上 下
18 / 30

椅子取りゲーム事件⑦

しおりを挟む
 僕にそう質問されて八坂くんは自分の行動を振り返る。
 
「そりゃ椅子に座らなきゃいけないんだから、一番近い椅子がどれか決めるために椅子をみてたよ……あっ!」
 八坂くんが気が付いたように他のクラスメイトも気が付いた。

「そう!普通なら八坂くんみたいに椅子を見るはず!そしてラジカセ係の遊部くんもゲームが気になって一度は椅子の方向を見るはず。だけど2人にはそれがなかった」

「それじゃあやっぱり」

「遅沢くんは遊部くんから何秒で音楽が止まるのか知らされていたんだ。だけどそれは目で確認するジャスチャーなどではなく、ここで」
 僕はそういって自分の両耳に手を持ってくる。

「耳……音でってことか。でもどうやって。音で知らせたなら怪しければクラスメイトがすぐに気が付いたはずだ」
 打野くんがなるほどと納得してみせたが新しい疑問にぶつかる。
 足音などの不自然な音だったらすぐにクラスメイトや担持先生が気が付くはず。そこがこの事件の盲点だったんだ。

「2人はスタートの合図によって何秒で止めるのか打ち合わせていたんだ」

「スタートの合図……確か最初は『さあ!椅子取りゲーム、スタート』、次は『みんな!椅子取りゲーム、スタート!』、3回目は『みんな!椅子取りゲーム、スタート!』、最後の4回目は『さあ!最後の椅子取りゲーム、スタート』だったよ」
 久米モカちゃんは自分のメモ帳を見てそう言った。どんな時でもメモをするのを欠かさない通称メモちゃん、さすがだ。
 
「ありがとうメモちゃん。椅子取りゲームのスタート前に、遊部くんは必ず何かしらの言葉を言っている。『さあ』から始まる時は1分で音楽が止まる。そして『みんな』から始まる時は1分30秒で音楽が止まった。遊部くんと遅沢くんは最初の言葉でタイミングを知らせていたんだ!」

「なるほど!そうすればお互いの顔を見る必要なく音楽が止まる秒数を知らせることが出来るってことか!」
 スケットくんがなるほどとうなずく。

「そ、その通りだよ。全部時巻くんの推理通りだよ。みんな本当にごめんなさい」
 遅沢くんは涙を目に浮かべながらそう言った。

「まさか見破られるとは……みんなごめん」
 遊部くんも頭を深く下げる。

「それじゃあ遅沢くんの優勝は取り消しか……ファイヤードラゴンはどうする?」
 打野くんは目をキラキラ輝かせて教壇の上に置いてあったファイヤードラゴンを手に取る。


 そして放課後。
「本当の優勝者を決める決勝戦。打野くんVS助友くん。ミュージックスタート!」
 遊部くんの迫真の司会で、遅沢くんがラジカセのスタートボタンを押した。
 
 キャンプファイヤーでよく流れるおなじみの音楽が教室に鳴っている。
 
 あの後、クラスで話し合った結果、最後に残った打野くんとスケットくんでもう一度決勝戦をすることになった。
 遊部くんは真っ先に手を挙げて遅沢くんと2人でレク係をやらせてほしいと言ってくれたのだ。
 打野くんとスケットくんは真ん中にある椅子を中心に回り始める。椅子の上には商品のファイヤードラゴンが置いてある。音楽が止まってこのファイヤードラゴンを先に取った方が優勝だ。

 遅沢くんはあえて椅子取りゲームが行われている方を見ずに反対側を見ている。そして遅沢くんの指がラジカセのボタンを押した。

 音楽が止まると同時に打野くんとスケットくんは同時に2人の真ん中にある椅子に向かって走り出す。
 ほぼ同時に2人の手が椅子の上にあるファイヤードラゴンに手を伸ばした。

 2人の手はファイヤードラゴンに触れる前にぶつかり合った。
 その衝撃でファイヤードラゴンは宙に浮かぶ。

「あっ!」

 誰かの声が聞こえる。ファイヤードラゴンはそのままあるクラスメイトの方へ飛んで行った。
 
「ファイヤードラゴン……」

 拍手が巻き起こった。見事にすっぽりと遅沢くんの手に収まったファイヤードラゴン。
 手を伸ばしていた打野くんとスケットくんも驚いていたが、一番驚いたのは遅沢くんだった。

「こりゃ遅沢くんの優勝だな、あっはは」
 打野くんは楽しくて笑い出した。それにつられてみんなも笑い出す。

 4年2組の教室に再び笑顔が戻ってきたのだった。
 

 こうして事件は幕を閉じた。
 探偵、時巻モドルの事件簿に記録しよう。

 『ファイヤードラゴン強奪事件とストップのタイミング』
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リトル・ヒーローズ

もり ひろし
児童書・童話
かわいいヒーローたち

太郎ちゃん

ドスケベニート
児童書・童話
きれいな石ころを拾った太郎ちゃん。 それをお母さんに届けるために帰路を急ぐ。 しかし、立ちはだかる困難に苦戦を強いられる太郎ちゃん。 太郎ちゃんは無事お家へ帰ることはできるのか!? 何気ない日常に潜む危険に奮闘する、涙と愛のドタバタコメディー。

たかが、恋

水野七緒
児童書・童話
「恋愛なんてバカみたい」──日頃からそう思っている中学1年生の友香(ともか)。それなのに、クラスメイトの間中(まなか)くんに頼みこまれて「あるお願い」を引き受けることに。そのお願いとは、恋愛に関すること。初恋もまだの彼女に、果たしてその役目はつとまるのか?

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

時空捜査クラブ ~千年生きる鬼~

龍 たまみ
児童書・童話
一学期の途中に中学一年生の教室に転校してきた外国人マシュー。彼はひすい色の瞳を持ち、頭脳明晰で国からの特殊任務を遂行中だと言う。今回の任務は、千年前に力を削ぎ落し、眠りについていたとされる大江山に住む鬼、酒呑童子(しゅてんどうじ)の力の復活を阻止して人間に危害を加えないようにするということ。同じクラスの大祇(たいき)と一緒に大江山に向かい、鬼との接触を試みている間に女子生徒が行方不明になってしまう。女子生徒の救出と鬼と共存する未来を模索しようと努力する中学生の物語。<小学校高学年~大人向け> 全45話で完結です。

えのないえほん 『みいちゃんのおさんぽ』

赤木 さわと
児童書・童話
絵のない絵本です。かわいいひらがないっぱいで書いてます。癒されたい方読んでみて下さい。 幼稚園に入る前の女の子、みいちゃんが経験するおおきな驚き。 短編集です。

夏の城

k.ii
児童書・童話
ひまわりが向いている方向に、連綿とつらなる、巨大な、夏雲の城。 あそこに、きっと、ぼくのなくしてしまったとても大切なものがあるんだ。   ぼくは行く。 あの、夏の、城へ。   * 2006年に創作した児童文学作品です 当時通っていたメリーゴーランド童話塾で一部を発表しました 原稿用紙換算で120枚程だったと思います 13年も過去の作品であり今思えば拙い面も多々あるかと感じますが、記録の意味も含め、WEBに連載形式で初公開します

アイの間

min
児童書・童話
中学2年生の雪。 思春期の彼には、色々と考えることがあるみたいで…。

処理中です...