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第十八話 お土産
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「はぁ……無駄なことに時間使っちゃったねぇ」
山賊が出たのが自分の領地とこれから向かうパーフェン伯爵領の境目だったのだけれど。
事後処理とかどうせ回り回って僕の方に来る可能性があったので、めんどくさくならないようにパーフェン伯爵領の町で引き渡してきた。
マリーがうるさいことごちゃごちゃ言ってたけど、そこはほら、僕たちが黙ってれば誰も分からないってやつだから。
山賊が何か言ったとしても、実際に襲われた領主の僕の言い分が覆ることなんて、まずあり得ないからね。
「それにしても、まるで僕を襲ってたみたいだなぁ。僕が襲われる理由なんて……ありすぎて困っちゃうね?」
「お兄ちゃんはすぐに面倒ごと起こす癖があるからねー。それが訓練になるから私は一向に構わないんだけど。でも、今回のやつは訓練どころか準備運動にもならなそうだったけど」
「マリーが穏便に済ましてくれて良かったじゃないか。嫌だよ? 血濡れでパーフェン伯爵の元に行くなんて」
「ちゃんと着替えが用意されているから大丈夫だよ。お兄ちゃん!」
「そういう問題なのかなぁ……」
なにはともあれ、もうすぐパーフェン伯爵の屋敷らしい。
パーフェン伯爵領はクライエ子爵領に比べれば随分と広いらしいけれど、両家の屋敷は比較的近くにある。
だから簡単に招待状なんてもらったりするんだろうなぁ。
あんまり続くようなら、屋敷の位置を変えるってのも手かもしれない。
「止まれ! この先はパーフェン様のお屋敷だ! 名乗れ!!」
「ちょっと!? きちんとクライエ家の紋章が入った正規の馬車で来てるってのに、随分横柄な態度じゃない!?」
「まぁまぁ、エリザ。落ち着きなよ。間違ってもこの屋敷を出るまで誰にも手を出したらダメだからね?」
「うーん。お兄ちゃんがそういうなら。我慢するのも訓練のひとつだもんね?」
「うんうん。そうだね。きちんと我慢できるエリザは偉い、偉い」
「えへへー。お兄ちゃんに褒められちゃった」
「なに兄弟で遊んでるんですが。クライエ子爵家のアーク・クライエです。パーフェン伯爵閣下から招待され、馳せ参じました。こちらが招待状です」
マリーが気を利かせて対応してくれたっぽい。
そういえば、招待状はマリーが持ってたんだね。
すっかり忘れてたよ。
もし僕が持っていたら、どこかで紛失する可能性が高かった。
マリーから渡された招待状を見た門番は、横柄な態度は変えずに、馬車から降りるようにと仕草をした。
どうやら、馬車のままでは中に入れてもらえないようだ。
これが格の差ってやつだね。
まいったね。
お土産に持ってきたミスリルウルフの敷物、どうしようかな。
「案内する。ついてこい」
「あ、ちょっと待ってよ。パーフェン伯爵に土産を持ってきたんだ。馬車に積んであるんだけどさ。なかなか大きいものなんだ。どうすればいいかな?」
「パーフェン様に貢物だと? 変なものではあるまいな? 先に確認させてもらう。見せろ」
「えーと……あった、あった。これだね」
ミスリルウルフの毛皮の敷物。
自分で言うのもなんだけど、なかなかの見栄えじゃない?
きっと門番もニッコリだよね。
と思ったら、なんだか複雑な表情をしていた。
「む……ミスリルウルフの毛皮、か……うむ。悪いものではなさそうだな。……荷物になるだろう。俺がここで預かろう。パーフェン様には後で渡しておく」
「いやいや。お気遣いなく。せっかく持ってきたんだ。僕から直接渡すよ」
「ぐ……分かった。こっちだ」
この妙な感じはなんだろうね?
何故かマリーも驚いた顔をしている。
エリザは……いつも通りのニッコニコな笑顔だね。
よく分からないのも嫌なので、試しにマリーに聞いてみる。
「ねぇ。この贈り物ってなんかまずかったのかな?」
「え!? まさか意味を知らずに持ってきた……なんてわけないですよね?」
やっぱり何か意味があったらしい。
知らないよ、意味なんか。
「バカね。お兄ちゃんがそんな常識知らずな訳ないでしょう? ちゃんと分かって持ってきてるのよ」
「そうですよね。貴族間で魔物の部位の贈り物をするのは、その魔物を討伐するだけの武力があるという誇示のため、なんてこと、知らないはずがないですよね」
だから知らなかったよ。
そんなこと。
「ただ事前に教えてくれてたら、サンダーエイプの首の置物も用意できたんだけどなぁ」
「え? 首の置物なんて欲しがる人なんかいる? 敷物だったら、実用性あるけどさ」
「なるほど…実用性のないもの、置物などでしたら、色々な理由をつけて飾らない、使用しないということもできますが。ミスリルウルフの毛皮は品も崩しませんし、実用性も申し分ありません。使わざるをえない、ということですね」
「あ、ああ。そうだね」
「さすがお兄ちゃん。これでパーフェンは見るたびに屈辱を味わうってわけだね。まぁ、ミスリルウルフくらい倒せないのが悪いんだけど」
エリザはちょっと声の音量下げようか。
なんだか前を歩く門番の肩がわなわな震えてるように見えるよ。
ちらっと見えるこめかみのあたりなんか、間違いなく青筋浮き出ちゃってるし。
「着いたぞ。ここで待っていろ」
応接室に案内されて、しばらく待ってみたけれどなかなか来ない。
人を呼び出しておいてあっちは来ないなんてなかなか横柄な人だね。
まぁ、これも格の違いってやつだね。
待っている間暇なので、部屋の中をうろうろと見て回る。
「あ、虫だ」
部屋の隅に飾られている観葉植物の葉の後ろに、隠れるようにして一匹の虫がいた。
斑点模様の付いた半球型の身体をした
多分空気の入れ替えか何かで窓を開けた時に、入ってしまったんだろうね。
このままでは可哀想なので潰さないように注意しながらつまみあげ、窓から逃がしてあげる。
「うん。これでよし。もう入ってきちゃダメだよ」
外へ飛んでいく虫に向かって声をかける。
言葉を理解できるわけないけど、ついつい声に出してしまうのはなんでなんだろうね。
窓を閉めたのと、扉が開いたのはほぼ同時だった。
慌てて振り返る。
そこには頭頂が寂しくなった男性と、スキンヘッドの男性が立っていた。
さて……どっちがパーフェン伯爵だろう。
山賊が出たのが自分の領地とこれから向かうパーフェン伯爵領の境目だったのだけれど。
事後処理とかどうせ回り回って僕の方に来る可能性があったので、めんどくさくならないようにパーフェン伯爵領の町で引き渡してきた。
マリーがうるさいことごちゃごちゃ言ってたけど、そこはほら、僕たちが黙ってれば誰も分からないってやつだから。
山賊が何か言ったとしても、実際に襲われた領主の僕の言い分が覆ることなんて、まずあり得ないからね。
「それにしても、まるで僕を襲ってたみたいだなぁ。僕が襲われる理由なんて……ありすぎて困っちゃうね?」
「お兄ちゃんはすぐに面倒ごと起こす癖があるからねー。それが訓練になるから私は一向に構わないんだけど。でも、今回のやつは訓練どころか準備運動にもならなそうだったけど」
「マリーが穏便に済ましてくれて良かったじゃないか。嫌だよ? 血濡れでパーフェン伯爵の元に行くなんて」
「ちゃんと着替えが用意されているから大丈夫だよ。お兄ちゃん!」
「そういう問題なのかなぁ……」
なにはともあれ、もうすぐパーフェン伯爵の屋敷らしい。
パーフェン伯爵領はクライエ子爵領に比べれば随分と広いらしいけれど、両家の屋敷は比較的近くにある。
だから簡単に招待状なんてもらったりするんだろうなぁ。
あんまり続くようなら、屋敷の位置を変えるってのも手かもしれない。
「止まれ! この先はパーフェン様のお屋敷だ! 名乗れ!!」
「ちょっと!? きちんとクライエ家の紋章が入った正規の馬車で来てるってのに、随分横柄な態度じゃない!?」
「まぁまぁ、エリザ。落ち着きなよ。間違ってもこの屋敷を出るまで誰にも手を出したらダメだからね?」
「うーん。お兄ちゃんがそういうなら。我慢するのも訓練のひとつだもんね?」
「うんうん。そうだね。きちんと我慢できるエリザは偉い、偉い」
「えへへー。お兄ちゃんに褒められちゃった」
「なに兄弟で遊んでるんですが。クライエ子爵家のアーク・クライエです。パーフェン伯爵閣下から招待され、馳せ参じました。こちらが招待状です」
マリーが気を利かせて対応してくれたっぽい。
そういえば、招待状はマリーが持ってたんだね。
すっかり忘れてたよ。
もし僕が持っていたら、どこかで紛失する可能性が高かった。
マリーから渡された招待状を見た門番は、横柄な態度は変えずに、馬車から降りるようにと仕草をした。
どうやら、馬車のままでは中に入れてもらえないようだ。
これが格の差ってやつだね。
まいったね。
お土産に持ってきたミスリルウルフの敷物、どうしようかな。
「案内する。ついてこい」
「あ、ちょっと待ってよ。パーフェン伯爵に土産を持ってきたんだ。馬車に積んであるんだけどさ。なかなか大きいものなんだ。どうすればいいかな?」
「パーフェン様に貢物だと? 変なものではあるまいな? 先に確認させてもらう。見せろ」
「えーと……あった、あった。これだね」
ミスリルウルフの毛皮の敷物。
自分で言うのもなんだけど、なかなかの見栄えじゃない?
きっと門番もニッコリだよね。
と思ったら、なんだか複雑な表情をしていた。
「む……ミスリルウルフの毛皮、か……うむ。悪いものではなさそうだな。……荷物になるだろう。俺がここで預かろう。パーフェン様には後で渡しておく」
「いやいや。お気遣いなく。せっかく持ってきたんだ。僕から直接渡すよ」
「ぐ……分かった。こっちだ」
この妙な感じはなんだろうね?
何故かマリーも驚いた顔をしている。
エリザは……いつも通りのニッコニコな笑顔だね。
よく分からないのも嫌なので、試しにマリーに聞いてみる。
「ねぇ。この贈り物ってなんかまずかったのかな?」
「え!? まさか意味を知らずに持ってきた……なんてわけないですよね?」
やっぱり何か意味があったらしい。
知らないよ、意味なんか。
「バカね。お兄ちゃんがそんな常識知らずな訳ないでしょう? ちゃんと分かって持ってきてるのよ」
「そうですよね。貴族間で魔物の部位の贈り物をするのは、その魔物を討伐するだけの武力があるという誇示のため、なんてこと、知らないはずがないですよね」
だから知らなかったよ。
そんなこと。
「ただ事前に教えてくれてたら、サンダーエイプの首の置物も用意できたんだけどなぁ」
「え? 首の置物なんて欲しがる人なんかいる? 敷物だったら、実用性あるけどさ」
「なるほど…実用性のないもの、置物などでしたら、色々な理由をつけて飾らない、使用しないということもできますが。ミスリルウルフの毛皮は品も崩しませんし、実用性も申し分ありません。使わざるをえない、ということですね」
「あ、ああ。そうだね」
「さすがお兄ちゃん。これでパーフェンは見るたびに屈辱を味わうってわけだね。まぁ、ミスリルウルフくらい倒せないのが悪いんだけど」
エリザはちょっと声の音量下げようか。
なんだか前を歩く門番の肩がわなわな震えてるように見えるよ。
ちらっと見えるこめかみのあたりなんか、間違いなく青筋浮き出ちゃってるし。
「着いたぞ。ここで待っていろ」
応接室に案内されて、しばらく待ってみたけれどなかなか来ない。
人を呼び出しておいてあっちは来ないなんてなかなか横柄な人だね。
まぁ、これも格の違いってやつだね。
待っている間暇なので、部屋の中をうろうろと見て回る。
「あ、虫だ」
部屋の隅に飾られている観葉植物の葉の後ろに、隠れるようにして一匹の虫がいた。
斑点模様の付いた半球型の身体をした
多分空気の入れ替えか何かで窓を開けた時に、入ってしまったんだろうね。
このままでは可哀想なので潰さないように注意しながらつまみあげ、窓から逃がしてあげる。
「うん。これでよし。もう入ってきちゃダメだよ」
外へ飛んでいく虫に向かって声をかける。
言葉を理解できるわけないけど、ついつい声に出してしまうのはなんでなんだろうね。
窓を閉めたのと、扉が開いたのはほぼ同時だった。
慌てて振り返る。
そこには頭頂が寂しくなった男性と、スキンヘッドの男性が立っていた。
さて……どっちがパーフェン伯爵だろう。
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