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第二章【天才、魔法の杖を作る】
第二十七話【シャーレオの妹】
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アムレットの杖の素材のゲイザーの眼球、ユニコーンの角それぞれを予定通り手に入れた俺たちは、学園に戻る……のではなく、シャーレオの暮らす集落へと向かっていた。
「なぁ、ほんとにいいのか? 自分から頼んでおいてなんだけど、見ず知らずのフィリオたちにそこまでしてもらうのは、さすがに……」
竜馬に並行して走っているシャーレオが、走りながら話しかけてきた。
アムレットに強化魔法をかけられた竜馬に並走して、息も切らさず走れるとは、やはりシャーレオの健脚は並外れているようだ。
「ユニコーンの角が欲しかったのは、シャーレオの妹が毒に侵されてからなんだろ? 聞いた限りではおそらく今からユニコーンの角から解毒剤を作っても間に合わないかもしれない。それなら俺たちが行って解毒魔法をかけた方が確実だし速い」
「だが、さっきも言ったけど、金はすぐには払えないぞ?」
「ああ。別に金に困っているわけじゃないしね。それよりも、アムレットの魔法の練習になるし、こっちもメリットはある」
「フィリオ君……私の魔法で大丈夫かな?」
俺の横に座っているアムレットが自信なさげにそんなことを聞いてきた。
シャーレオの話では、妹のシャトゥが得体の知れない毒に侵されてしまったらしい。
いつも通りに集落の近くに広がる森へ、食材を採りに向かった妹が遅くなっても帰ってこない。
不思議に思ったシャーレオが探しに行ったところ、毒に侵され倒れていた妹を見つけたのだとか。
集落はもちろん、もっと大きな街に助けを求めたが、どれも効果は見られず、最後に縋ったのがユニコーンの角の解毒剤だというわけだ。
様々な解毒剤や治療士への代金を支払って貯えをほぼ使い果たしてしまっていたシャーレオは、しかたがなく自分で採集をすることを決めた。
しかし、間違った知識のせいで、激高したユニコーンに追われた結果が俺との遭遇に繋がった。
「そうだなぁ。まぁ、行ってみないと分からないな」
「やっぱり……」
「な、なんだって⁉ おい! どういうことだ⁉ 俺の妹を魔法で治してくれるんじゃなかったのか? それが分からないだなんて!」
俺とアムレットの会話を聞いて、シャーレオが抗議の声を上げた。
それなりの大きな街で手に入れることのできる解毒剤の効能や、そこで開業している治療士の実力がどれほどか知らないが、アムレットがそれよりも優れているかどうかは、正直未知数だ。
もう少し時間があれば間違いなく大丈夫だと言い切れる自信があるが、アムレットは今まで正式に魔法を学んだこともなく、俺が教え始めてからの回数はそこまで多くない。
「安心しろ。誰もアムレットだけが回復魔法の使い手だなんて言ってないだろ?」
「だが……そうか。そっちの美人な女性は魔法学園の先生だって言っていたな。彼女が」
「あら。美人なのは本当だけれど、私は回復魔法は使えないわよ。魔法というのは得意な分野が人によって決まっているの。私の得意な分野は別よ」
「なっ! それじゃあ……?」
「ああ。アムレットに難しかったら俺が回復魔法を使う。例え腐獣の毒だとしてもきれいさっぱり治してやるから」
腐獣というのは俺が魂で世界中を見て回っていた時期に、この国とは別の場所で発生したモンスターだ。
文字通り全てを腐らせる毒を持つそのモンスターの毒は強力で、大国と呼ばれた国が一つ、滅亡寸前まで追いやられた。
だが、その後聖女と呼ばれる若い女性が全ての毒を解毒し、最終的に腐獣も討伐された。
その場で聖女が使った魔法を解析していた俺は、彼女が使う特有の計算原理を解き明かし、すでに俺の理論に組み込んでいる。
国全体の毒を解けたのは、彼女の並外れた魔力量も関係していただろうが、それについても効率化も済んでいる。
たった一人解毒するくらいなら、他の魔法で減っている俺の魔力の残存量でも問題にならないだろう。
まぁ、腐獣などが再び発生したら、この国もただでは済まないと思うが。
「そうか……分かった。いずれにしろ、もう俺にはフィリオたちを頼るしか道がないんだ……着いたぞ。あそこが俺の集落だ」
シャーレオが指さす先には確かに小さな集落が一つ、平原の中にポツンと佇んでいた。
集落の中へ入ると、シャーレオに駆け寄ってくる一人の獣人の姿があった。
「シャーレオ! やっと戻ってきたか! 大変だ! シャトゥの容態が!」
「シュバル! 話は後だ! この人たちが妹の毒を解毒してくれるんだ! すぐに妹の元へ向かう! フィリオ‼ すまないが急いでくれ! こっちだ‼」
俺の返事を待たずに走り出したシャーレオを追うため、俺はアムレットとサーミリアに目配せを送ってから、自分一人に浮遊の魔法をかける。
できるだけ速く飛ぶため、高度は地面ギリギリだ。
「シャトゥ‼」
小さな家に入ったシャーレオは妹の名を叫ぶ。
しかし返事は返ってこない。
「フィリオ‼ 妹の部屋はこっちだ!」
シャーレオが入っていった入口をくぐると、部屋の中にはシャーレオと同じ純白の耳を頭に生やした女の獣人が、苦悶の表情で横たわっていた。
「おい……シャーレオ。妹は近くの森でこの毒に侵されたと言ったな?」
「ああ! どうだ⁉ 治せそうか⁉ もし無理だったら……ああ! シャトゥ! しっかりしろ‼」
「いや。解毒は可能だ。アムレットには無理だが、俺なら。今すぐ唱えよう」
俺は頭の中で魔法を構築してから解毒の魔法を唱え始めた。
聖女の魔法から学んだ、腐獣の毒を解毒する魔法を。
☆☆☆
お読みいただきありがとうございます。
今後もよろしくお願いします。
ところで思いついたネタを勢いで書いてしまったので、これまた勢いで本日投稿した作品があります。
「双子の侯爵令嬢の見習い執事は王太子」
という、評判が真逆な双子の姉妹のどちらかを婚約者に選ばなければいけなくなった王太子が侯爵家に身分を隠して執事として潜入するという異世界恋愛です。
よろしければこちらも読んでもらえると嬉しいです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/165401204/195576691
なお、今作も今まで通りできるだけ毎日投稿していきますので、よろしくお願いします。
「なぁ、ほんとにいいのか? 自分から頼んでおいてなんだけど、見ず知らずのフィリオたちにそこまでしてもらうのは、さすがに……」
竜馬に並行して走っているシャーレオが、走りながら話しかけてきた。
アムレットに強化魔法をかけられた竜馬に並走して、息も切らさず走れるとは、やはりシャーレオの健脚は並外れているようだ。
「ユニコーンの角が欲しかったのは、シャーレオの妹が毒に侵されてからなんだろ? 聞いた限りではおそらく今からユニコーンの角から解毒剤を作っても間に合わないかもしれない。それなら俺たちが行って解毒魔法をかけた方が確実だし速い」
「だが、さっきも言ったけど、金はすぐには払えないぞ?」
「ああ。別に金に困っているわけじゃないしね。それよりも、アムレットの魔法の練習になるし、こっちもメリットはある」
「フィリオ君……私の魔法で大丈夫かな?」
俺の横に座っているアムレットが自信なさげにそんなことを聞いてきた。
シャーレオの話では、妹のシャトゥが得体の知れない毒に侵されてしまったらしい。
いつも通りに集落の近くに広がる森へ、食材を採りに向かった妹が遅くなっても帰ってこない。
不思議に思ったシャーレオが探しに行ったところ、毒に侵され倒れていた妹を見つけたのだとか。
集落はもちろん、もっと大きな街に助けを求めたが、どれも効果は見られず、最後に縋ったのがユニコーンの角の解毒剤だというわけだ。
様々な解毒剤や治療士への代金を支払って貯えをほぼ使い果たしてしまっていたシャーレオは、しかたがなく自分で採集をすることを決めた。
しかし、間違った知識のせいで、激高したユニコーンに追われた結果が俺との遭遇に繋がった。
「そうだなぁ。まぁ、行ってみないと分からないな」
「やっぱり……」
「な、なんだって⁉ おい! どういうことだ⁉ 俺の妹を魔法で治してくれるんじゃなかったのか? それが分からないだなんて!」
俺とアムレットの会話を聞いて、シャーレオが抗議の声を上げた。
それなりの大きな街で手に入れることのできる解毒剤の効能や、そこで開業している治療士の実力がどれほどか知らないが、アムレットがそれよりも優れているかどうかは、正直未知数だ。
もう少し時間があれば間違いなく大丈夫だと言い切れる自信があるが、アムレットは今まで正式に魔法を学んだこともなく、俺が教え始めてからの回数はそこまで多くない。
「安心しろ。誰もアムレットだけが回復魔法の使い手だなんて言ってないだろ?」
「だが……そうか。そっちの美人な女性は魔法学園の先生だって言っていたな。彼女が」
「あら。美人なのは本当だけれど、私は回復魔法は使えないわよ。魔法というのは得意な分野が人によって決まっているの。私の得意な分野は別よ」
「なっ! それじゃあ……?」
「ああ。アムレットに難しかったら俺が回復魔法を使う。例え腐獣の毒だとしてもきれいさっぱり治してやるから」
腐獣というのは俺が魂で世界中を見て回っていた時期に、この国とは別の場所で発生したモンスターだ。
文字通り全てを腐らせる毒を持つそのモンスターの毒は強力で、大国と呼ばれた国が一つ、滅亡寸前まで追いやられた。
だが、その後聖女と呼ばれる若い女性が全ての毒を解毒し、最終的に腐獣も討伐された。
その場で聖女が使った魔法を解析していた俺は、彼女が使う特有の計算原理を解き明かし、すでに俺の理論に組み込んでいる。
国全体の毒を解けたのは、彼女の並外れた魔力量も関係していただろうが、それについても効率化も済んでいる。
たった一人解毒するくらいなら、他の魔法で減っている俺の魔力の残存量でも問題にならないだろう。
まぁ、腐獣などが再び発生したら、この国もただでは済まないと思うが。
「そうか……分かった。いずれにしろ、もう俺にはフィリオたちを頼るしか道がないんだ……着いたぞ。あそこが俺の集落だ」
シャーレオが指さす先には確かに小さな集落が一つ、平原の中にポツンと佇んでいた。
集落の中へ入ると、シャーレオに駆け寄ってくる一人の獣人の姿があった。
「シャーレオ! やっと戻ってきたか! 大変だ! シャトゥの容態が!」
「シュバル! 話は後だ! この人たちが妹の毒を解毒してくれるんだ! すぐに妹の元へ向かう! フィリオ‼ すまないが急いでくれ! こっちだ‼」
俺の返事を待たずに走り出したシャーレオを追うため、俺はアムレットとサーミリアに目配せを送ってから、自分一人に浮遊の魔法をかける。
できるだけ速く飛ぶため、高度は地面ギリギリだ。
「シャトゥ‼」
小さな家に入ったシャーレオは妹の名を叫ぶ。
しかし返事は返ってこない。
「フィリオ‼ 妹の部屋はこっちだ!」
シャーレオが入っていった入口をくぐると、部屋の中にはシャーレオと同じ純白の耳を頭に生やした女の獣人が、苦悶の表情で横たわっていた。
「おい……シャーレオ。妹は近くの森でこの毒に侵されたと言ったな?」
「ああ! どうだ⁉ 治せそうか⁉ もし無理だったら……ああ! シャトゥ! しっかりしろ‼」
「いや。解毒は可能だ。アムレットには無理だが、俺なら。今すぐ唱えよう」
俺は頭の中で魔法を構築してから解毒の魔法を唱え始めた。
聖女の魔法から学んだ、腐獣の毒を解毒する魔法を。
☆☆☆
お読みいただきありがとうございます。
今後もよろしくお願いします。
ところで思いついたネタを勢いで書いてしまったので、これまた勢いで本日投稿した作品があります。
「双子の侯爵令嬢の見習い執事は王太子」
という、評判が真逆な双子の姉妹のどちらかを婚約者に選ばなければいけなくなった王太子が侯爵家に身分を隠して執事として潜入するという異世界恋愛です。
よろしければこちらも読んでもらえると嬉しいです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/165401204/195576691
なお、今作も今まで通りできるだけ毎日投稿していきますので、よろしくお願いします。
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