凡人領主は優秀な弟妹に爵位を譲りたい〜勘違いと深読みで、何故か崇拝されるんですが、胃が痛いので勘弁してください

黄舞

文字の大きさ
上 下
11 / 24

第十一話 おかわり

しおりを挟む
 シルバーウルフとかいう魔物も無事に倒したし、魔鉱石とかいうのは、明日以降に改めて調べてもらったらいいよね。
 採掘するにしたって道具や人の準備もかかるだろうし。
 きっとパメラに頼めばいい具合に進めてくれるに違いない。

「大丈夫? 歩ける?」

 二人を見たら随分とヘトヘトみたいだ。
 出口に向かってゆっくりとみんなで歩いていく。
 そういえば二人に廃坑の調査を依頼したのは昨日だったね。
 まさか徹夜で廃坑の中を歩いていたりしてたのかな。
 飲み水の準備もしていなかったみたいだし、意外とあわてんぼうみたいだ。

「あ……アーク様。先ほどバンプとの会話で、シルバーウルフは別だと仰っていましたが……もしかして今回の調査対象は魔物ではなく、魔鉱石の鉱床を初めから……?」
「ん? あ、ああ……そうだね。そうだったかもしれないね」

 結局調査対象なんて分かってないけど、書いた本人であるマリーがいうなら間違いないんだろうな。
 ここに辿り着いたのは、正直偶然というか、いつも通り適当に歩いてきただけだけど、目的がちゃんと見つかったんなら良かったよね。

「ひとまず! 帰るのは賛成だが……魔鉱石ってのはなんなんだ? 綺麗っちゃ綺麗だが、そんなに価値があるものなのか?」
「魔鉱石は魔素を含む珍しい鉱石なのよ。様々な素材になるわ。具体的にいえば……強力な武具が作れるわ」
「本当か!? そいつは願ってもないことじゃないかっ!」

 突然元気になり出したバンプ。
 君、左腕からずっと血を滴らせているのに凄いね。
 まぁ、エリザなんか全身血だけになっても笑いながら剣を振るってた時があったから、左腕の怪我くらいじゃ驚かないけど。

「可能だとは……思うわ。鉱床ってのは見つけた者にもなんらかの権利が与えられるのが基本ですもの。領主立会の元なんだから、不平を言う者もいないでしょう。ただ、そんなことより大きな問題が……」
「問題が……? おい! 嘘だろ……ここでおかわりはねぇよ……」

 二人が見つめる方に目を向ける。
 なんと、さっきのシルバーウルフと同じような見た目の魔物が、出口の外にいち……に……さん。
 三匹並んで立っている。
 しかも、その後ろにより立派な体格をした毛並みの色も少し違うのもいる。
 シルバーウルフの毛並みは文字通り銀色なんだけど、残りの一匹の色は、銀色なんだけど表面に妙な艶があって、角度によって七色に輝いて見えた。
 なんだっけなぁ……銀に似た金属で同じ見た目の金属があった気がするんだけど……。

「ま、さか……ミスリルウルフ……? ありえないわ! どうやったって勝てないわ! 無理よ! 無理、無理!!」
「おい、落ち着け! 逃げるぞ!! ミスリルウルフがいなくたって、群れたシルバーウルフに勝ち目なんて元々ない!」

 マリーとバンプは半狂乱だ。
 どうやらかなりやばいやつが現れたみたいだ。
 これはもうマリーが言うように無理なのかな。
 食べられて死ぬのかなぁ。
 どうせ死ぬなら痛くないようにしてほしいなぁ。
 潔く諦めよう。
 まぁ、僕が死んだとしても、領主は改めてエリザかランディもどちらかが就けばなんの問題もないしね。
 あれ? そういえばエリザといえば、何か重大な約束を忘れている気がするな。
 なんだったけなぁ。
 あぁ、そうだ。
 領主になったお祝いを用意するから、必ず屋敷で待ってろって言ってたんだ。
 まずいなぁ。
 すっかり忘れて散歩に出掛けてしまったよ。

「おい! お前は逃げねぇのか! 奴らが入ってきたらお終いだぞ! 出口なんてまた見つければいい!!」
「もう無理なのよぉ……魔鉱石には魔物を引き寄せる効果があるんだから……逃げたって別の道から魔物がここ目指してやってくるわ。どうやったって魔物と遭遇するわ。私もあなたももう戦う気力も体力もほとんど残ってないでしょう?」
「そう言ったってマリー! だったら何もせずにこのままやられるのをただ待つっていうのかよ! 俺は認めないぞ! 何もしないで死ぬくらいなら、戦って死ぬ!」
「まぁ、待ってよ」

 思わず口から言葉が出ていた。
 出した自分もびっくりしているくらいだ。
 でも……うん。
 ここはきちんとケジメをつけないとね。
 たった二日だったとしても自分が今領主であることは変わりないんだから。
 あぁ……胃が痛い。

「僕が……僕が囮になるよ。向こうはまだ気付いてなさそうだし。幸い出口の外にいる。僕が襲われている間に二人は、逃げたらいい」
「はぁ!? お前っ! 何を言ってるのか分かってるのか!? 食い殺されるってことだぞ!?」
「まぁ、元はといえば僕が二人をこの廃坑の調査に任命したわけだし。それに、僕は一応領主だからね。領民や臣下を守るのが領主の仕事だ」

 だから領主になんかなりたくなかったんだ。
 
 ☆☆☆

 マリーとバンプは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、すぐに顔を真っ赤にした。
 自分のこれまでの考えと言動を恥じたのだ。
 しかし動けなかった。
 バンプは傷を負いながらもシルバーウルフとの立ち回りを続けたせいで、体力の限界だった。
 マリーは魔力回復ポーションの数度の服用で気力が尽き果てていた。
 そして何より、アークが本気でただ食い殺されるとは思えなかった。
 今まで隠していただけで、アークもまたエリザやランディと同じように、この場を打開できるだけの能力を持っているに違いない。
 そう信じずにはいられなかった。
 しかし、現実は残酷で、アークには一切そのような力がないことは、揺るぎない事実だった。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

病弱な愛人の世話をしろと夫が言ってきたので逃げます

音爽(ネソウ)
恋愛
子が成せないまま結婚して5年後が過ぎた。 二人だけの人生でも良いと思い始めていた頃、夫が愛人を連れて帰ってきた……

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

過程をすっ飛ばすことにしました

こうやさい
ファンタジー
 ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。  どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?  そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。  深く考えないでください。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

処理中です...