を口にする。
何故かマリーの強い視線を感じるけれど、このくらいの文句は許して欲しいな。
あれ?
よく見ると目線は僕じゃなくてジュースに向かってる?
もしかして、マリーもこのジュース気に入ってくれたのかな。
そうだったらとても嬉しいんだけど。
「そういえば、お兄ちゃん。結局、あの虫はなんだったの?」
「え? 虫? なんのこと?」
「ハゲ親父の部屋で外に逃した虫よ。何か秘密があったんでしょ? 帰り際にあいつにも意味ありげに言ってたし」
「女紅虫ですよね。あれって、何か意図があって逃したんですか? てっきりたまたま見つけた虫を逃しただけかと……」
「君はまだまだお兄ちゃんのことを理解してないなぁ。お兄ちゃんの行動に無駄なことなんて無いんだよ? あんな分かりやすい行動に意図がないわけないじゃん」
「ああ。観葉植物にいた虫ね。さぁ。意味なんてないよ?」
「くぅ! またそうやってはぐらかす! 自分で気付けるようになれってことは分かるんだけど。たまにはヒントをくれたっていいじゃない」
虫ってあの虫だよね。
逃すのに意図なんて、意味なんてあるの?
そもそも僕の行動は無駄なことだらけだよ。
むしろ意味のある行動の方が少ないんじゃないかな。
虫の名前すら知らなかったしね。
それにしてもマリーは物知りだなぁ。
「確かに……アーク様はもう少し意図とか情報を知らせてくれた方がいいと私も思います」
「そうだよね! でもね! それも訓練なんだよ! 気付けるようになるになるのは至難の業というか、お兄ちゃんの意図を読み切れる人なんてこの世に存在しないけどね! そのくらいお兄ちゃんは凄いんだから!」
「訓練にも程があると、私は思います……」
「大丈夫! お兄ちゃんの課す訓練は死ぬほど辛いけど、本当に死んじゃった人は誰もいないから!」
「もし一人でもいたらその時点でダメですよ……死ぬほど辛いのも、ちょっと……」
「でも、それを乗り越えれば、格段に強くなれるんだよ? マリーだって一度経験したんでしょう?」
「そう言われると、否定できないですね。あの日の経験のおかげで、魔力量も力の使い方も格段に上がりましたから。水を使うという方法も」
「だよね! 分かってるじゃん!!」
あれ?
なんだか二人とも仲良くなってない?
来る前は犬猿の仲だったはずなのに。
僕の知らないところで和解してくれたのかな。
それなら、今回の旅の意味が十分にあったって言えるね。
良かった、良かった。
同じ屋敷で過ごす間柄なんだから、仲が悪いより、良い方が絶対良いからね。
「なんだかよく分からないけど、とりあえず良かったよ。ところでマリー。窓からの日差しのせいで右側だけ暑いから、ちょっと温度調整してくれるかな? 左は今のままでいいからさ。あ、足元はもう少し暖かくていいかな」
「前言撤回していいですか? 上下のコントロールだけでも異常な要求なのに、左右のコントロールなんてできるはずないでしょう……」
「でも、ランディなら上下左右前後もできるよ?」
「今後の馬車移動の際は、ランディ様をお誘いください!」
「え? だって、マリーは冷気系の魔術しか能がないのに。唯一の特技を他人に負けちゃっていいの?」
「ランディ様は特別です! それと、その人を煽るの、止めてもらっていいですか!?」
まずいなぁ。
何だか知らないけれど、マリーを怒らしてしまったみたいだ。
気を付けてはいるつもりなんだけど、いつも人を怒らしてしまうんだよなぁ。
困ったもんだけど、どうしようもないね。
とりあえず、機嫌をどうにかして取ってみよう。
あ、そうだ。
このジュース、もう一本だけ未開封のものがあるはずだ。
「まぁ、まぁ。マリー。落ち着いて。ほら。これあげるからさ。もう少しだけ頑張ってよ」
「……!! 確かにもうすぐ魔力枯渇になりそうではありましたが……それを理由に止めることすら許されないのですね。分かりましたよ。やればいいんでしょう? やれば」
「えーと……やってくれる気になったみたいで、良かったね?」
「ええ、ええ! 良かったですね! 本当に!!」
どうやら機嫌も直ったみたいなので、安心して旅を続けられるね。
魔物の対応とか書類の処理とか全部投げ出して来ちゃったけど、みんな優秀だから、きっと大丈夫だよね。
パーフェン伯爵にも内緒で、クライエ領に探りを入れる。
目的は、今日会った三人以外に、虫のことを知る者が誰かということ。
これまでは気付かれないように行動したが、今回は敢えて気付かれるような行動をする。
知っている者ならば、気付いた後に、なんらかの兆候が見られるはずだ。
意図的に自然な振る舞いを続けることは、訓練された者でも困難なのだから。
そのことをサエロスは長い情報収集の経験から知っている。
「まずは識別。その上で速やかな処理だ」
知っている者は皆殺しにせねばならない。
もちろん今日の三人も。
懸念はエリザだが、サエロスには彼女を御する可能性を持つ当てがあった。
「ふふふ……自ら手を下すのはいつぶりか……悪くない。悪くはないぞ」
ビオーネ地帯で見つけたサエロスのとっておき。
見つけた時から月日が経てば経つほど強大になっていくソレが、今も健在なことは定期的に確認している。
気軽に扱える訳ではないが、ソレが生きている間は、サエロスは自身の優位性を確信している。
にやりと笑みを作り、サエロスは意識を飛ばした。
☆☆☆
「いやぁ。本当に、何のために呼んだんだろうねぇ」
帰りの馬車でライラのお手製のジュースを飲みながら、文句を口にする。
何故かマリーの強い視線を感じるけれど、このくらいの文句は許して欲しいな。
あれ?
よく見ると目線は僕じゃなくてジュースに向かってる?
もしかして、マリーもこのジュース気に入ってくれたのかな。
そうだったらとても嬉しいんだけど。
「そういえば、お兄ちゃん。結局、あの虫はなんだったの?」
「え? 虫? なんのこと?」
「ハゲ親父の部屋で外に逃した虫よ。何か秘密があったんでしょ? 帰り際にあいつにも意味ありげに言ってたし」
「女紅虫ですよね。あれって、何か意図があって逃したんですか? てっきりたまたま見つけた虫を逃しただけかと……」
「君はまだまだお兄ちゃんのことを理解してないなぁ。お兄ちゃんの行動に無駄なことなんて無いんだよ? あんな分かりやすい行動に意図がないわけないじゃん」
「ああ。観葉植物にいた虫ね。さぁ。意味なんてないよ?」
「くぅ! またそうやってはぐらかす! 自分で気付けるようになれってことは分かるんだけど。たまにはヒントをくれたっていいじゃない」
虫ってあの虫だよね。
逃すのに意図なんて、意味なんてあるの?
そもそも僕の行動は無駄なことだらけだよ。
むしろ意味のある行動の方が少ないんじゃないかな。
虫の名前すら知らなかったしね。
それにしてもマリーは物知りだなぁ。
「確かに……アーク様はもう少し意図とか情報を知らせてくれた方がいいと私も思います」
「そうだよね! でもね! それも訓練なんだよ! 気付けるようになるになるのは至難の業というか、お兄ちゃんの意図を読み切れる人なんてこの世に存在しないけどね! そのくらいお兄ちゃんは凄いんだから!」
「訓練にも程があると、私は思います……」
「大丈夫! お兄ちゃんの課す訓練は死ぬほど辛いけど、本当に死んじゃった人は誰もいないから!」
「もし一人でもいたらその時点でダメですよ……死ぬほど辛いのも、ちょっと……」
「でも、それを乗り越えれば、格段に強くなれるんだよ? マリーだって一度経験したんでしょう?」
「そう言われると、否定できないですね。あの日の経験のおかげで、魔力量も力の使い方も格段に上がりましたから。水を使うという方法も」
「だよね! 分かってるじゃん!!」
あれ?
なんだか二人とも仲良くなってない?
来る前は犬猿の仲だったはずなのに。
僕の知らないところで和解してくれたのかな。
それなら、今回の旅の意味が十分にあったって言えるね。
良かった、良かった。
同じ屋敷で過ごす間柄なんだから、仲が悪いより、良い方が絶対良いからね。
「なんだかよく分からないけど、とりあえず良かったよ。ところでマリー。窓からの日差しのせいで右側だけ暑いから、ちょっと温度調整してくれるかな? 左は今のままでいいからさ。あ、足元はもう少し暖かくていいかな」
「前言撤回していいですか? 上下のコントロールだけでも異常な要求なのに、左右のコントロールなんてできるはずないでしょう……」
「でも、ランディなら上下左右前後もできるよ?」
「今後の馬車移動の際は、ランディ様をお誘いください!」
「え? だって、マリーは冷気系の魔術しか能がないのに。唯一の特技を他人に負けちゃっていいの?」
「ランディ様は特別です! それと、その人を煽るの、止めてもらっていいですか!?」
まずいなぁ。
何だか知らないけれど、マリーを怒らしてしまったみたいだ。
気を付けてはいるつもりなんだけど、いつも人を怒らしてしまうんだよなぁ。
困ったもんだけど、どうしようもないね。
とりあえず、機嫌をどうにかして取ってみよう。
あ、そうだ。
このジュース、もう一本だけ未開封のものがあるはずだ。
「まぁ、まぁ。マリー。落ち着いて。ほら。これあげるからさ。もう少しだけ頑張ってよ」
「……!! 確かにもうすぐ魔力枯渇になりそうではありましたが……それを理由に止めることすら許されないのですね。分かりましたよ。やればいいんでしょう? やれば」
「えーと……やってくれる気になったみたいで、良かったね?」
「ええ、ええ! 良かったですね! 本当に!!」
どうやら機嫌も直ったみたいなので、安心して旅を続けられるね。
魔物の対応とか書類の処理とか全部投げ出して来ちゃったけど、みんな優秀だから、きっと大丈夫だよね。
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