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第二章【天才、魔法の杖を作る】

第二十一話【道中】

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「ねぇ。ペイル君? アムレットちゃんの話では、目的地まで空を飛んで行くって聞いていたけど?」
「どっかの出しゃばりな教師のおかげで重量オーバーなんだよ」

 不満げに言うサーミリアに、俺はより不満な声で返事を返す。

「まぁ! これでも見た目にはかなり労力をさいてるのよ? もちろん減っちゃダメなところは残るように」
「誰も見た目の話なんてしてないだろ。重さだ。質量だ」
「うーん。ペイル君。女性に対してのマナーがてんでなってないわね。そんなんじゃ嫌われちゃうわよ? もちろん私はペイル君ならどんな言葉でも許しちゃうけど」
「アムレット……この不毛な会話の相手を変わってくれ……」

 俺は深くため息を吐いて、意識を目的地へと向ける。
 予定外の同行者サーミリアのせいで、今日中に素材を集めきれるか心配だ。
 今俺たちが乗っているのは、竜馬と呼ばれる調教されたモンスターの背の上だ。
 このモンスターの特徴はその速度と、悪路に強いこと。
 俺の飛行魔法の速度には劣るが、それでも歩きよりも格段に速い。
 さらに今はアムレットに身体強化の魔法をかけてもらっている。

「サーミリア。さっきも言ったように、同行は許可するが、邪魔はするなよ?」

 昨日の夜、寮に戻った俺とアムレットに気付いたサーミリアは、アムレットを尋問し今日のことを聞き出した。
 そして、俺たちに同行、もしくは学園への報告の二択を迫ってきたのだ。
 口ではそう言ったものの、サーミリアの性格からして、興味の対象である俺が学園を去るような羽目にするとは思えなかった。
 しかし、アムレットのことも考えると、どんな無茶をされるか分かったもんじゃないため、俺は渋々サーミリアの同行を受け入れた。
 邪魔はするなと何度も念を押して。

「分かってるわよー。私はペイル君の魔法を実際この目で見られたらそれで満足なんだから。邪魔なんてそんなもったいないことするわけないじゃない」

 わざとらしくサーミリアが俺の方へ身体を寄せようとする。
 俺は明確な態度で拒絶した。

「俺はあんたの持つ知識には興味があるが、あんたには全く興味がない。そこのところは分かってるんだろ?」
「もぅ。ペイル君ったら冷たい! でも、私は一向に気にしないわ!」
「俺が気にするんだ。分かったら離れろ」

 竜馬はかなりの速度で走っているため、普通ならば振動や風圧を強く感じるところだが、それらはサーミリアの魔法の効果でまったく感じない。
 そんな中でサーミリアは不必要に身体を密着させてくる。
 同行させてくれるサービスだなどと言っていたが、自由に動ける分タチが悪い。
 俺の言葉にも一向に離れようとしないサーミリアを離れさせたのは、意外にもアムレットだった。

「さ、サーミリア先生!! フィリオ君にくっつき過ぎですよ! 離れてください!! そういうの、良くないと思います!!」

 俺を挟んでサーミリアとは反対、つまり俺の右隣に座っているアムレットが、叫びながら俺を自分の方に引き寄せた。
 不意打ちだったこともあり、俺の身体はサーミリアから離れ、アムレットの方へと傾く。

「あら? いいじゃない。別に」

 サーミリアは面白そうにアムレットを見る。
 未だに俺を引っ張る力を緩めないまま、アムレットはサーミリアにさらに言い返した。

「よくありません! それに先生は大人じゃないじゃないですか! 未成年のフィリオ君をたぶらかさないでください!!」
「大人も子供も男女の仲には関係ないものよ? そんなこと言いながら、あなただって……うふふ。これ以上私の口から言うのは野暮ってものかしら?」
「か、からかわないでください!」
「分かったわよ。さぁ。離れたわ。これでいいでしょ? あなたこそペイル君に今ベッタリよ?」

 なんだかよく分からないが、アムレットのおかげでサーミリアは退いてくれたようだ。
 さらにアムレットの俺を引き寄せている力も消えた。
 俺はアムレットの方に顔を向け、礼を言う。

「ありがとう。アムレット。なんだかよく分からないが、とにかく助かったよ」
「え!? あ! あはははは!」

 何故かアムレットは顔を真っ赤にして乾いた笑いを吐いた。
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