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椅子取りゲーム事件⑦
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僕にそう質問されて八坂くんは自分の行動を振り返る。
「そりゃ椅子に座らなきゃいけないんだから、一番近い椅子がどれか決めるために椅子をみてたよ……あっ!」
八坂くんが気が付いたように他のクラスメイトも気が付いた。
「そう!普通なら八坂くんみたいに椅子を見るはず!そしてラジカセ係の遊部くんもゲームが気になって一度は椅子の方向を見るはず。だけど2人にはそれがなかった」
「それじゃあやっぱり」
「遅沢くんは遊部くんから何秒で音楽が止まるのか知らされていたんだ。だけどそれは目で確認するジャスチャーなどではなく、ここで」
僕はそういって自分の両耳に手を持ってくる。
「耳……音でってことか。でもどうやって。音で知らせたなら怪しければクラスメイトがすぐに気が付いたはずだ」
打野くんがなるほどと納得してみせたが新しい疑問にぶつかる。
足音などの不自然な音だったらすぐにクラスメイトや担持先生が気が付くはず。そこがこの事件の盲点だったんだ。
「2人はスタートの合図によって何秒で止めるのか打ち合わせていたんだ」
「スタートの合図……確か最初は『さあ!椅子取りゲーム、スタート』、次は『みんな!椅子取りゲーム、スタート!』、3回目は『みんな!椅子取りゲーム、スタート!』、最後の4回目は『さあ!最後の椅子取りゲーム、スタート』だったよ」
久米モカちゃんは自分のメモ帳を見てそう言った。どんな時でもメモをするのを欠かさない通称メモちゃん、さすがだ。
「ありがとうメモちゃん。椅子取りゲームのスタート前に、遊部くんは必ず何かしらの言葉を言っている。『さあ』から始まる時は1分で音楽が止まる。そして『みんな』から始まる時は1分30秒で音楽が止まった。遊部くんと遅沢くんは最初の言葉でタイミングを知らせていたんだ!」
「なるほど!そうすればお互いの顔を見る必要なく音楽が止まる秒数を知らせることが出来るってことか!」
スケットくんがなるほどとうなずく。
「そ、その通りだよ。全部時巻くんの推理通りだよ。みんな本当にごめんなさい」
遅沢くんは涙を目に浮かべながらそう言った。
「まさか見破られるとは……みんなごめん」
遊部くんも頭を深く下げる。
「それじゃあ遅沢くんの優勝は取り消しか……ファイヤードラゴンはどうする?」
打野くんは目をキラキラ輝かせて教壇の上に置いてあったファイヤードラゴンを手に取る。
そして放課後。
「本当の優勝者を決める決勝戦。打野くんVS助友くん。ミュージックスタート!」
遊部くんの迫真の司会で、遅沢くんがラジカセのスタートボタンを押した。
キャンプファイヤーでよく流れるおなじみの音楽が教室に鳴っている。
あの後、クラスで話し合った結果、最後に残った打野くんとスケットくんでもう一度決勝戦をすることになった。
遊部くんは真っ先に手を挙げて遅沢くんと2人でレク係をやらせてほしいと言ってくれたのだ。
打野くんとスケットくんは真ん中にある椅子を中心に回り始める。椅子の上には商品のファイヤードラゴンが置いてある。音楽が止まってこのファイヤードラゴンを先に取った方が優勝だ。
遅沢くんはあえて椅子取りゲームが行われている方を見ずに反対側を見ている。そして遅沢くんの指がラジカセのボタンを押した。
音楽が止まると同時に打野くんとスケットくんは同時に2人の真ん中にある椅子に向かって走り出す。
ほぼ同時に2人の手が椅子の上にあるファイヤードラゴンに手を伸ばした。
2人の手はファイヤードラゴンに触れる前にぶつかり合った。
その衝撃でファイヤードラゴンは宙に浮かぶ。
「あっ!」
誰かの声が聞こえる。ファイヤードラゴンはそのままあるクラスメイトの方へ飛んで行った。
「ファイヤードラゴン……」
拍手が巻き起こった。見事にすっぽりと遅沢くんの手に収まったファイヤードラゴン。
手を伸ばしていた打野くんとスケットくんも驚いていたが、一番驚いたのは遅沢くんだった。
「こりゃ遅沢くんの優勝だな、あっはは」
打野くんは楽しくて笑い出した。それにつられてみんなも笑い出す。
4年2組の教室に再び笑顔が戻ってきたのだった。
こうして事件は幕を閉じた。
探偵、時巻モドルの事件簿に記録しよう。
『ファイヤードラゴン強奪事件とストップのタイミング』
「そりゃ椅子に座らなきゃいけないんだから、一番近い椅子がどれか決めるために椅子をみてたよ……あっ!」
八坂くんが気が付いたように他のクラスメイトも気が付いた。
「そう!普通なら八坂くんみたいに椅子を見るはず!そしてラジカセ係の遊部くんもゲームが気になって一度は椅子の方向を見るはず。だけど2人にはそれがなかった」
「それじゃあやっぱり」
「遅沢くんは遊部くんから何秒で音楽が止まるのか知らされていたんだ。だけどそれは目で確認するジャスチャーなどではなく、ここで」
僕はそういって自分の両耳に手を持ってくる。
「耳……音でってことか。でもどうやって。音で知らせたなら怪しければクラスメイトがすぐに気が付いたはずだ」
打野くんがなるほどと納得してみせたが新しい疑問にぶつかる。
足音などの不自然な音だったらすぐにクラスメイトや担持先生が気が付くはず。そこがこの事件の盲点だったんだ。
「2人はスタートの合図によって何秒で止めるのか打ち合わせていたんだ」
「スタートの合図……確か最初は『さあ!椅子取りゲーム、スタート』、次は『みんな!椅子取りゲーム、スタート!』、3回目は『みんな!椅子取りゲーム、スタート!』、最後の4回目は『さあ!最後の椅子取りゲーム、スタート』だったよ」
久米モカちゃんは自分のメモ帳を見てそう言った。どんな時でもメモをするのを欠かさない通称メモちゃん、さすがだ。
「ありがとうメモちゃん。椅子取りゲームのスタート前に、遊部くんは必ず何かしらの言葉を言っている。『さあ』から始まる時は1分で音楽が止まる。そして『みんな』から始まる時は1分30秒で音楽が止まった。遊部くんと遅沢くんは最初の言葉でタイミングを知らせていたんだ!」
「なるほど!そうすればお互いの顔を見る必要なく音楽が止まる秒数を知らせることが出来るってことか!」
スケットくんがなるほどとうなずく。
「そ、その通りだよ。全部時巻くんの推理通りだよ。みんな本当にごめんなさい」
遅沢くんは涙を目に浮かべながらそう言った。
「まさか見破られるとは……みんなごめん」
遊部くんも頭を深く下げる。
「それじゃあ遅沢くんの優勝は取り消しか……ファイヤードラゴンはどうする?」
打野くんは目をキラキラ輝かせて教壇の上に置いてあったファイヤードラゴンを手に取る。
そして放課後。
「本当の優勝者を決める決勝戦。打野くんVS助友くん。ミュージックスタート!」
遊部くんの迫真の司会で、遅沢くんがラジカセのスタートボタンを押した。
キャンプファイヤーでよく流れるおなじみの音楽が教室に鳴っている。
あの後、クラスで話し合った結果、最後に残った打野くんとスケットくんでもう一度決勝戦をすることになった。
遊部くんは真っ先に手を挙げて遅沢くんと2人でレク係をやらせてほしいと言ってくれたのだ。
打野くんとスケットくんは真ん中にある椅子を中心に回り始める。椅子の上には商品のファイヤードラゴンが置いてある。音楽が止まってこのファイヤードラゴンを先に取った方が優勝だ。
遅沢くんはあえて椅子取りゲームが行われている方を見ずに反対側を見ている。そして遅沢くんの指がラジカセのボタンを押した。
音楽が止まると同時に打野くんとスケットくんは同時に2人の真ん中にある椅子に向かって走り出す。
ほぼ同時に2人の手が椅子の上にあるファイヤードラゴンに手を伸ばした。
2人の手はファイヤードラゴンに触れる前にぶつかり合った。
その衝撃でファイヤードラゴンは宙に浮かぶ。
「あっ!」
誰かの声が聞こえる。ファイヤードラゴンはそのままあるクラスメイトの方へ飛んで行った。
「ファイヤードラゴン……」
拍手が巻き起こった。見事にすっぽりと遅沢くんの手に収まったファイヤードラゴン。
手を伸ばしていた打野くんとスケットくんも驚いていたが、一番驚いたのは遅沢くんだった。
「こりゃ遅沢くんの優勝だな、あっはは」
打野くんは楽しくて笑い出した。それにつられてみんなも笑い出す。
4年2組の教室に再び笑顔が戻ってきたのだった。
こうして事件は幕を閉じた。
探偵、時巻モドルの事件簿に記録しよう。
『ファイヤードラゴン強奪事件とストップのタイミング』
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