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第一章【魔力ゼロの天才、転生する】

第九話【実技の授業】

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「あれれ? ねぇ、フィリオ君。昼休みはもう終わりなはずだよね? 教室に誰も来ないけど……」

 昼食を終え、教室に戻りアムレットが魔法の基礎をどこまで理解しているか確認していた時。
 アムレットが発した言葉に俺も周りと時間を確認する。

「そうだな……そういえば次の授業はなんだ? 確認してなかったな」
「あ! 大変だよ、フィリオ君!!」

 俺の言葉に答えるように、冊子を見ていたアムレットは顔を勢いよく俺の方に向けた。
 その銀色の大きな目は、さらに大きく見開かれている。

「次の授業は実技だって! 教室が違うみたい!!」
「なんだって? おかしいな。俺の持っている表には午後も座学のはずだが」
「え? 見せて……あ! これ、私がもらったやつと違うよ! もしかしたらフィリオ君が休んでいる間に変わったのかも!」
「やってしまったな。場所はわかるか?」
「うん! えーと……第三競技場。だって!!」
「それならここに来る前に通ったな。場所はわかる。急ぐぞ。遅刻だ」
「うん。良かったぁ。私一人だったら、名前はわかっても場所は全然わからなかったもん。やっぱり持つべきものは友達だねぇ」

 アムレットの言葉に若干くすぐったさを感じながら、俺たちは第三競技場へ急いだ。
 閉じていた扉を勢いよく開け、中に入りながらアムレットは叫んだ。

「す、すいません! 遅くなりました‼」

 その声に反応したのか、競技場にいた同級生たちや教師が一斉にこちらへと視線を向けた。
 競技場は座学を受ける教室の数倍はある広い作りをしていて、床の中央と四方の壁、そして天井に魔法陣が描かれていた。
 魔法陣に気を取られた俺に、教師の叱責が飛んできた。

「なんだね、君たちは。このメルビン様の授業を遅刻とは。ありえん! ありえんよ!」

 水色の髪をたっぷりの脂で後ろになでつけた髪型が印象的な教師メルビンは、ゆっくりとした足取りで俺とアムレットのいる入口まで歩いてくる。

「んー? ああ、君かね。確か……休学していたはずだが。全く……才能ないのにもかかわらず自分勝手に休み、出てきたと思ったら、遅刻かね。随分いい身分のようだね?」
「悪いな。授業が変わったことを知らなかったもので」
「言い訳かね! そんなのだから君はいつまで経ってもろくな魔法一つも使えないのだよ! まぁいい! これ以上君一人のために授業を中断するわけにもいかん。さっさとそっちに並びたまえ……ん? そっちの君は誰かね? 見たことすらない顔だね」
「あ、今日から編入しました。アムレット・シルバといいます。遅れてすいません……」

 威圧感のあるメルビンの態度にすっかり委縮してしまったアムレットの顔に、メルビンは息がかかるほど顔を近づけ、飛び出そうなほどの目でじっと見つめた。
 その間、アムレットは明らかに困った顔をして身体を強張らせていたが、動いていいのかわからなかったのか、じっと耐えている。

「ふむ……編入生。ということは君は平民かね。それが揃いも揃って遅刻とは。随分と自分の実力に自信があるようだ。よろしい。では、君の実力を見てやろう。そこの床に書かれている魔法陣が見えるかね? そこに立ちたまえ」
「はい……これでいいですか?」

 メルビンに言われるまま、魔法陣の中心に移動したアムレットのことを、周りはにやけた顔で見つめている。
 そこで俺はあることに気が付いた。
 俺とアムレット以外は教師も含め、その手にそれぞれ杖を持っている。

「さて、シルバ君と言ったね? そこから目の前に見える壁に得意の攻撃魔法を一つ打ってみたまえ」
「え? あ、あの……攻撃魔法ですか?」
「そうだ。なんだ。まさか攻撃魔法の一つも知らないとでもいうのかね?」
「あ、いえ……簡単なのなら……」

 アムレットの表情は優れないが、メルビンはそんなことお構いなしにまくしたてる。

「まったく……一体君の編入を許可した者は誰かね? 攻撃魔法も使えずにどうやって暴動を起こした平民たちを取り押さえるつもりかね? まぁ、何でもいい。後がつかえているのだよ。さっさと魔法を放ちたまえ。それができないならさっさとそこを退きたまえ。しかし、これ以降は私の授業は受けなくてよろしい」
「ま、待ってください! 打ちます! 打ちますから!」

 慌てた様子でアムレットは魔法を唱えた。
 しかし、昼休み中に聞いていた限り、アムレットが得意とする魔法は攻撃魔法とは異なる。
 そのことは本人が一番良くわかっているはずだ。

「衝撃よ!」

 アムレットの言葉に応じるように、小さな空間の揺らめきがアムレットから壁に向かって放たれる。
 無属性魔法の一種で、衝撃波を対象に向かって放つ魔法だ。
 この魔法は視認し難いという利点を持つが、威力を上げるのはなかなか難しい。
 アムレットの放った魔法はやがて壁にぶつかり、何事も起こさず消えた。

「なんだねそれは! そんなひどい攻撃魔法は見たことがない! しかも無属性とは。属性の一つも扱えないのかね? あぁ、いや。そういえばもう一人いたね。すっかり忘れていたよ。なるほど? できない者同士、傷を舐め合っていたというわけかね?」

 メルビンはいやらしい目つきを俺に向けてきた。
 どうやら、本来のフィリオも今のアムレットと同じくらいの魔法しか扱えなかったようだ。

「もういい。君の実力は十分わかった。さっさとそこを退きたまえ。どれ、誰か見本を見せてくれる者はいないかね?」
「はい! メルビン先生! 僕が! このリチャード・フレアがお見せいたします!」
「おお。フレア君かね。よろしい。では早速、貴族の魔法の何たるかをこの能無したちに示してあげなさい」

 メルビンに指名され、リチャードは我が物顔で悠々とアムレットが退いた後の魔法陣の中心へと進む。
 その手には、赤色に輝きを放つ良質な魔石が埋められた杖がしっかりと握られていた。

「では、先生。私は得意である火属性の攻撃魔法を」
「うむ。期待しているよ」

 リチャードは右手で握っていた杖を両手で持ち直し、壁に向けて詠唱を始めた。

「燃え盛れ、火よ!」

 今朝見たリチャードの魔法とは違い、人の頭ほどの大きさの真っ赤な炎が杖の先端から現れ、瞬く間に壁へと飛ぶとぶつかり、音と光を上げて消えた。
 それを見た俺は状況を理解した。
 リチャードが今朝俺に魔法を使ったとき、手加減をしていたわけではない。
 威力が上がった理由は、リチャードの持つ杖だ。
 あの杖には特定の属性を増強する効果がある。

「すばらしい! さすがは赤爵フレア家のご子息だね! 入園してから半年とはとても思えない威力だ! さぁ、次にやりたい者はいないかね?」

 メルビンは辺りを見渡す。
 そしてぎょっとした目で手をまっすぐに上げている俺を見つめた。
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