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第二十話 虫の知らせ
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「ふぅ……私としたことが、つい声を荒げてしまいましたね。んふ」
「パーフェン様。事前情報とかなり異なる印象ですな」
アークたちが帰った後、パーフェン伯爵と同席していたサエロスは静かに話し合っていた。
「そうですね……金で雇った者たちの不甲斐なさに失望していましたが、まさかあのエリザを帯同しているとは。あなたの確認では、ずっと魔物の対応に追われてたはずでは? んふ? んふ?」
「虫の知らせでは、間違いなく。出発当日までは、なんのやり取りもなかったはず。当日も周囲には休息のために屋敷に戻ったと伝えていた。明らかに情報が漏れていることを事前に知っていたかのような周到さだ」
アークたちを襲った山賊は、パーフェン伯爵の差金だった。
新しく領主になったばかりのアークが死ねば、エリザかランディが領主になるまで、空白期間が生じる。
そこを狙って既成事実として魔鉱石の鉱床の採掘権、もっといえば所有権を手に入れようと画策したのだが、上手くいかなかった。
エリザを初めとした騎士たちは、魔鉱石に引き寄せられるように集まる魔物の対応で手が離せないはずだった。
もう一人の脅威、ランディも理由は不明だが領地から遠く離れた場所にいるという情報が得られていた。
そこを狙ったつもりだったが、蓋を開ければエリザがいた。
先ほどの確認でアーク本人の口からエリザであることも確認済みだ。
「試しに虫の存在に気付いているのか確認させてみれば、真っ先に見つけていましたね。しかも、アーク本人が。んっふ。気付いてもエリザかもう一人の女かと思いましたが……教えているそぶりはなかったのですよね?」
「ああ。しかし、意図が分からん。分かっていたとしても、これまでのように知らぬふりをすればいい。少なくとも俺ならそうする。誤った情報を掴ませるのにうってつけだからな」
サエロスの虫の知らせは情報収集に特化した能力だ。
虫を通じて、離れた位置の景色と音を得られる秘技。
パーフェン伯爵はこの能力を用い、様々な有意な状況を作り上げてきた。
使用には様々な制限が生じるが、相手に気付かれることなく情報が得られることは、パーフェン伯爵が知る限り最も優れた技能だ。
少なくとも二人が知る限り、情報収集時に対象に気付かれたことは、ない。
「たまたま。本当にたまたま、ただの虫だと思って逃した可能性はないのですか?」
「あり得ないな」
「んふふ。すごい自信ですね。ぜひその根拠をお知らせください」
「パーフェン様にも言わず、異なる位置の複数に虫を忍ばせておいた。知っての通り本命は一匹だけだ。その中で本命だけを正確に外へ逃した。念のため、本命付近には他の虫も置いたのにも関わらずだ。見た目で見抜くのは不可能。正直、俺にもどうやって見抜いたのか分からん」
「おほっ。なるほど。そして去り際のあの言葉。あなたが術者と気付いてたしたら……んふふ。かなりの自信家ですね。あえてこちらにバラしたのは若さゆえでしょう。誇示したいのですよ。自らの力を」
「今となってはそう考えるしかないが……ならばなぜ今まで弟や妹のようにせず、力を隠していたのか。俺の調べでは、自領のほとんどの者が新領主になんの才能もないと思っている様子だったぞ」
サエロスはパーフェン伯爵の指示で、長い期間、クライエ領の情報を探っていた。
そこで得たのは、驚くべき才能を持つ前領主の二人の子供と、その二人どころか一般人と比較しても才能の劣る、新領主になった長男の存在だった。
そこに表出した魔鉱石の鉱床。
領地をさらに広げたいパーフェン伯爵にとって、喉から手が出るほど欲しいもの。
採掘権を独占できれば、他領に対しても有意に立てる、まさに宝の山だ。
今回の狙いは残念ながら外れたが、収穫もあった。
相手が侮れない力を隠し持っていたこと、そして虫の知らせの存在を相手が認識しているということだ。
知っていることが分かれば、その情報をもとに策を練ればいい。
少なくともアーク自身が見分ける能力を持つことは明らかになった。
しかし、誰しもが見分けることができるはずもない。
これから得るべき情報は、誰が見抜くことができるか。
それが分かれば、いくらでもやりようがある。
さらにはアークが居る場所で得られた情報は、重要な情報ではない。
パーフェン伯爵は、そう考える。
「だから若さですよ。隠そうとしたのは前領主でしょう。そんな頭が回る男だとは思ってもみませんでしたが。そのタガが外れて見せびらかしたくなったのですよ。んふふ。まぁ、良いでしょう。今回は貸しにしてあげます」
「ふむ。そうなのだろうな。力の誇示か……共感にはほど遠い感情だな」
アークにその存在を知られてしまったが、サエロスの能力の真価は、知られないことで発揮する。
自分以外にこの能力を正しく理解している者はいない。
長年仕えたパーフェン伯爵すら、全貌は知らない。
これまでに他にこの能力を知り得たのは両親のみ。
その二人も、はるか昔にサエロスの手で口を封じた。
だからこそこの歳まで生き残ることができたのだ。
パーフェン伯爵がこれからどう出るつもりかは関係ない。
サエロスにも見当のつかない方法で見破ることができるアークの存在を野放しにできるはずもない。
可能な限り早く処理しなければいけない対象だ。
他人任せになどできず、自らの手で早急に対応する必要がある。
その力がサエロスにはあるのだ。
パーフェン伯爵にすら秘匿している秘技中の秘技。
かつて両親を手にかけたとっておきの秘策が。
もし知られたならば、パーフェン伯爵すら殺すことを厭わぬ力が。
「パーフェン様。事前情報とかなり異なる印象ですな」
アークたちが帰った後、パーフェン伯爵と同席していたサエロスは静かに話し合っていた。
「そうですね……金で雇った者たちの不甲斐なさに失望していましたが、まさかあのエリザを帯同しているとは。あなたの確認では、ずっと魔物の対応に追われてたはずでは? んふ? んふ?」
「虫の知らせでは、間違いなく。出発当日までは、なんのやり取りもなかったはず。当日も周囲には休息のために屋敷に戻ったと伝えていた。明らかに情報が漏れていることを事前に知っていたかのような周到さだ」
アークたちを襲った山賊は、パーフェン伯爵の差金だった。
新しく領主になったばかりのアークが死ねば、エリザかランディが領主になるまで、空白期間が生じる。
そこを狙って既成事実として魔鉱石の鉱床の採掘権、もっといえば所有権を手に入れようと画策したのだが、上手くいかなかった。
エリザを初めとした騎士たちは、魔鉱石に引き寄せられるように集まる魔物の対応で手が離せないはずだった。
もう一人の脅威、ランディも理由は不明だが領地から遠く離れた場所にいるという情報が得られていた。
そこを狙ったつもりだったが、蓋を開ければエリザがいた。
先ほどの確認でアーク本人の口からエリザであることも確認済みだ。
「試しに虫の存在に気付いているのか確認させてみれば、真っ先に見つけていましたね。しかも、アーク本人が。んっふ。気付いてもエリザかもう一人の女かと思いましたが……教えているそぶりはなかったのですよね?」
「ああ。しかし、意図が分からん。分かっていたとしても、これまでのように知らぬふりをすればいい。少なくとも俺ならそうする。誤った情報を掴ませるのにうってつけだからな」
サエロスの虫の知らせは情報収集に特化した能力だ。
虫を通じて、離れた位置の景色と音を得られる秘技。
パーフェン伯爵はこの能力を用い、様々な有意な状況を作り上げてきた。
使用には様々な制限が生じるが、相手に気付かれることなく情報が得られることは、パーフェン伯爵が知る限り最も優れた技能だ。
少なくとも二人が知る限り、情報収集時に対象に気付かれたことは、ない。
「たまたま。本当にたまたま、ただの虫だと思って逃した可能性はないのですか?」
「あり得ないな」
「んふふ。すごい自信ですね。ぜひその根拠をお知らせください」
「パーフェン様にも言わず、異なる位置の複数に虫を忍ばせておいた。知っての通り本命は一匹だけだ。その中で本命だけを正確に外へ逃した。念のため、本命付近には他の虫も置いたのにも関わらずだ。見た目で見抜くのは不可能。正直、俺にもどうやって見抜いたのか分からん」
「おほっ。なるほど。そして去り際のあの言葉。あなたが術者と気付いてたしたら……んふふ。かなりの自信家ですね。あえてこちらにバラしたのは若さゆえでしょう。誇示したいのですよ。自らの力を」
「今となってはそう考えるしかないが……ならばなぜ今まで弟や妹のようにせず、力を隠していたのか。俺の調べでは、自領のほとんどの者が新領主になんの才能もないと思っている様子だったぞ」
サエロスはパーフェン伯爵の指示で、長い期間、クライエ領の情報を探っていた。
そこで得たのは、驚くべき才能を持つ前領主の二人の子供と、その二人どころか一般人と比較しても才能の劣る、新領主になった長男の存在だった。
そこに表出した魔鉱石の鉱床。
領地をさらに広げたいパーフェン伯爵にとって、喉から手が出るほど欲しいもの。
採掘権を独占できれば、他領に対しても有意に立てる、まさに宝の山だ。
今回の狙いは残念ながら外れたが、収穫もあった。
相手が侮れない力を隠し持っていたこと、そして虫の知らせの存在を相手が認識しているということだ。
知っていることが分かれば、その情報をもとに策を練ればいい。
少なくともアーク自身が見分ける能力を持つことは明らかになった。
しかし、誰しもが見分けることができるはずもない。
これから得るべき情報は、誰が見抜くことができるか。
それが分かれば、いくらでもやりようがある。
さらにはアークが居る場所で得られた情報は、重要な情報ではない。
パーフェン伯爵は、そう考える。
「だから若さですよ。隠そうとしたのは前領主でしょう。そんな頭が回る男だとは思ってもみませんでしたが。そのタガが外れて見せびらかしたくなったのですよ。んふふ。まぁ、良いでしょう。今回は貸しにしてあげます」
「ふむ。そうなのだろうな。力の誇示か……共感にはほど遠い感情だな」
アークにその存在を知られてしまったが、サエロスの能力の真価は、知られないことで発揮する。
自分以外にこの能力を正しく理解している者はいない。
長年仕えたパーフェン伯爵すら、全貌は知らない。
これまでに他にこの能力を知り得たのは両親のみ。
その二人も、はるか昔にサエロスの手で口を封じた。
だからこそこの歳まで生き残ることができたのだ。
パーフェン伯爵がこれからどう出るつもりかは関係ない。
サエロスにも見当のつかない方法で見破ることができるアークの存在を野放しにできるはずもない。
可能な限り早く処理しなければいけない対象だ。
他人任せになどできず、自らの手で早急に対応する必要がある。
その力がサエロスにはあるのだ。
パーフェン伯爵にすら秘匿している秘技中の秘技。
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もし知られたならば、パーフェン伯爵すら殺すことを厭わぬ力が。
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