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第1話
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「そこの美しいお嬢さん。そう、そこのあなただよ。いいものがあるんだ。見ていってよ」
街の通りを一人とぼとぼと歩く私――アリシアの耳に呼び掛けが聞こえたのは、日も落ち始めた夕暮れ時だった。
声のした方を振り向けば、酒場の入り口の魔力灯に照らされた軒先に、路上に広げた敷物の上に座った男が一人。
「そうそう。あなただよ。綺麗なお嬢さん。ぜひ見ていって欲しいものがあるんだ。そんなに遠くちゃ見えないだろう。もっとこっちへおいでよ」
男の目の前には古い羊皮紙か何かの巻物が一つ。
私は何故か巻物が気になってついつい男の前に足を運んでしまった。
「さぁさぁ。これは麗しいお嬢さんにだけ売るとっておきだよ。絶対に損はさせない。なんと、自分の能力を超々強化させる秘法だよ! さぁ、買っておくれ」
☆
「というわけで買って、早速さっき起き抜けに使ってみたわ‼︎」
昨日の夕方の出来事を嬉々として話す私。
何故か私に向けられる同じパーティのメンバーたちの目線は、奇妙なものだった。
それにしても何故かみんないつもより背が妙に高く感じる。
もともと私は背の小さい方だが、こんなに差があっただろうか。
「というわけではないよ。アリシアちゃん。そんな男、めちゃくちゃ怪しいじゃないか」
魔王討伐を志すパーティのリーダー、ブレイブが困ったような顔をしながら言う。
金髪碧眼の美男子。街を歩けば、若い女性なら十人中十人が振り返るだろう。
さらにブレイブは国王から勇者の称号を賜るほどの実力者だ。
身につけた白銀に輝く長剣と鎧は、ブレイブの魅力をさらに増す。
ブレイブに続くように、同じくパーティメンバーの一人で、魔導士のザードが口を開く。
こちらは黒目黒髪の優男だが、ブレイブとは違った魅力がある。
「だから僕はいっつも口を酸っぱくしていっているじゃないですか。アリシアちゃんは迂闊すぎますよ。いくら街の通りとは言え、夕方以降の裏通りは女の子が一人で歩くには危険すぎます。それに――あ、そんな顔しないでください。カンロの実をあげますから」
カンロの実というのは、指先くらいの大きさの黄色い木の実で、舐めるととても甘く、この国の子供たちの典型的なおやつの一つだ。
なんでそんなものをザードが持っているのか知らないけれど、くれるというのならもらっておこう。
うん。甘い。
すっきりした甘さに、思わず笑顔になる。
あれ?
なんかザードもほっこりした顔をしているように見えるけど……
「まぁまぁ。ザード。お小言はそれにくらいにしろよ。それよりもブレイブ。これ……どうすんだ?」
ザードの次に口を開いたのはファイ。
攻守ともに最前衛を安心して任せられる偉丈夫で、短く刈りそろえた焦茶色の髪と、鋭い灰色の目つきが特徴的だ。
並み居る王国の騎士たちを押しのけて、見事ブレイブと一緒に魔王討伐の旅を共にすることを許されたブレイブの幼馴染でもある。
その鍛え抜かれた筋肉を自慢してくる様は、正直言って少しうざい。
しかし子供たちにはめっぽう人気で、訪れた街や村の子供たちに一番最初に懐かれるのはいつもファイだ。
何故だか知らないけれど、今日は妙にファイのことがかっこよく見えるから不思議だ。
「どうするって言っても……このまま連れていったら、流石にまずいだろ?」
「だよな……最悪、虐待だって石投げられるぜ」
「僕もそう思います。アリシアちゃんには悪いですが、これ以上は無理かと」
「それより、もう戻れないのか? 戻れるなら、多少遠回りでもその方法を探した方が……」
「難しいでしょうね。肉体に変化を及ぼす魔法は私の知る限りでもひと握りです。ましてあんな魔法となると……」
「だからよぉ。俺はいつも言ってたんだぜ。アリシア一人っきりにしたらダメだってよぉ」
なんだか三人でゴニョゴニョ話しているみたいだけれど、こちらにははっきり聞こえない。
全く、大の男三人で隠し事だなんて。
それにしても、今日はなんだか三人の声まで少し遠く、いや、頭の上の方から聞こえてくる気がする。
あれ? そういえば、私のことちゃん付けで普段から呼んでたっけ?
いまだに密談を続ける三人に痺れを切らし、私は声をかけた。
「ちょっと、みんな! さっきからなにこそこそ話してるのよ? 今日から西にある洞窟を根城にする魔物たちの討伐に向かうんでしょ? そろそろ支度しないと」
「いや。アリシアちゃんは無理だろ? もう一緒に行けないだろ? なぁ?」
そう言って、ファイは隣にいるブレイブとザードに同意を求めた。
あろうことか、ブレイブもザードもファイの言葉に同意の態度を示す。
「ちょっと、ちょっと! 待ってよ。もう一緒に行けないだなんて。嘘でしょ?」
慌てる私をなだめるように、ブレイブが優しい声色で諭してきた。
「嘘じゃない。申し訳ないけど、アリシア。その姿の君をこのまま魔王討伐の旅に連れては行けない。あーそれでなんだけど……教会につれて行くことにしたから」
「どういうこと?」
「だってほら……一人じゃ危ないし。教会なら、アリシアちゃん聖女だから大丈夫でしょ? まぁ、お留守番?」
「えぇぇぇ⁉︎ 嘘でしょー⁉︎ それってつまり、私は追放されるってこと!? そんなの嫌よー!!」
私の必死の抵抗も虚しく、私は勇者パーティから追放され、引きづられるように教会に連れていかれた。
最終的にはファイにお姫様抱っこで運ばれた。
教会にたどり着き、ブレイブたちがシスターと今後のことについて何やら話をしている間、私は何気なく、協会に設置されている姿見を覗いていた。
そこに映る姿で私はとんでもないことに気がつく。
「え? ちょっ! なによこれぇぇ⁉︎」
鏡には――幼女になった私の姿が映し出されていた
街の通りを一人とぼとぼと歩く私――アリシアの耳に呼び掛けが聞こえたのは、日も落ち始めた夕暮れ時だった。
声のした方を振り向けば、酒場の入り口の魔力灯に照らされた軒先に、路上に広げた敷物の上に座った男が一人。
「そうそう。あなただよ。綺麗なお嬢さん。ぜひ見ていって欲しいものがあるんだ。そんなに遠くちゃ見えないだろう。もっとこっちへおいでよ」
男の目の前には古い羊皮紙か何かの巻物が一つ。
私は何故か巻物が気になってついつい男の前に足を運んでしまった。
「さぁさぁ。これは麗しいお嬢さんにだけ売るとっておきだよ。絶対に損はさせない。なんと、自分の能力を超々強化させる秘法だよ! さぁ、買っておくれ」
☆
「というわけで買って、早速さっき起き抜けに使ってみたわ‼︎」
昨日の夕方の出来事を嬉々として話す私。
何故か私に向けられる同じパーティのメンバーたちの目線は、奇妙なものだった。
それにしても何故かみんないつもより背が妙に高く感じる。
もともと私は背の小さい方だが、こんなに差があっただろうか。
「というわけではないよ。アリシアちゃん。そんな男、めちゃくちゃ怪しいじゃないか」
魔王討伐を志すパーティのリーダー、ブレイブが困ったような顔をしながら言う。
金髪碧眼の美男子。街を歩けば、若い女性なら十人中十人が振り返るだろう。
さらにブレイブは国王から勇者の称号を賜るほどの実力者だ。
身につけた白銀に輝く長剣と鎧は、ブレイブの魅力をさらに増す。
ブレイブに続くように、同じくパーティメンバーの一人で、魔導士のザードが口を開く。
こちらは黒目黒髪の優男だが、ブレイブとは違った魅力がある。
「だから僕はいっつも口を酸っぱくしていっているじゃないですか。アリシアちゃんは迂闊すぎますよ。いくら街の通りとは言え、夕方以降の裏通りは女の子が一人で歩くには危険すぎます。それに――あ、そんな顔しないでください。カンロの実をあげますから」
カンロの実というのは、指先くらいの大きさの黄色い木の実で、舐めるととても甘く、この国の子供たちの典型的なおやつの一つだ。
なんでそんなものをザードが持っているのか知らないけれど、くれるというのならもらっておこう。
うん。甘い。
すっきりした甘さに、思わず笑顔になる。
あれ?
なんかザードもほっこりした顔をしているように見えるけど……
「まぁまぁ。ザード。お小言はそれにくらいにしろよ。それよりもブレイブ。これ……どうすんだ?」
ザードの次に口を開いたのはファイ。
攻守ともに最前衛を安心して任せられる偉丈夫で、短く刈りそろえた焦茶色の髪と、鋭い灰色の目つきが特徴的だ。
並み居る王国の騎士たちを押しのけて、見事ブレイブと一緒に魔王討伐の旅を共にすることを許されたブレイブの幼馴染でもある。
その鍛え抜かれた筋肉を自慢してくる様は、正直言って少しうざい。
しかし子供たちにはめっぽう人気で、訪れた街や村の子供たちに一番最初に懐かれるのはいつもファイだ。
何故だか知らないけれど、今日は妙にファイのことがかっこよく見えるから不思議だ。
「どうするって言っても……このまま連れていったら、流石にまずいだろ?」
「だよな……最悪、虐待だって石投げられるぜ」
「僕もそう思います。アリシアちゃんには悪いですが、これ以上は無理かと」
「それより、もう戻れないのか? 戻れるなら、多少遠回りでもその方法を探した方が……」
「難しいでしょうね。肉体に変化を及ぼす魔法は私の知る限りでもひと握りです。ましてあんな魔法となると……」
「だからよぉ。俺はいつも言ってたんだぜ。アリシア一人っきりにしたらダメだってよぉ」
なんだか三人でゴニョゴニョ話しているみたいだけれど、こちらにははっきり聞こえない。
全く、大の男三人で隠し事だなんて。
それにしても、今日はなんだか三人の声まで少し遠く、いや、頭の上の方から聞こえてくる気がする。
あれ? そういえば、私のことちゃん付けで普段から呼んでたっけ?
いまだに密談を続ける三人に痺れを切らし、私は声をかけた。
「ちょっと、みんな! さっきからなにこそこそ話してるのよ? 今日から西にある洞窟を根城にする魔物たちの討伐に向かうんでしょ? そろそろ支度しないと」
「いや。アリシアちゃんは無理だろ? もう一緒に行けないだろ? なぁ?」
そう言って、ファイは隣にいるブレイブとザードに同意を求めた。
あろうことか、ブレイブもザードもファイの言葉に同意の態度を示す。
「ちょっと、ちょっと! 待ってよ。もう一緒に行けないだなんて。嘘でしょ?」
慌てる私をなだめるように、ブレイブが優しい声色で諭してきた。
「嘘じゃない。申し訳ないけど、アリシア。その姿の君をこのまま魔王討伐の旅に連れては行けない。あーそれでなんだけど……教会につれて行くことにしたから」
「どういうこと?」
「だってほら……一人じゃ危ないし。教会なら、アリシアちゃん聖女だから大丈夫でしょ? まぁ、お留守番?」
「えぇぇぇ⁉︎ 嘘でしょー⁉︎ それってつまり、私は追放されるってこと!? そんなの嫌よー!!」
私の必死の抵抗も虚しく、私は勇者パーティから追放され、引きづられるように教会に連れていかれた。
最終的にはファイにお姫様抱っこで運ばれた。
教会にたどり着き、ブレイブたちがシスターと今後のことについて何やら話をしている間、私は何気なく、協会に設置されている姿見を覗いていた。
そこに映る姿で私はとんでもないことに気がつく。
「え? ちょっ! なによこれぇぇ⁉︎」
鏡には――幼女になった私の姿が映し出されていた
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