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第十二話 囮?
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アークは一歩、また一歩とミスリルウルフとシルバーウルフの群れに向かって歩いていく。
その隙に逃げろと言われたが、マリーとバンプはその場からことの成り行きを見守っていた。
きっと二人の知らない能力で、この事態を打破してくれると信じて。
すでにミスリルウルフたちの射程距離に入っているはずだ。
マリーの知識では、シルバーウルフたち群れのボスであるミスリルウルフが直接動くことは稀。
ミスリルウルフの司令の下に、シルバーウルフたちが連携して狩りをするのだという。
動き出すとしたら、三匹のシルバーウルフが先だろう。
アークがどのような術を持っているのか全く分からないが、やるなら先手の方がいい。
それとも何か特殊な理由で、相手が動き出した後に行動する必要があるのだろうか。
アークは立ち止まって動かない。
直立不動で手は握りしめたまま真下に伸びている。
初めから武器らしき武器を持っていないことや、あれほどの効果の高い魔力回復ポーションを飲み干せるのだから、マリーや弟のランディ同様、魔術師である可能性が高い。
そうだとすれば、あれほど至近距離に向かった理由がマリーには不思議だった。
魔術師は一般的に、中距離から遠距離の攻撃を好む。
技量によるが、魔術を放つためには一定の溜めが必要なことが多く、効果が高い魔術ほどその溜めは長くなる傾向にある。
バンプのように近接戦闘するメリットが魔術師にはないのだ。
「おい……あいつ、さっきから小刻みに震えてないか?」
「え……?」
バンプに言われて、マリーはアークの様子を再度注視した。
確かに、アークの身体全体が、震えるように動いている。
「まさか……本当に何の手段もなく、言葉通り囮を買って出たってわけじゃないだろうな?」
「冗談でしょ……? 仮にも領主よ? 臣下が盾になることがあったとしても、領主が臣下のために命を投げ出すわけが……」
そんなわけがあるはずもない。
二人はそう思いながらも、アークに向かって走り出していた。
自分の勘違いのせいで主君たるアークを死なせるわけにはいかない。
マリーとバンプが動き出すのと、シルバーウルフたちが跳躍したのはほぼ同じタイミングだった。
二人はその次の瞬間、目の前の光景に思わず叫んだ。
「なんだそりゃあああああ!?」
「どうしてこっちに向かってくるのよぉおおお!?」
何故かシルバーウルフたちは、目の前のアークには目もくれず、横を通り過ぎた。
目指すのは明らかにマリーとバンプだ。
☆☆☆
「あ……あれ?」
僕は間抜けな声を上げた。
変わらず目の前にいるミスリルウルフと目が合う。
後ろを振り向けば、後ろ姿のシルバーウルフたち。
マリーとバンプは絶叫しながら逃げていく。
なんでまだあんなところにいるんだろう。
どうしてか知らないけど、全然襲われないから、それなりの時間を稼げていたはずなのに。
これじゃあ、せっかく囮になった意味がないじゃないか。
結局囮にすらなれてないけれど。
それにしてもなんで襲われなかったんだろう。
そういえば……と過去のことを思い起こす。
エリザやランディたちと魔物に遭遇しても、よく考えれば僕が襲われることは滅多になかった。
まぁほとんどは襲われる前にエリザかランディが瞬殺してしまうのだけれどね。
「なんだろうなぁ。日頃の行いかな?」
自分で言ってはみるものの、魔物に襲われにくくなる日頃の行いってのがあれば、教えて欲しいくらいだ。
それにしても、二人ともまだまだあんなに動けたんだね。
僕は死ぬ覚悟が出来ずに震えていただけでヘトヘトなのに。
「あ……まずい……」
マリーを庇いながら逃げていたバンプが押し倒された。
二匹も近くで様子を伺っている。
あのまま噛み付かれたら終わり。
仮に跳ね除けたとしても、残りの二匹が襲いかかるんだろうな。
残酷な結末を予測して、僕は思わず目を強くつぶった。
『アォオオオオオン!!』
突然後ろから大きな鳴き声が聞こえて、思わず目を開け振り向いた。
どうやらミスリルウルフの声のようだ。
その声に呼ばれたのか、バンプを襲うのを止め、シルバーウルフたちがミスリルウルフの下へと駆け戻ってきた。
ミスリルウルフたちは、僕やマリーとバンプのいる方角とは違う向きを向いて唸り始めた。
まるで何かを警戒するかのように。
釣られて同じ方向を向く。
そこにはニッコニコの笑顔で近付いてくる、一人の女性の姿が。
赤髪で甲冑を着込み、腰には長めの剣を差してる。
エリザじゃん。
「いた、いた。お兄ちゃん! 探したんだよぉ? 一人で散歩行くなんて! なんで私を誘ってくれなかったの?」
「うんうん。エリザは用事があるって言って、屋敷にいなかったからだね。いつ戻ってきたの?」
「ついさっき。真っ先にお兄ちゃんに会いに行ったのに、いないんだから! で? 今日はこんなところで何してるの?」
「散歩だよ、散歩。そうだ、エリザ。あのミスリルウルフとかいう魔物、どうにかしてくれない? マリーとバンプには荷が重いみたいなんだ」
「マリー? バンプ? 誰? それ?」
エリザは相変わらずニッコニコの顔のままだ。
ミスリルウルフたちは視界に入っているはずなのに、一向に気にする様子もない。
我が妹ながら、頼もしいことこの上ない。
「えーと。マリーは書記官だったかな? バンプはエリザのところの騎士だね」
「は? 騎士の子と私に内緒で? もしかして、訓練!? ずるい!!」
「いや……訓練じゃないよ。訓練で死なれたらまずいだろ? ほら、あそこで倒れてる……あ」
凄い速さでバンプの所へ駆けていっちゃった。
さっきのシルバーウルフよりずっと速いんじゃないんかな?
てか、ミスリルウルフたち、空気扱いになってるけど、大丈夫なのかな?
その隙に逃げろと言われたが、マリーとバンプはその場からことの成り行きを見守っていた。
きっと二人の知らない能力で、この事態を打破してくれると信じて。
すでにミスリルウルフたちの射程距離に入っているはずだ。
マリーの知識では、シルバーウルフたち群れのボスであるミスリルウルフが直接動くことは稀。
ミスリルウルフの司令の下に、シルバーウルフたちが連携して狩りをするのだという。
動き出すとしたら、三匹のシルバーウルフが先だろう。
アークがどのような術を持っているのか全く分からないが、やるなら先手の方がいい。
それとも何か特殊な理由で、相手が動き出した後に行動する必要があるのだろうか。
アークは立ち止まって動かない。
直立不動で手は握りしめたまま真下に伸びている。
初めから武器らしき武器を持っていないことや、あれほどの効果の高い魔力回復ポーションを飲み干せるのだから、マリーや弟のランディ同様、魔術師である可能性が高い。
そうだとすれば、あれほど至近距離に向かった理由がマリーには不思議だった。
魔術師は一般的に、中距離から遠距離の攻撃を好む。
技量によるが、魔術を放つためには一定の溜めが必要なことが多く、効果が高い魔術ほどその溜めは長くなる傾向にある。
バンプのように近接戦闘するメリットが魔術師にはないのだ。
「おい……あいつ、さっきから小刻みに震えてないか?」
「え……?」
バンプに言われて、マリーはアークの様子を再度注視した。
確かに、アークの身体全体が、震えるように動いている。
「まさか……本当に何の手段もなく、言葉通り囮を買って出たってわけじゃないだろうな?」
「冗談でしょ……? 仮にも領主よ? 臣下が盾になることがあったとしても、領主が臣下のために命を投げ出すわけが……」
そんなわけがあるはずもない。
二人はそう思いながらも、アークに向かって走り出していた。
自分の勘違いのせいで主君たるアークを死なせるわけにはいかない。
マリーとバンプが動き出すのと、シルバーウルフたちが跳躍したのはほぼ同じタイミングだった。
二人はその次の瞬間、目の前の光景に思わず叫んだ。
「なんだそりゃあああああ!?」
「どうしてこっちに向かってくるのよぉおおお!?」
何故かシルバーウルフたちは、目の前のアークには目もくれず、横を通り過ぎた。
目指すのは明らかにマリーとバンプだ。
☆☆☆
「あ……あれ?」
僕は間抜けな声を上げた。
変わらず目の前にいるミスリルウルフと目が合う。
後ろを振り向けば、後ろ姿のシルバーウルフたち。
マリーとバンプは絶叫しながら逃げていく。
なんでまだあんなところにいるんだろう。
どうしてか知らないけど、全然襲われないから、それなりの時間を稼げていたはずなのに。
これじゃあ、せっかく囮になった意味がないじゃないか。
結局囮にすらなれてないけれど。
それにしてもなんで襲われなかったんだろう。
そういえば……と過去のことを思い起こす。
エリザやランディたちと魔物に遭遇しても、よく考えれば僕が襲われることは滅多になかった。
まぁほとんどは襲われる前にエリザかランディが瞬殺してしまうのだけれどね。
「なんだろうなぁ。日頃の行いかな?」
自分で言ってはみるものの、魔物に襲われにくくなる日頃の行いってのがあれば、教えて欲しいくらいだ。
それにしても、二人ともまだまだあんなに動けたんだね。
僕は死ぬ覚悟が出来ずに震えていただけでヘトヘトなのに。
「あ……まずい……」
マリーを庇いながら逃げていたバンプが押し倒された。
二匹も近くで様子を伺っている。
あのまま噛み付かれたら終わり。
仮に跳ね除けたとしても、残りの二匹が襲いかかるんだろうな。
残酷な結末を予測して、僕は思わず目を強くつぶった。
『アォオオオオオン!!』
突然後ろから大きな鳴き声が聞こえて、思わず目を開け振り向いた。
どうやらミスリルウルフの声のようだ。
その声に呼ばれたのか、バンプを襲うのを止め、シルバーウルフたちがミスリルウルフの下へと駆け戻ってきた。
ミスリルウルフたちは、僕やマリーとバンプのいる方角とは違う向きを向いて唸り始めた。
まるで何かを警戒するかのように。
釣られて同じ方向を向く。
そこにはニッコニコの笑顔で近付いてくる、一人の女性の姿が。
赤髪で甲冑を着込み、腰には長めの剣を差してる。
エリザじゃん。
「いた、いた。お兄ちゃん! 探したんだよぉ? 一人で散歩行くなんて! なんで私を誘ってくれなかったの?」
「うんうん。エリザは用事があるって言って、屋敷にいなかったからだね。いつ戻ってきたの?」
「ついさっき。真っ先にお兄ちゃんに会いに行ったのに、いないんだから! で? 今日はこんなところで何してるの?」
「散歩だよ、散歩。そうだ、エリザ。あのミスリルウルフとかいう魔物、どうにかしてくれない? マリーとバンプには荷が重いみたいなんだ」
「マリー? バンプ? 誰? それ?」
エリザは相変わらずニッコニコの顔のままだ。
ミスリルウルフたちは視界に入っているはずなのに、一向に気にする様子もない。
我が妹ながら、頼もしいことこの上ない。
「えーと。マリーは書記官だったかな? バンプはエリザのところの騎士だね」
「は? 騎士の子と私に内緒で? もしかして、訓練!? ずるい!!」
「いや……訓練じゃないよ。訓練で死なれたらまずいだろ? ほら、あそこで倒れてる……あ」
凄い速さでバンプの所へ駆けていっちゃった。
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